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国土交通白書 2020

第3節 地域における移動手段を確保するために

■4 今後の取組みの方向性

(1)地域公共交通の維持

(適切な役割分担)

 地域における交通サービスの維持のためには、事業者、地方公共団体、利用者等の関係者による適切な役割分担について議論を深めていく必要がある。

 また、役割分担の見直しに当たっては、交通事業者同士の連携や官民連携、複数の自治体にまたがる公共交通においては地域を超えた連携等、多様な手法を含めて検討する必要がある。官民連携については、上下分離方式注5による連携が考えられる。例えば、札幌市の路面電車は従来、札幌市交通局が運営していたが、2020年(令和2年)4月より上下分離方式を導入し、施設・車両の保有整備は引き続き札幌市交通局が担い、旅客運送は一般財団法人札幌市交通事業振興公社が担うこととなった。これにより、経営基盤の強化や利用者サービスの向上等の効果が期待される(図表I-3-3-8)。

図表I-3-3-8 上下分離方式の例(札幌市路面電車事業)
図表I-3-3-8 上下分離方式の例(札幌市路面電車事業)

 さらには、事業者や地方公共団体による役割分担だけでなく、利用者や国民全体による費用負担のあり方も含めて議論していく必要があると考えられる。

(持続可能な代替手段)

 既存の交通サービスの維持が困難な場合は、地域の実情に応じて、鉄道からバスへの転換等の代替手段への転換を検討することも有効である。例えば、広島県三次市と島根県江津市を結んでいた三江線(西日本旅客鉄道㈱)は、利用者減少に伴い2018年(平成30年)3月に廃止となったが、代替バス路線を新設したことで交通サービスが維持されている。

 また、鉄道だけでなくバス・タクシー等の交通事業者による輸送サービスの提供が困難な場合には、地域の関係者による協議を経た上で、自家用有償旅客運送を活用することも可能である。

 地域住民の移動手段が途絶えることのないよう、地域の実情に応じた持続可能な移動手段の確保のあり方について関係者が議論を深めていく必要がある。

(2)コンパクトシティと連携した公共交通ネットワークの形成

 地域の移動手段の確保など、生活利便性の維持・向上を図るためには、まちなかや公共交通沿線等へ居住や医療・福祉・商業等の生活サービス機能を誘導するコンパクトなまちづくりと公共交通ネットワークの形成を連携して進めることが重要である。こうした取組みは、国民にとっても魅力的なものと考えられるが、国民意識調査の結果注6からわかるように、認知度は低い状況にあることから、各地域において住民の理解促進を進めていくことが重要と考えられる。

  1. 注5 施設・車両等の資産の保有や整備を行う主体と、旅客運送を行う主体を切り分ける仕組み。一般には、資産の保有や整備は自治体が、運送事業は民間事業者や第三セクターが行う営業形態が多い。
  2. 注6 図表I-3-3-6