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国土交通白書 2020

第5節 新技術をさらに活用するために

インタビュー 「IT技術とコミュニケーションの両立で防災対策を」木場弘子氏(フリーキャスター・千葉大学客員教授)

【地域社会の安心安全】

 交通政策審議会に10年携わり印象に残ったことは、東日本大震災を機に「津波防災まちづくり」に取り組み、ハードとソフトを多重的に組み合わせた防災の仕組みを作ったことです。国民にとってはインフラなどのハード対策のイメージが強い国土交通省ですが、私は、防災に関する対策をしっかりと国民に伝えることも重要と言い続けてきました。どんなにいいシステムや施策を考えても、それが認識されなければ宝の持ち腐れとなってしまうからです。

木場弘子氏

 災害時においては、いかにして一人ひとりに的確に情報を伝えるかが重要です。そのためには、高齢者が増える中、IT技術に頼り過ぎず、アナログ的な対応も必要となります。IT技術を活用した災害情報の発信・共有だけではなく、住民が、日頃から隣近所にどんな人が住んでいるかを把握して、伝言がきちんと伝わっているかを確認、避難が必要なときには隣近所に声をかけ、移動が困難な方がいれば手助けする。こう言ったアナログ的な対応とIT技術を組み合わせて行政が構築した防災のシステムを活かしてほしいと考えます。

 特に防災については、省庁の枠を超えて各自治体に様々な情報が行き渡るように考えてほしいと思います。例えば、どれだけの住民がハザードマップの存在を知っているのでしょうか。防災は人任せでなく、日頃からの備えが必要ですから、私たち国民も行政からの指示待ちではいけません。避難所まで歩いて何分かかるかなど日常の中で確認して備えることが大切です。ここ10年は「未曾有」「前例がない」といった言葉のオンパレードでした。気候変動により、台風の大型化や局所的な大雨は毎年のように起きています。自分の命を守るのは自分であり、国民も意識を変えないといけません。私が非常に印象に残っているのは、6年前、温暖な四国で大雪があり、停電のため千人を超える方が孤立してしまった出来事です。この集落では8~9割がIP電話だったそうですが、停電になると全く使えないというところに思いを馳せることができませんでした。いかに想像力を働かせ、半歩先の可能性に対して備えることが重要かを考えさせられました。

 また、それぞれの地域の状況に応じて災害に備えることが重要です。近年、災害が激甚化・頻発化しているため、これまでの防災マニュアルを臨機応変に書き換えるようにしなければ、対応できないと考えます。直近の災害から得た教訓を生かし、スピード感をもって備えをしてほしいと思います。また、コミュニケーションの点では、近年、個人情報を重視するあまり、地域で情報を共有することや助け合うことが希薄になっていると感じますが、昔言われていた「向こう三軒両隣」の考え方も大切です。

 新型コロナウイルス禍により、仕事は電話やオンラインで効率的に進められるようになり、テレワークの有効性が認識されるようになりました。これにより時間のゆとりができて生活の豊かさの見直しにつながったのではないでしょうか。この時間を使って、災害の備えについて考えて頂ければと思います。

【国土交通省への期待】

 先日、首都圏道路のネットワークをテーマにしたシンポジウムに参加しました。整備による効果を考えると、物流はもちろんですが、少子高齢化や生産性の向上、防災、環境問題、観光など、日本が抱える社会的課題も凝縮していると強く感じました。今後、国交省には関連する分野でこれらの社会的課題の解決のためにIT技術とコミュニケーションを駆使して当たって頂きたいものです。特に、国民とのコミュニケーションの点では、数々の施策は何のために行うのか、なぜ必要なのか、そういった根本が十分伝わるようより一層尽力頂きたいと思います。

 例えば、我が国は、物流の9割以上を船に頼っているにもかかわらず、国民は、港のこと、海運のことをあまり知らないのではないでしょうか。もう少し、港の重要性に興味を持ってもらえるよう、今、注力されている洋上風力の部品を組み立てる中心的な基地港の見学会の機会を作るようなことも有効ではないでしょうか。

 新型コロナウイルスなどの感染症や地球温暖化等による災害は、この先もなくなることはないでしょう。そうであれば、私たちが変化して折り合いをつけて生活していくしかありません。国交省が、国民の生活がうまく変化していけるように、サポートして下さることを期待しています。