
国土交通白書 2020
第2節 観光先進国の実現に向けた取組み
(1)最先端技術を活用した革新的な出入国審査等の実現
関係省庁と連携の下、入国審査の待ち時間を活用して個人識別情報を事前取得するバイオカートの配備港を17空港から20空海港に拡大したほか、日本人出帰国及び外国人出国手続のための顔認証ゲートを羽田、成田、中部、関西、福岡、新千歳空港に導入した。また、事前にアプリで携帯品を電子申告した場合に迅速な通関を可能とする税関検査場電子申告ゲートを成田空港に導入し運用開始した。
さらに、羽田、成田空港では、搭乗関連手続を顔認証により一元化する機器の導入に向け、取り組みを進めた。

(2)民間のまちづくり活動等による「観光・まち一体再生」の推進
拠点駅周辺の案内サイン、バリアフリー交通施設、歩行空間等の整備を支援し、わかりやすく使いやすい歩行空間のネットワークの構築を推進している。
(3)訪日外国人旅行者受入環境
観光地や公共交通機関等における多言語対応、無料公衆無線LAN環境の整備や公衆トイレの洋式化等に対する支援を行った。
また、旅館・ホテル等の宿泊施設におけるインバウンド対応の取組みへの支援を実施した。さらに、飲食・小売店等のバリアフリー化支援を開始した。
また、令和元年7月より、既に消費税免税店の許可を受けている事業者が、地域のお祭り等に臨時出店する場合において、事前の手続により免税販売を可能とした。これにより、地域のイベント等における特産品等の外国人旅行者への販売機会が拡大した。加えて、免税販売手続の電子化(令和2年4月より施行)の円滑な実施のため、関係省庁と協力し、必要となるシステム開発や事業者への周知徹底に取り組んでいる。
さらに「道の駅」について、外国人案内所のJNTO認定取得や多言語表示の整備等のインバウンド対応を促進し、地域のインバウンドの受入拠点とする取組みを推進した。
(4)急患等にも十分対応できる外国人患者受入体制の充実
「外国人患者を受け入れる医療機関」について、令和元年度に約1,970の医療機関をリスト化し、多言語で情報発信を行った。また、引き続き外国人旅行者が医療費の不安なく治療が受けられるように、入国前後の様々な段階において旅行保険への加入を促進した。
(5)「地方創生回廊」の完備
「ジャパン・レールパス」について、訪日外国人旅行者が購入しやすい環境整備のため、令和2年6月より、インターネットを通じたジャパン・レールパス購入及びこれに基づく指定席の予約が可能となった。
さらに、多様な交通モードが選択可能で利用しやすい環境を創出し、人とモノの流れや地域活性化のさらなる促進のため、バスを中心とした交通モード間の接続(モーダルコネクト)の強化を推進している。31年4月には国道15号品川駅西口基盤整備が事業化され、リニア開業時(令和9年)の概成を目標に整備を進めている。今後、官民連携を強化しながら、品川駅及び神戸三宮駅をはじめとする戦略的な集約型公共交通ターミナル「バスタプロジェクト」を全国で展開していく。
訪日外国人旅行者をはじめ、すべての利用者にわかりやすい道案内を実現するため、整備の進む我が国の高速道路ネットワークにおいて、高速道路に路線番号を付す「ナンバリング」を導入し、道路標識に路線名、路線番号、英語表記を記載するよう基準を改定し、全国で令和2年度中に完了する予定である。また、高速道路上で出口を案内する表示とは別の部分に一般道路の行き先地名に関する表示の特例を追加し、経路を把握しやすいよう取り組んでいる。
高速道路会社等が、レンタカーを利用する訪日外国人旅行者向けに、全国の各エリアを対象とした高速道路の周遊定額パスを実施している。
海事分野においては、旅に係る新サービス創出の促進を図るため、平成28年4月から3年間、「船旅活性化モデル地区」制度を設け観光利用に特化した航路の旅客船事業の制度運用を試験的に弾力化した。この結果を踏まえ、31年4月からは「インバウンド船旅振興制度」を創設し、インバウンド等の観光需要を取り込む環境整備を図っていく(令和元年度承認等実績:5件)。
(6)地方空港のゲートウェイ機能強化とLCC就航促進
国際線就航による訪日客誘致の促進のため、平成29年7月より、当該取組みを行う地方空港を「訪日誘客支援空港」として認定し、国際線の新規就航・増便、旅客の受入環境高度化への支援等を実施している。
日本政府観光局においては、航空路線誘致のための国際商談会への参加や、新規就航・増便に合わせた共同広告を実施した。
また、民間の知恵と資金を活用して空港の活性化を目指すため、熊本空港、北海道内7空港、広島空港について、空港運営の民間委託に向けた手続き等を進めた。
さらに、羽田空港の飛行経路の見直しや、成田空港の高速離脱誘導路の整備、中部空港のLCC専用ターミナルの整備、福岡空港及び那覇空港の滑走路増設事業等、空港発着容量拡大等の取組みを進めた。
(7)クルーズ船の受入環境の整備
近年のアジアをはじめとした世界のクルーズ市場の拡大を踏まえ、我が国港湾のクルーズ需要やクルーズ船の大型化に対応し、既存ストックを活用した施設整備を行うとともに、地方公共団体等が行うクルーズ旅客の利便性、安全性の確保等を図る事業に対し、補助制度(国際クルーズ旅客受入機能高度化事業)による支援を実施した。
また、官民連携による国際クルーズ拠点として、平成30年度までに指定した7港に加え、31年4月に2港(下関港、那覇港)を指定した。
さらに、ベトナムにおける現地旅行会社等を対象とした商談会における日本発着クルーズの魅力発信や、上質な寄港地観光プログラムの造成を促進するためのクルーズ船社と寄港地側関係者の意見交換会及び「全国クルーズ活性化会議」と連携したクルーズ船社と港湾管理者等との商談会を開催した。
あわせて、クルーズ旅客等訪日外国人旅行者の満足度向上や地域の経済効果の拡大のため、水上交通や地域の観光資源を活用した新たなツアー造成やインバウンド対応を行うとともに、みなとのにぎわい創出に向けた取組みを進めた。
(8)公共交通利用環境の革新
訪日外国人旅行者のニーズが多い、鉄道車両の無料Wi-Fiについて、令和2年3月にはほぼすべての新幹線車両で導入を完了した。
元年10月からタクシーの乗車前に運賃が確定する事前確定運賃を導入し、2年3月、複数の旅客が相乗りして割安にタクシーを利用できるタクシーの相乗り、需要に応じて迎車料金が変わる変動迎車料金、事業者が利用可能区域や利用回数等の条件を定め、その範囲内で一定期間、定額で乗り放題とする運賃のルール化を図った。
また、大きな荷物を持ち運ぶ不便を解消するとともにオーバーツーリズム対策のため、空港・駅等で荷物の一時預かりや空港・ホテル等へ荷物を配送する手ぶら観光を推進した。(「手ぶら観光」共通ロゴマーク認定数:2年3月末現在566箇所)
平成30年4月に外国人観光旅客利便増進措置が定められたことを受け、31年3月に外国人観光旅客利便増進措置を講ずべき区間等として、鉄道227区間・バス190区間・旅客船12区間・旅客船ターミナル3港・エアライン18事業者・空港ビル64空港を指定し、公共交通事業者等から外国人観光旅客利便増進措置実施計画が提出された。
さらに、31年4月にフェリー・旅客船事業者と経路検索事業者間のデータ共有環境整備に向けて「標準的なフェリー・旅客船航路情報フォーマット」及び「簡易作成ツール」等を策定・公表し、事業者自身による航路情報のデータ整備を支援・推進しているところ、ツールの改良やツール入力支援動画の作成を実施するなどデータ化の促進を図った。
(9)東京2020大会に向けたユニバーサルデザインの推進
平成29年2月に決定した「ユニバーサルデザイン2020行動計画」に基づき、共生社会の実現が東京2020大会のレガシーとなるよう「ユニバーサルデザインの街づくり」と「心のバリアフリー」を推進した。
これに関連して、「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」について、平成30年5月に成立した改正法を平成31年4月に全面施行するとともに、令和2年2月、ハード対策に加え、移動等円滑化に係る「心のバリアフリー」の観点からの施策の充実などソフトの対策を強化する改正法案を第201回国会に提出した。
空港では、旅客ターミナルビル毎に数値目標を設定しており、成田空港及び羽田空港国際線ターミナルでは多機能トイレ又はトイレ機能の分散化、エレベーター増設・改修等を実施した。
バス・タクシーのバリアフリー車両導入促進を図ったほか、東京2020大会関連駅へのエレベーターの増設やホームドアの整備などのバリアフリー化について支援した。
また、旅館・ホテル等の宿泊施設におけるバリアフリー化への改修の支援を実施するとともに、観光案内所において、バリアフリー情報のきめ細やかな発信を可能とするための実証事業を実施した。
28年に東京都、千葉、埼玉、神奈川県内において「2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会に向けた道路標識改善の取組方針」を策定し、英語表記改善、路線番号の活用、ピクトグラム・反転文字の活用、通称名表記・文字サイズ拡大、歩行者系標識の充実等による道路標識の改善に取り組んでいる。更に、全国にもインバウンド効果を波及させるため、全国の標識適正化委員会でも標識改善の取組方針や英語表記規定を作成し、道路標識の改善を進めている。
アクセシブルルートを含む競技会場周辺の道路についても、連続的・面的なユニバーサルデザイン化を推進した。