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国土交通白書 2020

第2節 自然災害対策

■1 防災意識社会への転換

 近年発生した数多くの災害の教訓を踏まえ、行政・住民・企業の全ての主体が災害リスクに関する知識と心構えを共有し、洪水・地震・土砂災害等の様々な災害に備える「防災意識社会」へ転換し、整備効果の高いハード対策と住民目線のソフト対策を総動員する。具体的には、頻発、激甚化する水災害に対しては、施設では防ぎきれない大洪水は必ず発生するとの考えに立ち、社会全体で洪水に備えるため、「水防災意識社会」を再構築するハード・ソフト一体となった取組みを、『「水防災意識社会」の再構築に向けた緊急行動計画』により進めている。さらに、「防災・減災、国土強靭化のための3か年緊急対策」の取組みも含めて、2020年までにハード・ソフト対策を推進する。

 また、昨年の令和元年房総半島台風、令和元年東日本台風等による被害や気候変動により水害、土砂災害、渇水被害の頻発化、激甚化が懸念されている状況を踏まえ、治水計画を「過去の降雨実績に基づくもの」から「気候変動による降雨量の増加などを考慮したもの」に見直すとともに、河川、下水道、砂防、海岸等の管理者が主体となって行う治水対策に加え、集水域と河川区域のみならず、氾濫域も含めて一つの流域として捉え、その河川の流域全体のあらゆる関係者が協働して流域全体で行う治水対策、「流域治水」への転換を進めていく。

 さらに社会経済の壊滅的な被害を回避するための対策については、関東、中部、近畿の各地方整備局において浸水区域外も考慮した被害想定や対策計画を平成29年8月までに公表し、これを踏まえ、「社会経済被害の最小化」を実現するため、ハード・ソフト一体となった防災・減災対策を、省の総力を挙げて進めている。

 切迫する南海トラフ巨大地震や首都直下地震に対しては、平成31年1月に対策計画の改定を行ったところであり、想定される具体的な被害特性に合わせ、実効性のある対策に取り組むことが重要である。このため、南海トラフ巨大地震については、短時間で巨大な津波が押し寄せ、沿岸部を中心に広域かつ甚大な被害が想定されることから、「避難路・避難場所の整備」、「ゼロメートル地帯の堤防の耐震化」、「津波警報等の迅速かつ的確な提供」等を推進していく。また、首都直下地震に対しては、来年開催される東京2020大会に向けた対策が求められることから、「住宅・建築物の耐震化や不燃化」、「道路、港湾、空港、鉄道等の耐震対策や無電柱化による大会会場周辺でのインフラ被害軽減」、「防災情報を一元化した『防災ポータル』の充実など、外国人を含む旅行者の安全確保のための情報提供や避難誘導」等を推進していく。

 さらに、大規模自然災害の発生直後から円滑かつ迅速な被災地支援と災害応急対策を行うため、TEC-FORCEの体制・機能の拡充・強化を図る。

 今後も、国土交通省の「現場力」を最大限活用し、総力を挙げて防災・減災対策に取り組む。

(1)水防災意識社会の再構築に向けた取組み

 近年、全国各地で水害が頻発、激甚化していることを踏まえ、「施設では防ぎきれない大洪水は必ず発生するもの」へと意識を変革し、社会全体で洪水氾濫に備えるため、平成27年12月に「水防災意識社会 再構築ビジョン」を策定し、全ての国管理河川とその沿川市町村において、各地域で河川管理者・地方公共団体等からなる協議会を設置して減災のための目標を共有し、ハード・ソフト対策を一体的・計画的に推進してきた。

 その後、28年8月の台風等による被害を踏まえ、取組みを都道府県管理河川も含めた全国の河川でさらに加速させるため、29年6月に「大規模氾濫減災協議会」制度の創設をはじめとする水防法等の一部改正を行うとともに、「水防災意識社会」の再構築に向けた緊急行動計画をとりまとめた。

 また、30年に発生した平成30年7月豪雨や台風第21号等による課題を踏まえ、30年12月社会資本整備審議会より「多くの関係者の事前の備えと連携の強化により、複合的な災害にも多層に備え、社会全体で被害を防止・軽減させる対策の強化」を対策の基本方針とする、「大規模広域豪雨を踏まえた水災害対策のあり方について」が答申された。この答申を踏まえて、31年1月には「水防災意識社会」再構築に向けた緊急行動計画の改定を行った。具体的な取組みとして、大規模氾濫減災協議会等において、公共交通事業者やメディア関係者等多くの関係者の参画を促進し連携を強化するとしている。さらに、令和元年東日本台風等の課題も踏まえて、「水防災意識社会」を再構築する取組みをより一層、充実・加速していく。

図表II-7-2-1 「水防災意識社会」再構築に向けた取組み
図表II-7-2-1 「水防災意識社会」再構築に向けた取組み
図表II-7-2-2 「住民自らの行動に結びつく水害・土砂災害ハザード・リスク情報共有プロジェクト」
図表II-7-2-2 「住民自らの行動に結びつく水害・土砂災害ハザード・リスク情報共有プロジェクト」

(2)水災害に関する防災・減災への対応

 我が国における平成25年台風第26号による伊豆大島での土砂災害等、米国における24年のハリケーン・サンディによる高潮被害等、台風等に伴う大規模な水災害が頻発化・激甚化している。こうした状況を踏まえ、26年1月に国土交通大臣を本部長とする「国土交通省 水災害に関する防災・減災対策本部」を設置し、同本部の下に「地下街・地下鉄等ワーキンググループ」、「防災行動計画ワーキンググループ」、「壊滅的被害回避ワーキンググループ」を設け、検討を進めている。

 「地下街・地下鉄等ワーキンググループ」においては、地下空間の課題への対応を取りまとめ、関係機関に周知した。これも踏まえ、三大都市圏等において、地下街・地下鉄及び接続ビルが連携した浸水対策が進められている。

 「防災行動計画ワーキンググループ」においては、市町村長が避難勧告等を適切なタイミングで発令できるよう支援する、全国の直轄河川を対象とする避難勧告等の発令に着目したタイムラインの策定や、荒川下流域において、自治体、鉄道、電力、通信、福祉施設など多数の関係者が連携したタイムラインを策定した。これを踏まえ、石狩川(北海道)、球磨川(熊本県)をはじめ、全国各ブロックで協議会を設置し、多数の関係者が連携したタイムラインの検討を進めている。平成28年8月には、「タイムライン(防災行動計画)策定・活用指針(初版)」を策定・公表し、市町村や防災に関係する機関に周知している。また、都道府県管理河川についても、洪水予報河川や水位周知河川を中心にタイムラインの作成を進めている。

 「壊滅的被害回避ワーキンググループ」においては、平成27年1月に公表された「新たなステージに対応した防災・減災のあり方」において、「少なくとも命を守り、社会経済に対して壊滅的な被害が発生しない」ことを目標とし、危機感を共有して社会全体で対応することが必要であるという方向性が示された。これを受け、大規模水害時の社会経済の壊滅的な被害回避に向け、東京・名古屋・大阪において、地方整備局が中心となり、企業等と連携して、停電や鉄道の不通など浸水区域外にも及ぶ被害想定や対策計画を踏まえ、「社会経済の壊滅的な被害を回避する対策」を推進するにあたり、課題となった事項の検討を進める。

(3)気候変動への対応

 気候変動により水害(洪水、内水、高潮)、土砂災害、渇水被害の頻発・激甚化が懸念されている。

 こうした中、気候変動による外力の増加等について定量的に評価するために開催された「気候変動を踏まえた治水計画に係る技術検討会」より、令和元年10月18日に、「気候変動を踏まえた治水対策のあり方 提言」が公表された。本提言では、産業革命以前と比べて世界の平均地上気温を2℃上昇以下に抑えることを前提としたシナリオの場合、一級水系の治水計画で対象とする規模の降雨は、21世紀末には20世紀末と比べて、降雨量が全国平均1.1倍、洪水の発生頻度が2倍になるとの試算結果等が示された。

 この提言等を受けて、気候変動や社会動向を踏まえた今後の水災害対策のあり方を総合的に検討するために令和元年11月7日に社会資本整備審議会に「気候変動を踏まえた水災害対策検討小委員会」が設置された。この小委員会における議論を踏まえ、治水計画を「過去の降雨実績に基づくもの」から「気候変動による降雨量の増加などを考慮したもの」に見直すとともに、これまでの河川、下水道、砂防、海岸などの管理者が主体になって行う治水対策に加えて、集水域と河川区域のみならず、氾濫域も含めて一つの流域として捉え、その流域のあらゆる関係者が協働して行う治水対策、「流域治水」への転換を進めていく。

 今後「気候変動適応計画」(30年11月閣議決定)や「国土交通省気候変動適応計画」(30年11月一部改正)に基づき、気候変動の影響への適応策に取り組む。

(4)南海トラフ巨大地震、首都直下地震への対応

 南海トラフ巨大地震が発生した場合、関東から九州までの太平洋側の広範囲において、震度6弱から震度7の強い揺れが発生し、巨大な津波が短時間で、広範囲にわたる太平洋側沿岸域に襲来することが想定されている。死者は最大で約32万人にのぼり、交通インフラの途絶や沿岸の都市機能の麻痺等の深刻な事態が発生し、我が国全体の国民生活・経済活動に極めて深刻な影響が生じることが想定されている。

 また、首都直下地震が発生した場合、首都圏の広域において震度6弱から震度7の強い揺れが発生することが想定されており、首都圏は、他の地域と比べ人口や建築物、経済活動が極めて高度に集積していることから、人的・物的被害や経済被害が甚大なものになると予想される。さらに、首都圏には政治・行政・経済の首都中枢機能も集積しているため、国全体の経済活動等への影響や海外への波及も懸念されている。

 これらの国家的な危機に備えるべく、多くの社会資本の整備・管理や交通政策、海上における人命・財産の保護等を所管し、また全国に多数の地方支分部局を持つ国土交通省では、平成25年に「国土交通省南海トラフ巨大地震・首都直下地震対策本部」及び「対策計画策定ワーキンググループ」を設置し、省の総力をあげて取り組むべきリアリティのある対策を「国土交通省南海トラフ巨大地震対策計画」及び「国土交通省首都直下地震対策計画」として、平成26年4月1日に策定した。南海トラフ巨大地震については、本対策計画の策定とあわせて、地方ブロックごとに、より具体的かつ実践的な「地域対策計画」を策定した。平成31年1月には、平成28年の熊本地震や平成30年の大阪府北部地震や北海道胆振東部地震など、地域に深刻な影響を与える災害が頻発していることを踏まえ、南海トラフ巨大地震及び首都直下地震対策計画を改定した。

図表II-7-2-3 「国土交通省 南海トラフ巨大地震対策計画」及び「国土交通省 首都直下地震対策計画」改定概要
図表II-7-2-3 「国土交通省 南海トラフ巨大地震対策計画」及び「国土交通省 首都直下地震対策計画」改定概要