国土交通省ロゴ

国土交通白書 2020

特集 新型コロナウイルス感染症への対応

■3 国土交通分野への影響と対応

(1)新型コロナウイルス感染拡大による各分野における影響

 新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、感染予防のため、外出、移動、イベントの開催等の自粛措置が取られていることにより、観光関係業界、交通関係業界等においては、利用者数や予約が大幅に減少し、経営に極めて大きな影響が出ている深刻な状況である。国土交通省においては、こうした各業界における実情を把握するため、アンケートや聞き取り等の調査を実施した。この調査により把握した新型コロナウイルス感染拡大による各産業への影響(売上げや輸送人員、予約状況等)のうち、特に影響が大きなものの概況は以下の通りである。なお、以下の調査結果はすべて5月31日時点のとりまとめ結果である注6

1)宿泊への影響

 宿泊については、宿泊事業者(111施設)に対して調査を実施した。

 宿泊予約について、5月は約9割の施設が70%以上の減少となり、4月からさらに悪化した。6月についても引き続き、約9割の施設が70%以上の減少を見込んでおり、極めて厳しい状況が続く見込みとなった(図表1-1-6)。

図表1-1-6 宿泊の予約状況
図表1-1-6 宿泊の予約状況

2)旅行への影響

 旅行については、旅行事業者(大手10者、中小47者)に対して調査を実施した。

 大手旅行会社の予約人員については、緊急事態宣言の延長等により、4月に引き続き、5月も海外旅行、国内旅行、訪日旅行のすべてが取扱ゼロに近い状況であった。また、中小旅行業者の予約人員については、4月に引き続き、5月は9割以上の減少となった。6月以降も同様の極めて厳しい状況が続く見込みである(図表1-1-7)。

図表1-1-7 旅行の予約状況
図表1-1-7 旅行の予約状況

3)貸切バスへの影響

 貸切バスについては、貸切バス事業者(79者)に対して調査を実施した。

 貸切バス事業者のうち、運送収入が70%以上減少する事業者は、緊急事態宣言の発出後の4月・5月は約9割まで急増しており、6月以降も引き続き厳しい状況が続く見込みである。また、車両の実働率については、 5月は約6%まで減少し、6月以降も約10%と依然として大半のバスが動かない見込みである(図表1-1-8)。

図表1-1-8 貸切バスの収入状況および実働率
図表1-1-8 貸切バスの収入状況および実働率

4)乗合バスへの影響

 乗合バスについては、乗合バス事業者(240者)に対して調査を実施した。

 高速バス等における5月の運送収入については、70%以上減少する事業者は約9割に及び、輸送人員も約9割の大幅な減少となるなど厳しい状況であった。一般路線バスにおける5月の運送収入については、50%以上減少する事業者は6割に達した。また、5月の輸送人員は約5割の減少となり、6月以降も約4割の減少が見込まれている(図表1-1-9)。

図表1-1-9 乗合バスの収入状況および輸送人員状況
図表1-1-9 乗合バスの収入状況および輸送人員状況

5)タクシーへの影響

 タクシーについては、タクシー事業者(261者)に対して調査を実施した。

 タクシー事業者のうち、5月において運送収入が50%以上減少となる事業者は、4月に引き続き約9割に及んだ。6月以降も、6月は約8割、7月は約7割の事業者が、運送収入が50%以上減少すると見込んでおり、引き続き極めて厳しい状況が見込まれている。また、輸送人員については、4月に引き続き5月も69%の減少とさらに悪化し、6月以降も同様に大幅な減少を見込んでいる(図表1-1-10)。

図表1-1-10 タクシーの収入状況および輸送人員状況
図表1-1-10 タクシーの収入状況および輸送人員状況

6)航空への影響

 航空については、本邦航空運送事業者(17者)に対して調査を実施した。

 航空の輸送人員については、国際線は5月が98%減の状況であり、6月も95%減の見込み、国内線は5月が93%減の状況であり、6月も88%減の見込みであった。また、便数については、国際線は5月が95%減の状況であり、6月も95%減の見込み、国内線は5月が74%減の状況であり、6月も72%減の見込みであった(図表1-1-11)。

図表1-1-11 航空の輸送人員状況および便数状況
図表1-1-11 航空の輸送人員状況および便数状況

7)鉄道への影響

 鉄道については、旅客運送を行う鉄軌道事業者(175者:JR旅客会社6者、大手民鉄16者、公営11者、中小民鉄142者)に対して調査を実施した。

 鉄道の輸送人員については、50%以上減少と回答した事業者が、大手民鉄は4月の約2割から5月の約7割へ、公営は4月の6割から5月の9割へ、中小民鉄は4月の約6割から5月の7割へそれぞれ増加している。また、JRの5月の輸送人員実績は前年同月比で80~90%程度の減少であった。このように、鉄道業界全体で大きな影響が見られている。6月以降は、全国の緊急事態宣言解除に伴い、通勤・通学利用等の需要の一定の回復を見込んでいるが、引き続き厳しい状況である(図表1-1-12)。

図表1-1-12 鉄道の輸送人員状況
図表1-1-12 鉄道の輸送人員状況

8)内航・外航旅客船への影響

 内航旅客船については、内航海運(旅客)事業者(92者)に対し、外航旅客船については、国内の定期航路事業者全4者及び、クルーズ船事業者全3者に対して、影響調査を実施した。

 内航旅客船について、観光船(主に観光地に就航する船舶)については、4月に引き続き5月も、全事業者において運送収入か゛70%以上減少の極めて厳しい状況であった。また、観光船以外については、5月における運送収入が70%以上減少した事業者は4月より拡大し、6割以上に及んでいる(図表1-1-13)。

図表1-1-13 内航旅客船の収入状況
図表1-1-13 鉄道の輸送人員状況

 外航旅客船の定期航路事業については、日中航路(1者)は1月26日以降、日韓航路(3者)は3月9日以降、旅客輸送を休止している。クルーズ船事業(邦船社)については、3月~7月は全事業者が運休予定である。

(2)影響を受ける産業等への対応

 国土交通省所管業界を含め、新型コロナウイルスの感染拡大により影響を受ける分野への支援のため、政府として様々な対策を講じてきた。以下、1)雇用の維持と事業の継続、2)官民を挙げた経済活動の回復、3)強靭な経済構造の構築、4)その他の対応という4項目それぞれに係る対策について整理する。

1)雇用の維持と事業の継続

 新型コロナウイルス感染症による経済活動の急速な縮小に伴い、中小・小規模事業者やフリーランスを含む個人事業主を取り巻く環境は極めて厳しく、雇用の維持や事業の継続が危ぶまれている。この危機をしのぎ、次の段階である経済の力強い回復への基盤を築くため、政府として雇用の維持と事業の継続に対する支援を行っている。

(ア)緊急対応策第1弾

 緊急対応策第1弾に基づき、各業界における雇用の維持を目的とした雇用調整助成金の要件緩和を行ったほか、中小企業・小規模事業者の支援を目的とした日本政策金融公庫等における5,000億円の緊急貸付・保証枠の確保等を行った。

(イ)緊急対応策第2弾

 緊急対応策第2弾に基づき、雇用調整助成金の特例措置の拡大を行ったほか、事態の収束後に再度事業を成長の軌道に乗せていくため、中小・小規模事業者等に実質的無利子・無担保の資金繰り支援等を行った。

(ウ)経済対策

 緊急経済対策(4月30日補正予算成立)に基づき、以下の対応を行っている。

・雇用調整助成金の助成率の引き上げや助成対象の非正規雇用労働者への拡充
・日本政策金融公庫等による実質無利子・無担保融資の融資枠の拡充、既往債務の無利子・無担保融資への借換
・中小・小規模事業者等に対する新たな給付金(「持続化給付金」)の創設
・納税の猶予の特例(無担保・延滞税なしで1年間猶予)
・中小企業に対する固定資産税等の減免
・ビル賃貸事業者に対し、家賃支払い猶予等の柔軟な対応の検討を要請するとともに、税制上の支援措置を周知 等

(エ)令和2年度補正予算(第2号)案

 令和2年度補正予算(第2号)案においては、以下の対応を盛り込んでいる。

・雇用調整助成金の助成額上限の引上げ、労働者自らが直接申請できる制度の創設
・日本政策金融公庫等による実質無利子・無担保融資の融資枠の拡充、日本政策投資銀行、商工中金、日本政策金融公庫等における劣後ローンの実施
・家賃支援給付金(仮称)の創設
・地域公共交通の感染防止対策補助金(仮称)の創設

2)官民を挙げた経済活動の回復

 新型コロナウイルス感染症の拡大が収束し、国民の不安が払しょくされた後は、反転攻勢のフェーズとして、今回の事態により甚大な影響を受けた分野に重点的にターゲットを置き、国民広くに裨益する、短期集中の思い切った支援策を講ずることとしている。特に観光業や運輸業は、売上等に甚大な影響を受けた分野であるが、観光需要の回復は感染拡大の防止が前提となることを踏まえ、事態収束に向けた対応として、雇用調整助成金や資金繰り対策により強力に下支えするとともに、重点的なターゲットとして、支援策を講ずることとしている。

(ア)緊急対応策第2弾

 緊急対応策第2弾に基づく対応として、魅力的な滞在コンテンツの造成、多言語表示やバリアフリー化等の訪日外国人旅行者受入環境の整備、観光地の誘客先の多角化等の支援等を行っている。

(イ)緊急経済対策

 緊急経済対策に基づき、甚大な影響を受けている観光業を対象に、「Go To キャンペーン」(仮称)として新型コロナウイルス感染症の拡大が収束した後の一定期間に限定して、官民一体型の消費喚起キャンペーンとして宿泊・日帰り旅行商品の割引と地場の土産物店、飲食店、観光施設、交通機関等で幅広く使用できるクーポンの発行等を行い、観光需要喚起に向けて国を挙げて取り組むこととした(図表1-1-14)。

図表1-1-14 「Go To キャンペーン」(仮称)の概要
図表1-1-14 「Go To キャンペーン」(仮称)の概要

 また、感染症拡大の防止、地域経済・住民生活の支援に加えて、感染症の拡大収束後においても、地方公共団体が地域の実情に応じてきめ細やかに必要な事業を実施できるよう、新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金を創設した。

(ウ)令和2年度補正予算(第2号)案

 令和2年度補正予算(第2号)案においては、家賃支援を含む事業継続や雇用維持等への対応を後押しするとともに、「新たな生活様式」等への対応を図る観点から、新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金を拡充することとしている。

3)強靭な経済構造の構築

 今回の事態の中で進んだ、あるいはニーズが顕在化したテレワークや遠隔教育等のリモート化の取組みを加速し、我が国のデジタル・トランスフォーメーションを一気に進めることとしている。このような取組みを通じて、将来の感染症に対して強靭な経済構造を構築し中長期的に持続的な成長軌道を確実なものとすることとしている。

(ア)緊急経済対策

 緊急経済対策に基づき、BIM/CIM注7の活用への転換や熟練技能のデジタル化により建設生産プロセス等の全面的なデジタル化を進めるとともに、港湾へのライブカメラの設置による検疫時等の情報収集能力の向上やICTを活用した自動車運行管理等の非接触化・リモート化を進めるなど、インフラ・物流分野等におけるデジタル・トランスフォーメーションを通じて、抜本的な生産性向上を図ることとしている。

 また、生産性向上や復旧・復興、防災・減災、インフラ老朽化対策などの国土強靭化等に資する公共投資を機動的に推進することとしている。2019年度補正予算や臨時・特別の措置も含めた2020年度当初予算については、新型コロナウイルス感染症の状況を踏まえつつ、円滑な執行を図ることにより、景気の下支えに万全を期す。

4)その他の対応

 上記の対応のほか、国土交通省として、新型コロナウイルス感染症による影響を受ける産業への支援等のため、以下の対策等を講じている。

・国直轄の工事や業務について、感染防止対策の徹底や受注者の希望に応じた一時中止等を行い、発注者が適切に費用負担することとし、地方公共団体等にもこれを周知。
・タクシー事業者が、緊急事態宣言期間に調整期間を加えた期間(2020年9月30日まで)、有償で貨物運送することを特例的に許可。
・飲食店等を支援するための緊急措置として、十分な歩行空間の確保など歩行者等の安全を確保した上で、沿道店舗前の歩道等を利用してテイクアウトやテラス営業等ができるよう、道路占用の許可基準を緩和(2020年11月30日まで)。この場合に、施設付近の清掃など道路維持管理への協力が行われることを条件に占用料を免除。
  1. 注6 調査結果については下記の国土交通省のウェブページにも掲載している。(https://www.mlit.go.jp/kikikanri/kikikanri_tk_000018.html
  2. 注7 「Building/ Construction Information Modeling, Management」の略。