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国土交通白書 2021

第4節 デジタルトランスフォーメーション(DX)の遅れと成長の停滞

■3 コロナ禍による変化

( 1 )DXの遅れの認識

 人々が我が国のDXの必要性とその遅れを強く意識するようになったきっかけとなったのは、コロナ禍を契機とするテレワークの実践と特別定額給付金の給付に係る手続きではないだろうか。

 第2章第3節で示した通り、我が国における働き方は、柔軟化・多様化があまり進んでいなかった。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、業務やサービスの形態を「新しい生活様式」に対応させる必要が生じ、テレワークの必要性が急速に高まった。また、テレワークの実践に当たって、紙の書類・伝票類を取り扱う業務(押印、決裁、発送、受領等)や対面での業務(対面での説明、会議等)は、テレワークの阻害要因となったため、業務のデジタル化が十分に進んでいなかったことや、これまで対面・リアルで行っていた業務が、オンラインでも実施できることが実感された。このように、テレワークの実践によって、DXの遅れが認識され、これまで根強く存在していた紙・印鑑や対面による業務実施方法をデジタル技術の活用により見直す必要性も認識された。

 また、緊急経済対策として実施された特別定額給付金(国民1人当たり10万円)の給付については、オンライン申請による迅速な支給が期待されたが、行政データのデジタル化が十分に進んでいなかったことにより、自治体職員のアナログな作業に頼る部分が多く、給付に時間を要した。一方、英国や韓国などでは迅速に支給されたことから、改めて我が国の行政のDXが遅れていること、また、行政サービスの向上にDXが必要であることが認識された。

( 2 )DXの加速化

 上述のとおりコロナ禍を契機として、DXの遅れとその必要性が認識されたことから、企業および政府において、DXに関する取組みが進められており、今後我が国におけるDXは加速化すると考えられる。

 コロナ禍を契機として、デジタル施策への取組み状況について尋ねたデータによると、企業の75.5%が「取り組んでいる」回答している(図表Ⅰ-2-4-9)。規模別にみると、「取り組んでいる」企業は、「大企業」で88.6%と9 割近くに達した一方、「中小企業」は72.7%、「小規模企業」は63.0%となった。

図表Ⅰ-2-4-9 デジタル施策への取組み状況と取り組み内容
図表Ⅰ-2-4-9 デジタル施策への取組み状況と取り組み内容

注)左:12,000社を対象に調査。「分からない」は未回答も含む
右:デジタル施策に取り組んでいる企業9,065社を対象に調査。
資料)帝国データバンク「新型コロナウイルス感染症に対する企業の意識調査(2020年8月)」

 また、デジタル施策の取組み内容については、「オンライン会議設備の導入」が60.8%でトップとなった(複数回答、以下同)。次いで、「テレワークなどリモート設備導入」(52.7%)、「ペーパーレス化の推進」(36.2%)、Facebook やTwitter、LINE など「SNS を活用した情報発信」(16.7%)、「電子承認(電子印鑑)の導入」(15.3%)、「オンラインセミナーなどの開催」(15.2%)が上位となった。

 政府においても、2021年9月のデジタル庁(仮称)創設に向けて準備が進められている。また、総務省は、地方公共団体のデジタル化のため、2020年12月に「自治体DX推進計画」を策定するとともに、「(仮称)自治体DX推進手順書」を2021年夏に策定する予定である。

( 3 )多様化への対応

 第2章第1節の通り、コロナ禍により、働き方、生活様式等の多様化が加速している。このため、今後、商品・サービス・システム等を社会の多様化に対応させることが求められる。多様なニーズを的確にとらえ、商品・サービスをそのニーズに合わせて効率的に提供するには、DXが必要である。この点からも、今後、一層のDXの推進が求められる。