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国土交通白書 2021

第1節 危機による変化と課題への対応

インタビュー 最適な交通手段の配置を地域で本気で議論すべき

鈴木文彦氏(交通ジャーナリスト)

 公共交通の専門家で交通ジャーナリストでもある鈴木文彦氏に、ポストコロナにおける地方公共交通の未来についてインタビューしました。

――ウィズコロナにおける国民の移動(通勤・通学、旅行)に対するニーズの変化についてお聞かせください。

通勤・通学ニーズは3 割減程度

 首都圏のテレワークの比率は高いですが、地方ではそれほど多くはない状況です。このため、通勤、通学のボリューム自体は、全国レベルでおそらく3 割減ぐらいでしょう。観光旅行に関しては、一時期増えましたが、Go To トラベルがなければ行かなかったという人が多い。このため、ウィズコロナ中のニーズは、少ない状況のままだろうと思います。

――ポストコロナにおける国民の移動(通勤・通学、旅行)に対するニーズの変化についてお聞かせください。

観光ニーズは増えるが、生活パターンの変化により移動量は減る

 コロナが確実に収束すれば、特に、観光旅行に関するニーズは、反動でかなり増えると思いますが、通院、買い物、通勤・通学などは、行動を控えた様式で生活が成り立って、習慣になると、移動量そのものが減る可能性はあると思います。

 実際に、路線バスやローカル鉄道の利用は、緊急事態宣言の頃に落ちて、6 月ぐらいから持ち直しましたが、例年の8 割ぐらいで止まっています。これは、通勤・通学や旅行を控えているだけではなく、生活パターンが変わってきていることが影響していると思われます。

――ウィズコロナ・ポストコロナにおける移動ニーズの変化も踏まえ、今後、地域公共交通の経営等の状況はどのようになると見込まれますか。

都市間の移動、観光が活発にならないと厳しい状況続く

 例えば、地方の路線バスは、コロナにかかわらず、もともと利用者が減っている状態でした。本来であれば好調である高速バスが打撃を受けているため、バス事業全体で見た時、ダメージが大きいのです。都市間の移動や、観光など日常生活以外での移動が活発にならないと、経営は厳しいと思います。

 バス、鉄道など公共交通は密だから乗らないというイメージを持っている人もかなりいると思いますが、換気をきちんと行っており、危険ではありません。路線バスだったら3 分ぐらい、貸し切りバスでも5 分ぐらいで空気が全部入れ替わります。公共交通は安全安心であるというメッセージを発信する必要性を感じています。

――持続可能な地方公共交通に向けてどのような取組みが必要でしょうか。

ドライバーのシェアなど発想の転換、最適な交通手段の配置を

 バスやタクシーは、ドライバーあっての業種ですが、そのドライバーをどう活用していくかが重要です。例えば、物流と旅客をまたいで必要な時に流用できる仕組みです(バス・タクシーのドライバーを物流へ転換等)。すでに、バスやタクシーの貨客混載はできているので、ドライバーのシェアもできる仕組みが必要ではないでしょうか。

 また、バスに荷物を載せるという貨客混載だけでなく、宅配車に人を乗せるという貨客混載ができれば、これもうまく組み合わせることで、人の移動も、荷物の移動も、かなり効率的にできるはずです。町と町をつなぐバス(貨客混載)と末端輸送の宅配車(貨客混載)をセットにすることによって、確実にバスと車が接続し、輸送手段も確保できます。

 従来の発想だけでは限界が来ています。今後、高齢化して一定の免許返納が進むことを考えると、高齢者を中心に、公共交通による移動ニーズは間違いなく残るので、公共交通は必要です。しかし、変化していく地域の移動ニーズに対応するためには、いろいろな手法を組み合わせていかないと難しいでしょう。まずは、地域の人たちも巻き込んで、どういう手法が望ましいのかという議論をしないといけない。地域のことを一番わかっているのは、自治体や住民なので、自分たちの問題として考えてもらうことが必要です。具体的には、自治体の中に、交通問題を掛け持ちではなく専門に担当する部局を置くことが重要です。私が長年交通政策のお手伝いをしている山口市では交通政策課を置いており、課長を含め5 人配置されています。

 かつては広範囲を網羅することが公共交通ネットワークを確保していくことでしたが、すでにそういう時代ではない。デマンド交通や自家用有償等は限られた地域の中で成立するノウハウであり、それを超えた範囲に安全・確実に人を運ぶ役割を、自家用有償のような手段で全て担うのは困難です。地域間・都市間を結ぶ手段は、安全・確実という点でバス事業者のノウハウが必要だろうと思います。つまり、単純にデマンド交通や自家用有償等に切り替えるのではなく、それぞれの持つノウハウをきちんと発揮できるところに最適な交通手段を配置することが必要です。どこにどの交通手段を張り付けていくかを、事業者・自治体・住民が本気で議論して、最適なものを張り付けていかなければいけません。

鈴木文彦氏
鈴木文彦氏
貨客混載
貨客混載