国土交通省ロゴ

国土交通白書 2021

第1節 危機による変化と課題への対応

■2 災害リスクの増大や老朽化インフラの増加への対応

 第1章第1節2.の通り、我が国は災害が起こりやすい国土であることに加え、近年、自然災害は激甚化・頻発化しており、南海トラフ地震、首都直下地震や日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震といった大規模地震の発生も切迫している。また、第2章第2節の通り、今後、建設から50年以上経過する施設が加速度的に増加するとともに、気候変動の影響による水災害の激甚化・頻発化、災害リスク地域への人口集中、高齢単身者世帯の増加による防災力の低下などの課題が新たに顕在化している。国民の生命・財産を守り、国家・社会の機能を維持するための防災・減災に係る取組みについて記載する。

( 1 )政府全体の取組み

 政府としては、防災・減災、国土強靭化への取組みを加速させ、災害に屈しない強靭な国土づくりを進めるため、2020年12月に「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」を閣議決定した。同対策により、「激甚化する風水害や切迫する大規模地震等への対策」、「予防保全型インフラメンテナンスへの転換に向けた老朽化対策」、「国土強靱化に関する施策を効率的に進めるためのデジタル化等の推進」の各分野について、2025年度までの5か年に追加的に必要となる事業規模を、概ね15兆円程度(国土交通省関係は9.4兆円)を目途と定め、重点的かつ集中的に対策を講ずることとしている(図表Ⅰ-3-1-9)。

図表Ⅰ-3-1-9 防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策 事業規模
図表Ⅰ-3-1-9 防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策 事業規模

注)四捨五入の関係で合計値が合わない場合がある
資料)国土交通省

( 2 )総合的な防災・減災対策

 災害から国民の命と暮らしを守るため、災害リスクに対する脆弱性を克服し、激甚化・頻発化する災害や、切迫する大規模地震に立ち向かうため、行政機関、民間企業、国民一人ひとりが、意識・行動・仕組みに防災・減災を考慮することが当たり前の社会となる「防災・減災が主流となる社会」を構築することが必要である。その実現に向けて、総合的な防災・減災対策を講ずる。

(流域治水の推進)

 気候変動による水災害リスクの増大に対応するため、集水域と河川区域のみならず、氾濫域も含めて一つの流域ととらえ、流域に関わるあらゆる関係者(国・都道府県・市町村・企業・住民等)により、地域の特性に応じ、ハード・ソフトの両面から流域全体で治水対策に取り組む「流域治水」を推進する(図表Ⅰ-3-1-10)。

図表Ⅰ-3-1-10 流域治水イメージ
図表Ⅰ-3-1-10 流域治水イメージ

資料)国土交通省

 その実効性を高めるため、「特定都市河川浸水被害対策法等の一部を改正する法律(通称:流域治水関連法)」(令和3年法律第31号)が令和3年5月に公布予定である。

 具体的には、氾濫をできるだけ防ぐ・減らすための対策として、堤防整備、河道掘削、ダム建設・再生、砂防関係施設や雨水排水網の整備等を進める。また、被害対象を減少させるための対策として、土地利用規制・誘導、止水板設置、不動産業界と連携した水害リスク情報提供等を進める。さらに、被害の軽減・早期復旧・復興のための対策として、マイ・タイムラインの活用、危機管理型水位計、監視カメラの設置・増設等を進める。

動画

流域治水への転換~激甚化する豪雨災害から命と暮らしを守る~

URL:https://youtu.be/BQBWd56yV_4

(防災・減災のためのすまい方や土地利用の推進)

 水災害の激甚化・頻発化に対応し、人々のいのちとくらしを守るためには、ハード整備だけではなく、人々の住まい方や土地利用についても、自然災害リスクの抑制の観点から、そのあり方の見直しが必要である。このため、災害ハザード情報の更なる活用、都市開発プロジェクトにおける防災・減災対策の促進などにより、防災・減災のための住まい方や土地利用を推進し、災害による被害対象の減少や被害の軽減を図る(図表Ⅰ-3-1-11)。

図表Ⅰ-3-1-11 土地利用規制・誘導
図表Ⅰ-3-1-11 土地利用規制・誘導

資料)国土交通省

 具体的には、まず、災害ハザードエリアにおける新規開発を抑制する。このため、災害レッドゾーン(土砂災害特別警戒区域等)では自己の業務用施設(店舗、病院、社会福祉施設、旅館、ホテル、工場等)の開発を原則禁止の対象に追加し、市街化調整区域の浸水想定区域のうち洪水等の発生時に生命又は身体に著しい危害が生ずるおそれがある区域及び土砂災害警戒区域においても、開発許可を厳格化することとしている。

 また、災害ハザードエリアから住宅等の移転を促進する。立地適正化計画の居住誘導区域から災害レッドゾーンを原則除外するとともに、移転する施設・住宅への登録免許税の特例措置の創設等、移転促進のためのインセンティブを強化している。

 さらに、水災害リスクを踏まえた防災まちづくりを促進する。防災まちづくりに活用できる水災害に関するハザード情報の充実や、水災害リスクを踏まえた、防災まちづくりを進めるための基本的な考え方を示すガイドラインを策定・周知する。また、都市開発プロジェクトに併せて実施される水災害対策に資する取組を評価し、当該プロジェクトにおける建築物の容積率の最高限度を割り増す考え方について地方公共団体に周知している。

(交通・物流の機能確保)

 災害発生時に救命・救助活動が行われ、災害発生後も速やかに復旧・復興するためには、道路ネットワークの強靭化が重要である。このため、高規格道路のミッシングリンクの解消、暫定2車線区間の4車線化、橋脚等の流出防止対策、高規格道路と代替機能を発揮する直轄国道とのダブルネットワークの強化等を推進し、災害に強い国土幹線道路ネットワークの構築、機能強化を推進する。

 鉄道分野においても、災害発生時の機能確保のため、鉄道橋脚の流失・傾斜対策、土砂流入防止対策、地下駅や電源設備等の浸水対策、主要駅、高架橋、トンネル等の耐震対策、予防保全に基づいた鉄道施設の老朽化対策等を推進する。

(港湾における総合的な津波対策)

 港湾においては、ハード・ソフト一体となった総合的な津波対策として、最新の津波被害想定等を踏まえ、設計津波を超える規模の強さを有する津波に対し、構造の安定に対する重大な影響を可能な限り遅らせる「粘り強い構造」を導入した防波堤の整備、水門・陸閘の統廃合による常時閉鎖等の措置、比較的規模の大きな水門・陸閘等の自動化・遠隔操作化の促進、既存ビル等の避難所としての活用等を進める(図表Ⅰ-3-1-12)。さらに、海上交通ネットワークの機能確保のため、港湾の高潮・高波対策、走錨した船舶による海上空港等の施設や他の船舶への衝突事故対策、港湾のBCP強化等を推進する。

図表Ⅰ-3-1-12 総合的な津波対策
図表Ⅰ-3-1-12 総合的な津波対策

資料)国土交通省

(安全・安心な避難)

 地域防災力の向上のためには、住民一人一人が避難行動を地域とともに自ら考え、自助、共助を醸成し、風水害・土砂災害・地震・津波・噴火・豪雪・原子力災害等に備えることが重要である。また、誰もが迅速かつ円滑に避難出来る環境整備が必要である。このため、ハザードマップ等を用いて、自らの災害リスク等を知り、災害時に「いつ」「何をするのか」を整理したマイ・タイムライン(図表Ⅰ-3-1-13)について、普及拡大のための手引き等の作成や地域と連携した人材育成を推進している。

図表Ⅰ-3-1-13 マイ・タイムラインのイメージ
図表Ⅰ-3-1-13 マイ・タイムラインのイメージ

資料)国土交通省

 また、ゼロメートル地帯で大規模浸水が発生した場合でも、建物から浸水区域を経由せず高台などへ安全に避難できる高台まちづくり(図表Ⅰ-3-1-14)や、道路高架区間の津波等からの一時避難場所としての活用等を推進する。

図表Ⅰ-3-1-14 高台公園を中心とした高台まちづくり
図表Ⅰ-3-1-14 高台公園を中心とした高台まちづくり

資料)国土交通省

 さらに、避難時における新型コロナウイルス感染症への対応のため、避難場所における換気機能の導入、避難所として提供可能かつ3密対策を実施しているホテル・旅館等のリストを作成、地方公共団体へ提供するなど、安全・安心な避難を行うための事前対策を推進する。

(インフラ老朽化対策)

 今後、建設後50年以上経過するインフラの割合が加速度的に増加する見込みであることを踏まえ、インフラが将来にわたって適切に機能を発揮できるように、維持管理・更新に係るトータルコストの縮減及びインフラメンテナンスの高度化・効率化等が必要である。

 このため、インフラの機能に不具合が生じてから対策を行う「事後保全」ではなく、インフラの劣化状況や利用状況を踏まえて、不具合が生じる前に、計画的に修繕等の対策を行う「予防保全」へ本格転換する(図表Ⅰ-3-1-15)。「予防保全」でのインフラにおける将来の維持管理・更新費用の推計では、「事後保全」と比較し、2048年度の1年あたりの費用は約5割減少となることから、将来に係る維持管理・更新費用を抑制する観点からも「予防保全」によるメンテナンスサイクルへの移行が重要である。

図表Ⅰ-3-1-15 予防保全のイメージ
図表Ⅰ-3-1-15 予防保全のイメージ

資料)国土交通省

 また、多くのインフラを維持する市区町村では、メンテナンスに携わる人的資源が不足する場合があることから、インフラメンテナンス国民会議等の機能強化による多様な主体との連携や、新技術導入の手引きの作成や新技術導入に係る補助金の重点配分等による新技術等の導入促進など、メンテナンスの生産性向上に向けた取組みを推進する。

 さらに、人口減少や将来のまちづくり計画等、地域の実情に応じ、インフラの廃止・除却や機能転換を行い、インフラストックの適正化を図っていく。

(地域防災力の強化)

 第2章第2節災害リスクの増大や老朽化インフラの増加の通り、人口減少・高齢化の進行により、都市部も含め、地域防災力の低下が懸念されている。地域防災力の維持・向上を図るため、インフラ老朽化対策を着実に進めるとともに、土地の適正な利用・管理の促進、災害リスクに対応するための連携体制や支援体制の構築、担い手の確保・育成の取組等を推進する。

 土地の適正な利用・管理の促進については、改正土地基本法に基づく土地基本方針に則り、管理不全・管理者不明土地等対策を推進する。また、災害後の迅速な復旧・復興等を図るため、土地の境界等を明確化する地積調査について、新たな調査手続の活用等により円滑化・迅速化する。

 連携体制・支援体制の構築については、国が道路啓開や災害復旧事業を代行できる対象について、道路法を改正し注5、全ての地方管理道路に拡充した。河川の災害復旧についても、河川法を改正し注6、国が災害復旧工事や改良工事等を代行できる対象について、準用河川まで拡大するとともに、支援メニューに、洪水や土砂崩れなどで河川に堆積した土砂や流木の排除も追加した。また、三大都市圏等において、河川管理者・地下街・地下鉄・隣接ビル等の関係者による協議会を設置し、計画運休・休業要請等の実施に向けた、多機関連携タイムラインを作成する。さらに、建設業者等とTEC-FORCEが一体的に活動できるよう、災害協定の締結の支援や連携体制を強化する。自治体と運送事業者についても、災害協定の締結を支援している。

 担い手の確保・育成については、防災・減災を支える建設技能者の処遇改善を図るため、建設キャリアアップシステム注7について、国直轄事業において、義務化モデル工事や活用推奨モデル工事を実施することで活用促進し、2023年度から、民間工事も含めてあらゆる工事において完全実施する。

(新技術の活用による防災・減災対策の高度化・迅速化)

 災害予測・災害状況把握・災害復旧・被災者支援の一連の流れを高度化・迅速化するためには、新技術を活用することが不可欠である。具体的には以下の取組等を推進する。

 気象予報や災害予測について、新たな気象レーダーやAI技術を活用することにより、気象予測を長期化・高精度化する。また、突風の探知による緊急停止など列車運転規制を高度化するため、AIによる突風探知精度を向上するための技術開発を推進する。

 避難について、AIを用いた公共交通のリアルタイム混雑状況の提供・予測により、災害時の混雑を緩和する。これにより新型コロナウイルスの感染拡大防止にも寄与する。また、ドライバーへ危険・避難情報を一斉配信できるコネクテッドカーの開発・普及を促進する。

 災害状況の把握については、AIを活用した交通障害検知、ドローンやAI等を活用した浸水状況の把握、カメラやAIなどを活用した鉄道線路、道路法面、港湾施設、航路標識等の被災・変状の早期把握等について、実証実験や技術開発を推進する。

 災害復旧については、空港内における除雪車の運転や操作の省力化・自動化、5G等を活用した無人化施工技術の導入促進、地震による堤防被災状況を迅速に解析し、洪水リスクを踏まえた復旧の優先順位を提示するシステムの活用等について、実証実験等を推進する。

 被災者支援については、電気自動車等の給電機能を活用した停電地域における電力供給支援等を行う。

(わかりやすい情報発信)

 災害に関する情報提供については、行政から、大雨特別警報やハザードマップなどにより発信しているが、住民や事業者の具体的な行動につながっていない事例もある。このため、分野連携や新技術も活用しつつ、国民目線に立って、いのちとくらしを守るわかりやすい情報発信を推進する。具体的には以下の取組等を推進する。

 「大雨特別警報の解除」を安心情報と受け取った住民が被災する事例があったことから、「特別警報の解除」を「警報への切替え」と表現を改善し、切替えに合わせて今後の河川水位上昇の見込みなどの災害情報を発表し、注意喚起することとした。

 また、前述の(流域治水等の推進)の通り、流域におけるあらゆる関係者により協働して治水対策に取り組むこととしているが、そのためには、河川対策・流域対策・ソフト対策からなる「流域治水」の全体像を分かりやすく提示することが必要である。このため、河川管理者に加え、都道府県、市町村等の関係者による協議会を全国の1級水系において設立し、「流域治水プロジェクト」を策定・公表する。2級水系についても順次策定・公表する。

 このほか、津波警報を聴覚障がい者などに確実に伝え、速やかに避難を促すための「津波フラッグ」(図表Ⅰ-3-1-16)を用いた伝達手法の周知・普及、災害や地名の予備知識のない外国人旅行客に正確な情報を伝えるための用語集の交通事業者等への提供、水害や土砂災害に関する用語について、住民や報道機関にとってわかりやすく、的確な判断・行動に繋がるものへ改善する。

図表Ⅰ-3-1-16 津波フラッグ
図表Ⅰ-3-1-16 津波フラッグ

資料)国土交通省

動画

「津波フラッグ」は避難の合図

URL:https://www.youtube.com/watch?v=1_x7fyzRtKo

(令和2年7月豪雨の教訓を踏まえた対策)

 第1章第1節2.災害の激甚化・頻発化の通り、令和2年7月豪雨においては、九州地方をはじめとして、全国広範な地域において甚大な被害が発生した。この災害における教訓を踏まえ、下記の通り防災・減災対策を強化する。

 令和2年7月豪雨では、次々と発生した積乱雲により線状降水帯が形成され、数時間にわたり同じ地域に大雨が降り、多大な被害をもたらした。これを踏まえ、線状降水帯の予測精度向上の取組みを加速させるとともに、線状降水帯による集中豪雨に対する情報を段階的に提供し、国民一人一人に危機感を伝え、防災対応につなげていく。

 熊本県球磨村の特別養護老人ホームにおいては、避難確保計画を作成し訓練を実施していたものの、14名の入居者が犠牲になる大きな被害が発生した。これを受けて、国土交通省と厚生労働省が共同で設置した有識者会議において、要配慮者利用施設における避難の実効性を高める方策を取りまとめ・公表し取組を推進している。

 道路における被害として、球磨川沿いの10橋梁の流失、河川隣接区間の道路の流失、道路区域外での大規模土砂崩落の影響による道路の寸断など、新たな特徴的な道路災害リスクが判明した。これを受けて、通行止めが長期化する渡河部の橋梁流失や、河川隣接区間の道路流失等の防止のための洗掘・流失対策や、高度化された点検手法等により新たに把握された災害リスク箇所に対する法面・盛土対策を推進する(図表Ⅰ-3-1-17)。

図表Ⅰ-3-1-17 令和2年7月豪雨による橋梁流失と対策イメージ
図表Ⅰ-3-1-17 令和2年7月豪雨による橋梁流失と対策イメージ

資料)国土交通省

 このほか、受け手に「伝わる」警戒情報等の発信や表現の改善等を推進する。

動画

球磨川線状降水帯動画

出典:日本気象協会(SIP:内閣府戦略的イノベーション創造プログラム)

URL:https://youtu.be/JKJyDsF1BWc

  1. 注5 道路法等の一部を改正する法律(令和2年法律第31号)
  2. 注6 特定都市河川浸水被害対策法等の一部を改正する法律
  3. 注7 技能者ひとり一人の就業実績や資格を登録し、技能の公正な評価、工事の品質向上、現場作業の効率化などにつなげるシステム