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国土交通白書 2021

第1節 危機による変化と課題への対応

■3 多様化への対応

 第2章第3節多様化を支える社会への変革の遅れの通り、コロナ禍を契機にテレワークが普及し、働き方、住まい方、生活様式等の多様化が加速している。多様性を包摂することは、生産性の向上、商品・サービスの付加価値向上と競争力の強化、人々の幸福や社会の活力の向上、イノベーションの創出等につがなる。しかし、これまで我が国は、働き方等の面で、多様性を十分に支える社会となっていなかった。このため、コロナ禍による多様化の加速という変化をとらえ、多様化を一層支援・促進する取組が必要である。本節ではそれらに関する取組みについて記載していく。

( 1 )働き方、住まい方の多様化への対応

(テレワーク拠点整備)

 コロナ禍を契機とした新たな働き方・住まい方に対応するため、コンパクト・プラス・ネットワークの取組みを前提とした職住近接・一体の生活圏を形成することが必要となっている。このため、地方都市の中心市街地の生活圏等においてテレワーク拠点の整備を促進するため、都市構造再編集中支援事業において、補助対象事業の基幹事業(高次都市施設注8)にテレワーク拠点施設を追加し、その整備を支援することとした。

 当該事業においては、都市再生整備計画の区域が立地適正化計画において「都市機能誘導区域内」又は「居住誘導区域内」として定められている地区において、市町村等が、都市機能の高次化を図るための施設(高次都市施設)を整備する際、一定の基準を満たした場合に補助を行う。現在、高次都市施設として地域交流センター、観光交流センター等の施設が支援対象とされているところ、今般、これに、コワーキングスペース等のテレワーク拠点施設を追加した(図表Ⅰ-3-1-18)。

図表Ⅰ-3-1-18 都市構造再編集中支援事業の拡充(テレワーク拠点施設を補助対象事業に追加)
図表Ⅰ-3-1-18 都市構造再編集中支援事業の拡充(テレワーク拠点施設を補助対象事業に追加)

資料)国土交通省

(女性活躍の促進)

 人手不足が深刻化する中、業界の活性化や働き方の多様化を進めるためには、一般的に「男性の仕事」と思われがちな業界を、男女問わず誰もが働きやすい業界とすることが重要である。そこで、国土交通省では、例えば、建設産業においては、2020年1月に、働きつづけられるための環境整備を中心に「女性の定着促進に向けた建設産業行動計画」を策定し、官民を挙げた目標を掲げ、各種取組みを進めている。この他、トラック運送業界においては女性トラックドライバーを「トラガール」と、船員や造船・船用工業など海事分野では、働く女性を「フネージョ」と名付け、女性活躍推進の取組みを進めている。

( 2 )多様なニーズへの対応

(「新たな旅のスタイル」の促進)

 従来の日本の観光スタイルは、特定の時期に一斉に休暇取得し、宿泊日数が短いといった特徴があり、観光需要の集中や観光消費額の伸び悩みという課題につながっていた。そのため、テレワークなどの働き方の多様化も踏まえ、ワーケーション・ブレジャー等の「新たな旅のスタイル」を普及し、より多くの旅行機会の創出や観光需要の平準化を図ることが重要である。

 このため、2020年10月、有識者、関係省庁、経済界、観光関連業界等の様々な関係者から成る「新たな旅のスタイル」に関する検討委員会」を設置した。この検討会での議論も踏まえ、国土交通省では、感染リスクを軽減する「新たな旅のスタイル」を普及させるとともに、休暇取得や分散化を促進するため、企業を対象としたモデル事業支援、企業向けセミナー、ウェブサイト注9やメディアによる情報発信等を行っている(図表Ⅰ-3-1-19)。

図表Ⅰ-3-1-19 新たな旅のスタイル普及のためのウェブサイト
図表Ⅰ-3-1-19 新たな旅のスタイル普及のためのウェブサイト

資料)国土交通省

【関連リンク】

出典:政府広報オンライン

【建設業女性活躍キャンペーン】おうちクラブが建設技能を教える学校に潜入! URL:https://www.mlit.go.jp/page/kanbo01_hy_005213.html

動画

ワーケーションの紹介動画

URL:https://www.youtube.com/watch?v=FsLftzRGP_E

(地域と企業の環境整備、マッチング等)

 「新たな旅のスタイル」の普及に欠かせないのは、主体となる受け手(地域)側の環境整備と送り手(企業)側の当該取組みそのものの認知である。このため、国土交通省では、まず受け手となる地域に対しては、ワーケーション、ブレジャー、サテライトオフィス需要に対応した環境整備や、滞在型旅行の実現のためのコンテンツ整備に対する支援を行っている。そして、送り手となる民間企業に対しては、旅行者、企業経営者等に対する普及啓発を行っている。加えて、受け手・送り手双方を対象としたモデル事業の実施や、旅行会社向けに「新たな旅のスタイル」に合わせた旅行商品の造成支援を行っている。これらにより、感染リスクを軽減しつつ、より多くの旅行機会の創出や旅行需要の平準化を図る(図表Ⅰ-3-1-20)。

図表Ⅰ-3-1-20 新たな旅のスタイルの企業向けパンフレット
図表Ⅰ-3-1-20 新たな旅のスタイルの企業向けパンフレット

資料)国土交通省

(旅行消費の増加に向けた取組み)

 ポストコロナ時代においてもインバウンドには大きな可能性があり、2030年訪日外国人旅行者数6000万人、訪日外国人旅行消費額15兆円などの目標達成に向け、観光先進国の実現に取組むことが必要である。特に、訪日旅行者の長期滞在と消費拡大に向けては、これまでわが国が誘致しきれていない富裕層など、上質な観光サービスを求め、これに相応の対価を支払う旅行者のニーズをとらえ、訪日、滞在の促進を図ることが急務である。

 このため、世界レベルの上質な宿泊施設の整備やコンテンツの磨き上げを中心に、サービスを支える人材の確保・育成や効果的なプロモーションを含め、世界中の旅行者を惹きつける上質な観光体験を実現するための一体的な取組みを、官民挙げて迅速かつ強力に推進する。これにより、我が国の観光産業のサービスの多様化と付加価値向上のみならず、地方創生にも大きく寄与することが期待される。

(高付加価値・長期滞在型コンテンツの造成)

 海外からの活力を取り込むため、また、国内観光需要の増加のため、四季豊かな日本の自然を活用することも有効である。そこで、国土交通省では、その地域ならではの豊かな資源を活用し、スノーリゾートやアドベンチャーツーリズム、ナイトタイム等、高付加価値・長期滞在型コンテンツの造成を図る。

 例えば、スノーリゾートは、地方での長期滞在や消費拡大に向けての有力なコンテンツの一つである。そこで、スノーリゾートへのインバウンド需要をタイムリーかつ的確に取り込むため、インバウンド需要を取り込む意欲があり、ポテンシャルが高い地域における国際競争力の高いスノーリゾート形成のための取組みを促す。具体的には、地域が策定する「国際競争力の高いスノーリゾート形成計画」に位置付けられた、訪日外国人旅行者の受入環境整備やスキー場等のインフラ整備、アフタースキーやグリーンシーズンのコンテンツ造成などの取組みに対し補助を行う。これにより、観光客の快適性・満足度の向上や、通年での誘客の促進といった効果が期待される。

 そのほか、いわゆるアドベンチャーツーリズムのような、3密を避けつつ、日本の本質を深く体験・体感する、新たなインバウンド層への訴求力が高い体験型観光コンテンツ等を造成することも有効である。そこで国土交通省では、アドベンチャーツーリズムのモデルツアーの造成やガイド人材の育成、長期滞在型観光の強化に資する建物等の改修・購入等への補助を行っている。一例としては、北海道における流氷ウォーキング・クルーズ、トレッキング、アイヌ文化体験などが挙げられる。その他、城、社寺、古民家、グランピング等、個性ある宿泊施設の整備等も行う。これらの取組みは、外国人旅行者を含む観光客に日本の自然の良さをより知ってもらう機会にもなるため、その訪れた地域や日本へのリピーターの増加にも繋がることが期待される(図表Ⅰ-3-1-21)。

図表Ⅰ-3-1-21 長期滞在型コンテンツの造成や個性ある宿泊施設の整備
図表Ⅰ-3-1-21 長期滞在型コンテンツの造成や個性ある宿泊施設の整備

資料)国土交通省

(MaaSの推進)

 MaaS(マース:Mobility as a Service)とは、地域住民や旅行者一人一人のトリップ単位での移動ニーズに対応して、複数の公共交通やそれ以外の移動サービスを最適に組み合わせて検索・予約・決済等を一括で行うサービスである。MaaSは、人々の多様な移動ニーズに対し、様々な交通モードを組み合わせて、的確かつ効率的に対応することが可能である。また、MaaSを通じて、移動と、買い物、観光、医療・福祉等を組み合わせた多様なビジネスを創出することも可能である。国土交通省としては、MaaSの普及のため、全国での社会実装の推進や、交通関連情報のデータ化や標準化を推進している。詳細は、第3章第1節4.DXの推進等による成長の実現の通りである。

( 3 )バリアフリーの推進

(歩行空間における自律移動支援の推進)

 高齢者や障害者をはじめ、自動走行モビリティ等も含むあらゆる人や物がストレスなく自由かつ安全に移動できるユニバーサル・スマート社会を構築するため、ICT を活用した歩行空間ネットワークデータの活用を推進する。具体的には、歩行空間ネットワークデータと MaaS 等の移動支援ツールの連携可能性について調査するとともに、自動走行モビリティ等の新たな移動主体による同データの活用を促進するため、データ形式の見直しに向けた検討を行う。また、教育機関、高齢者施設等との連携による歩行空間ネットワークデータの効率的な整備手法や、より簡易なデータの収集・更新手法を検討することで、多様な主体によるデータ整備・更新を促進する。さらに、歩行空間における自律移動支援サービスの周知広報を推進するとともに、歩行空間情報のさらなる利活用促進に向けた新たなアイデア発掘のための取組を推進する。

(心のバリアフリーの強化)

 高齢者、障害者等が安心して社会生活を送れるようにするためには、施設整備(ハード面)だけではなく、高齢者、障害者等の困難を自らの問題として認識し、その社会参加に積極的に協力する「心のバリアフリー」が重要である。このため、国土交通省では、全国で「バリアフリー教室」の開催や旅客施設のエレベーターやトイレ等の利用マナー啓発の取組みを行っている。

( 4 )対流・交流の活発化

(「居心地が良く歩きたくなる」まちなかづくり)

 生産年齢人口の減少や、社会経済の多様化に対応するためには、まちなかにおいて多様な人々が集い、交流することのできる空間を形成し、まちの魅力を向上させることが必要である。このため、国土交通省では、市町村による街路の広場化など歩行者滞在空間の創出や、民間事業者による民地部分のオープンスペース化といった、「居心地が良く歩きたくなる」まちなかづくりのための取組を、法律・予算・税制等のパッケージにより支援している。

 具体的には、「都市再生特別措置法等の一部を改正する法律(令和2年法律第43号)」により、都市再生整備計画に「居心地が良く歩きたくなる」まちなかづくりに取り組む区域(滞在快適性等向上区域)を設定し、以下二点の取組みを推進している。

 第一に、「居心地が良く歩きたくなる」空間を創出する。例えば、公共による街路の広場化と民間によるオープンスペース提供といった、官民一体で取り組むにぎわい空間の創出への支援や、まちなかエリアにおける駐車場出入口規制等の導入等である。第二に、まちなかを盛り上げるエリアマネジメントを推進する。地域におけるまちづくり活動を行う法人として市町村が指定した法人(都市再生推進法人)がコーディネートする道路・公園の占用手続の円滑化等である。これらの施策によって、民間の様々なイベントの展開や、インバウンドの増加と相まって、多様な人材が集う空間へ転換し、活気あるまちなかの創出が実現される(図表Ⅰ-3-1-22)。

図表Ⅰ-3-1-22 駅前のトランジットモール化と広場創出(姫路駅北駅前広場)
図表Ⅰ-3-1-22 駅前のトランジットモール化と広場創出(姫路駅北駅前広場)

資料)国土交通省

動画

【ダイジェスト版】まちづくりクリップ~取組みのヒントを事例から~

URL:https://www.youtube.com/watch?v=lQ8ogExxSFY

(公園緑地の整備等によるオープンスペースの充実)

 公園、広場、緑地等のオープンスペースは、人々の毎日の暮らしにとても身近な空間であるとともに、観光・活力・子育て・防災・環境・景観・文化的な価値を有する空間でもある。このため、地域活性化や賑わい創出、子育て支援の場となるだけでなく、災害時の避難地や防災拠点としても機能する。また、新型コロナウイルスの感染拡大を契機として、有用な屋外空間として価値が再認識され、ニーズが増加している。住民の多様なニーズに対応するとともに、対流・交流を活発化し、地域を活性化するため、公園、広場、緑地等のオープンスペースについて、その充実を図るとともに、柔軟かつ多様な活用を推進することが重要である。

 具体的には、国土交通省としては、公園、緑地等の整備や、民間事業者と公園管理者の連携による公園内へのカフェ・売店等の設置促進等により、オープンスペースの充実に取り組む。また、オープンスペースをゆとりのある屋外空間として一体的に利活用するため、公園、緑地等をウォーカブルな街路空間等により接続し、ネットワーク化するとともに、感染症対策についても集中的に支援する(図表Ⅰ-3-1-23)。さらに、オープンスペースへの需要の増大に対応するため、国営公園等において、魅力的な自然環境や我が国固有の優れた歴史文化資産等を活かした整備・活用を推進する。

図表Ⅰ-3-1-23 公園を芝生や民間カフェ設置で再生(豊島区南池袋公園)
図表Ⅰ-3-1-23 公園を芝生や民間カフェ設置で再生(豊島区南池袋公園)

資料)国土交通省

動画

緑陰施設でつくる まちなかみどりのクールスポット

URL:https://youtu.be/pheqEhOAiuc

(賑わいある道路空間の構築)

 道路上の「空間」において、例えばオープンカフェやシェアサイクルポートの設置など、多様な活用がなされることによって、歩行者の利便の増進や地域の活性化に資することができる。また、新型コロナウイルスの感染拡大により、オープンスペースのニーズは増加している。このため、道路上の「空間」の有効活用を図ることにより、多様なニーズに対応し、賑わいのある道路空間を構築することが必要である。

 そこで、国土交通省では、道路法等の一部を改正する法律(令和2年法律第15号)により、賑わいのある道路空間を構築するための道路の指定制度を創設した。この改正により、「歩行者利便増進道路(通称:ほこみち)」として指定した道路では、歩行者が安心・快適に通行・滞留できる空間の構築等が可能となった。この歩行者利便増進道路注10においては、テラス付きの飲食店等による道路占用がより柔軟に認められることとなり、また一定の場合には占用者を公募により選定できるとともに、この場合には最長20年の占用が可能となった。これにより、民間の創意工夫を活用した空間づくりが可能となり、賑わいのある道路空間が構築されることが期待される。国土交通省としては、引き続き、歩行者利便増進道路制度への移行及び同制度の普及を促進する(図表Ⅰ-3-1-24)。

図表Ⅰ-3-1-24 占用特例実施例(栃木県宇都宮市)
図表Ⅰ-3-1-24 占用特例実施例(栃木県宇都宮市)

資料)国土交通省

 また、道路ごとの「賑わい」「物流」「安全」等の機能の分担や、場所や時間に応じた民地等とも連携した道路の柔軟な使い分けなどによる地域の課題解決のためのガイドライン等を作成・普及する。このような取組みにより、多様なニーズに対応し、賑わいのある道路空間の実現を図る。

  1. 注8 地区内の人の交流や情報の交換等を活発化させることで、都市ならではの新たな付加価値の創出や情報の発信といった「都市機能の高次化」を図ることを目的とした施設
  2. 注9 https://www.mlit.go.jp/kankocho/workation-bleisure/
  3. 注10 歩行者の安全かつ円滑な通行及び利便の増進を図り、快適な生活環境の確保と地域の活力の創造に資する道路を指定