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国土交通白書 2021

第2節 自然災害対策

■1 防災減災が主流となる社会の実現

 我が国は、四季があり、美しい自然を持つ一方で、四方を海で囲まれて国土の中央を脊梁山脈が縦貫することから河川が急勾配であり、また河口部の低平地に人口と資産が集積し、特に三大都市圏においては広域なゼロメートル地帯が存在する上、日本列島には多くの活断層やプレート境界が分布しているため、地球上で発生するマグニチュード6以上の地震の約2割、活火山の約1割が日本周辺に集中するなど、自然災害に対し脆弱な国土条件にある。

 このような国土に、近年では、平成28年熊本地震、平成29年7月九州北部豪雨、平成30年の霧島山噴火、7月豪雨、大阪府北部地震、台風第21号、北海道胆振東部地震、令和元年の房総半島台風、東日本台風、令和2年度においても7月豪雨、台風第10号、12月や1月の大雪、福島沖を震源とする地震など、毎年のように地震災害や水災害、火山災害、雪害など、数多くの自然災害が発生している。

 特に、降水量については、例えば令和元年東日本台風においては全国の103もの地点で24時間降水量が観測史上1位の値を更新し、また短時間強雨の発生頻度も直近30~40年間で約1.4倍に拡大している。河川においても、氾濫危険水位を超過する河川数が増加傾向にあるなど、今後も、水災害の更なる頻発化・激甚化が懸念される。また、南海トラフ地震や首都直下地震などの大規模な地震の切迫も懸念されており、今後の30年以内の発生確率は、南海トラフ地震は70~80%、首都直下地震は約70%となっている。

 さらに、新型コロナウイルス感染症の感染状況も踏まえ、感染症対策を念頭に、災害対応や防災・減災対策を進める必要がある。

 このように、気候変動の影響等により激甚化・頻発化する水災害、切迫する地震災害、火山災害など、あらゆる自然災害に対し、国民の命と暮らしを守り、持続可能な経済成長を確実なものとするためには、抜本的かつ総合的な防災・減災対策を早急に講じ、「防災・減災が主流となる社会」を構築することが必要不可欠である。

 「防災の主流化」は、平成27年3月の第3回国連防災世界会議で採択された「仙台防災枠組」にも盛り込まれた考え方であり、国土交通省では、『防災・減災が主流となる社会』を「災害から国民の命と暮らしを守るため、行政機関、民間企業、国民一人ひとりが、意識・行動・仕組みに防災・減災を考慮することが当たり前となる社会」と捉えて、各種の防災・減災対策を推進している。

 引き続き、国民の防災意識を普段から高め、社会全体の災害に備える力を一層向上させるため、切迫する災害に対する危機意識を共有してわかりやすく発信し、全ての施策を国民目線に再編するとともに、国土交通省の強みである現場力を活かしながら国、県、市町村のみならず、企業や住民との連携を強化し、「主体」・「手段」・「時間軸」の総力を挙げて災害に対応する体制を構築し、防災・減災が主流となる安全・安心な社会の実現に向けた取組みを進めていく。

( 1 )総力戦で挑む防災・減災プロジェクト

 国土交通省では、これまでも政府全体の計画と連携しながら、「南海トラフ巨大地震・首都直下地震対策本部(以下、地震本部)(平成25年7月)」、及び「水災害に関する防災・減災対策本部(以下、水本部)(平成26年1月)」のそれぞれにおいて議論を重ね、実行性のある計画を策定し、防災・減災、国土強靱化等の取組みを推進してきたところである。

 そのような中、近年、毎年のように全国各地で地震災害や水災害、火山災害などあらゆる自然災害が頻発し、甚大な被害が発生している。今後も気候変動の影響によって水災害の更なる激甚化・頻発化が懸念され、また、首都直下地震や南海トラフ地震などの大規模地震の切迫性も指摘されている。このような中、国民の命と暮らしを守り、我が国の経済成長を確保するためには、防災・減災、国土強靱化等の取組をさらに強化する必要がある。

 こうした状況を踏まえ、これまでの災害を教訓とし、あらゆる自然災害に対し、国土交通省として総力を挙げて防災・減災に取り組むべく、令和2年1月、地震本部と水本部を発展的に統合し、赤羽国土交通大臣を本部長とする「国土交通省防災・減災対策本部」を設置し、「いのちとくらしをまもる防災減災」をスローガンに、「総力戦で挑む防災・減災プロジェクト」の検討を進め、同年7月にとりまとめた。

 このプロジェクトでは、関係者や他分野との「連携」による施策の強化・充実、そして「国民目線」に立った分かりやすい施策の推進といった観点から、国民の皆様の命と暮らしを守る10の施策パッケージとしてとりまとめている。

 例えば、

・流域のあらゆる関係者の力を結集して、流域全体で行う「流域治水」の推進、

・災害ハザードエリアにできるだけ住まわせないための土地利用規制・誘導、

・計画運休の深化、船舶の走錨事故防止対策等の災害時の人流・物流コントロール

・マイ・タイムラインによる実効性のある避難体制の確保

・AI等を活用した災害状況把握など、新技術の活用による防災・減災の高度化

・大雨特別警報の切替後の氾濫に対する注意喚起するなど、わかりやすい情報発信

 などの施策を盛り込んでおり、省を挙げて施策を推進している。全国各地で様々な被害が発生した令和2年7月豪雨や台風第10号においても、早速効果を発揮した施策もあり、本プロジェクトが今後の災害対応に大変意義のあるものであることを確認することができたことから、引き続き、防災・減災が主流となる安全・安心な社会の実現に向けて、「流域治水」の推進など「総力戦で挑む防災・減災プロジェクト」に基づく施策の着実な実施と更なる充実を図っていく。また、本プロジェクトを推進するため、活用されるニーズにあわせ、プロジェクトの内容をわかりやすくまとめたパンフレットと、その中でも住民の皆様一人ひとりが今できることに焦点をあてたパンフレットを作成し、普及活動にも取り組んでいる。地域における事業説明会や防災教育の場面でこれらのパンフレットを活用し、住民の方々とともに、リスクコミュニケーションを展開している(図表Ⅱ-7-2-1)。今後も、真に「防災・減災が主流となる安全・安心な社会」の実現を目指してプロジェクトの普及に取り組んでいく。

図表Ⅱ-7-2-1 総力戦で挑む防災・減災プロジェクト
図表Ⅱ-7-2-1 総力戦で挑む防災・減災プロジェクト
図表Ⅱ-7-2-2 「住民自らの行動に結びつく水害・土砂災害ハザード・リスク情報共有プロジェクト」
図表Ⅱ-7-2-2 「住民自らの行動に結びつく水害・土砂災害ハザード・リスク情報共有プロジェクト」

( 2 )気候変動を踏まえた水災害対策「流域治水」の推進

 近年、激甚化する水災害などを踏まえ、気候変動を踏まえた抜本的な治水対策について社会資本整備審議会において議論を進め、令和2年7月に答申を受けた。

(ア)気候変動を踏まえた計画の見直し

 この答申を受け、国土交通省では、水災害対策に係る各計画を「過去の降雨や潮位などの実績に基づく計画」から「気候変動による降雨量の増加、潮位の上昇などを考慮した計画」に見直していく。

 河川・下水道分野では、計画的に事前防災対策を進めるために、計画を作成する際の基準や、降雨量の増加等を踏まえた計画への見直しを順次進めていく。

 海岸分野では、平均海面水位の上昇や台風の強大化等を踏まえ、「海岸保全基本方針」を変更した。今後は、気候変動の影響を明示的に考慮した海岸保全対策へと転換していく。

 また砂防分野では、土砂災害発生数の増加等の課題・解決の方向性をまとめた「気候変動を踏まえた砂防技術検討会中間とりまとめ」を受け、これに基づいた適応策を検討している。

(イ)流域治水の推進(流域治水プロジェクト)

 対策については、河川管理者等が主体となって行う治水事業等を強力に推進するとともにあらゆる関係者が協働して、流域全体で治水対策に取り組むという「流域治水」の考え方に基づき、ハード・ソフト一体の事前防災対策を加速化していく。

 全国109の一級水系全てにおいて流域治水協議会を設置し、「流域治水」に関する地域での取り組みを推進するため、河川整備に加え、流域のあらゆる関係者が協働して行う対策も含めた治水対策の全体像「流域治水プロジェクト」を策定・公表し取り組みを推進していく。

( 3 ) 南海トラフ巨大地震、首都直下地震への対応

 南海トラフ巨大地震が発生した場合、関東から九州までの太平洋側の広範囲において、震度6弱から震度7の強い揺れが発生し、巨大な津波が短時間で、広範囲にわたる太平洋側沿岸域に襲来することが想定されている。死者は最大で約32万人にのぼるなど、西日本を中心に東日本大震災を超える甚大な人的・物的被害が発生し、国全体の経済活動等に極めて深刻な影響が生じることが想定されている。

 また、首都直下地震が発生した場合、首都圏の広域において震度6弱から震度7の強い揺れが発生することが想定されている。首都圏には、他の地域と比べ人口や建築物、経済活動の他、政治・行政・経済の首都中枢機能も集積しているため、首都圏の人的・物的被害や経済被害にとどまらず、国全体の経済活動等への影響や海外への波及も懸念されている。

 さらに、日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震が発生した場合、北海道から岩手県の太平洋側の広範囲において強い揺れが発生し、東日本の太平洋沿岸の広範囲で津波が到達することが想定されている。

 これらの国家的な危機に備えるべく、多くの社会資本の整備・管理や交通政策、海上における人命・財産の保護等を所管し、また全国に多数の地方支分部局を持つ国土交通省では、平成26年4月に「応急活動計画」と「戦略的に推進する対策」の2本柱で構成される「国土交通省南海トラフ巨大地震対策計画」及び「国土交通省首都直下地震対策計画」を策定した。その後、平成28年熊本地震や平成30年北海道胆振東部地震等、近年の地震における知見等を踏まえ、平成31年1月に本計画の改定を行い、地震の発生に伴う事態をできる限り具体的に想定し、国土交通省の総力を挙げて防災・減災対策を推進している。日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震についても、政府の検討と連携しながら、特に寒冷地、積雪地特有の事象等を踏まえ、防災・減災対策を検討していく。

 また、各地方支分部局や関係機関等とも連携し、巨大地震を想定した広域的な防災訓練を定期的に実施している。あわせて、被災自治体を支援するTEC-FORCE(緊急災害対策派遣隊。詳細は、第7章 第2節 2.(9)危機管理体制の強化を参照)についても、令和元年5月に気象庁が「南海トラフ地震臨時情報」の提供を開始したこと等を踏まえ、令和2年12月には南海トラフ地震時の活動計画に同情報が発表された場合の対応を定めるなど、地震発生時のより一層の体制強化にも取り組んでいる(図表Ⅱ-7-2-3)。

図表Ⅱ-7-2-3 南海トラフ地震におけるTEC-FORCE活動計画の改定(令和2年12月)
図表Ⅱ-7-2-3 南海トラフ地震におけるTEC-FORCE活動計画の改定(令和2年12月)