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国土交通白書 2021

第2節 自然災害対策

コラム 海上保安庁も南海トラフ地震のための監視をしているって本当?

 はい、海上保安庁は南海トラフ地震想定震源域の状態の監視のために、海底において地殻変動を観測し、観測成果を政府の関係会議に定期的に報告しています。ここでは、その観測についてお話しします。

 西日本の地下では、海側のプレートが年間数cmの速さで沈み込んでいます。その際、陸側のプレートとの境界面が固着していると陸側のプレートが一緒に引きずられ変形することで、ひずみが蓄積されていきます。ひずみに耐えきれなくなったときに、その境界面が一気に破壊されて急激にすべることで、地震が発生すると考えられています。こうしたプレートの沈み込み口が南海トラフであり、これまでに巨大地震が繰り返し発生してきました。南海トラフ地震の発生メカニズムを理解するためには、震源となる地下のプレート境界の状態を詳細に調べる必要があります。そのための強力な道具のひとつが、地面の微小な動きを測って固着によるプレートの変形の様子を調べる地殻変動観測です。陸上ではGNSSを利用した観測網が国土地理院により整備・運用されて日本列島の変形の詳細が把握されています。しかしながら、南海トラフ地震の震源域の大部分は海底下にあるので、陸上の観測のみでは限界があり、震源域のより詳細な監視のためには、海底においても地殻変動を観測する必要があります。

 GNSSは人工衛星からの電波を地表のアンテナで受信することで位置を測定しますが、海水は電波を通さないので、GNSSは使えません。そこで、海水中でも遠距離まで伝わる音波の助けも借りたGNSS- 音響測距結合方式(GNSS-A)による海中精密位置測定技術を活用します。海上保安庁は、海図作製のために長年培ってきた測位技術と音響測深技術を活用してこの技術の実用化のための研究開発を進めてきました。現在では、数千mの深海底の位置をセンチメートルの精度で測定することが可能となっています。

 なお、本観測は複数の観測技術を高精度に組み合わせるという、高度な技術が要求されますが、海上保安庁はこれを広域で定常的な観測網として運用している世界唯一の機関です。一方で、陸上のGNSS観測に比べ観測精度やリアルタイム性で劣っているなど解決すべき課題も多いことから、国内外の大学や研究機関等でも研究開発は進められています。海上保安庁では、そうした機関と連携しつつ、今後も継続して観測の効率化・高精度化を推進し、より有用な地殻変動情報を提供していきたいと考えています。