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国土交通白書 2021

第4節 交通分野における安全対策の強化

■2 鉄軌道交通における安全対策

 鉄軌道交通における運転事故件数は、自動列車停止装置(ATS)等の運転保安設備の整備や踏切対策の推進等を行ってきた結果、長期的には減少傾向注16にあるが、一たび列車の衝突や脱線等が発生すると、多数の死傷者を生じるおそれがあることから、引き続き安全対策の推進が必要である。

( 1 )鉄軌道の安全性の向上

 過去の事故等を踏まえて、必要な基準を制定するなどの対策を実施し、これを鉄軌道事業者が着実に実行するよう指導するとともに、保安監査等を通じた実行状況の確認や、監査結果等のフィードバックによる更なる対策の実施を通じて、鉄軌道の安全性の向上を促している。

 また、鉄軌道事業者に対し、計画的に保安監査を実施するほか、重大な事故、同種トラブル等の発生を契機に臨時に保安監査を実施するなど、メリハリの効いた効果的な保安監査を実施することにより、保安監査の充実を図っている。

図表Ⅱ-7-4-3 鉄軌道交通における運転事故件数及び死傷者数の推移
図表Ⅱ-7-4-3 鉄軌道交通における運転事故件数及び死傷者数の推移

( 2 )踏切対策の推進

 都市部を中心とした「開かずの踏切」 注17等は、踏切事故や慢性的な交通渋滞等の原因となり、早急な対策が求められている。このため、道路管理者と鉄道事業者が連携し、「踏切道改良促進法」及び「第10次交通安全基本計画」に基づき、立体交差化、構造改良、横断歩道橋等の歩行者等立体横断施設の整備、踏切遮断機等の踏切保安設備の整備等により踏切事故の防止に努めている。

 令和2年度は、「踏切道改良促進法」に基づき、改良すべき踏切道として、新たに51箇所を指定し、令和元年度までに指定した1,129箇所と合わせ、1,180箇所となった。指定した踏切道については、地方踏切道改良協議会を順次開催し、道路管理者と鉄道事業者が、地域の実情に応じた踏切道対策の一層の推進を図った。

 令和3年度は、改正した「踏切道改良促進法」に基づき、改良が必要な踏切道を国土交通大臣が機動的に指定し、立体交差化等の従前の踏切対策に加え、踏切周辺道路の整備、踏切前後の滞留スペースの確保、駅の出入口の新設、バリアフリー化のための平滑化など、改良の方法を拡充し、総合的な対策を推進する。また、平常時の交通安全及び円滑化等の対策に加え、災害時においても、踏切道の長時間遮断による救急・救命活動や緊急物資輸送への支障の発生等の課題に対応するため、関係者間で遮断時間に関する情報共有を図るとともに、遮断の解消に向けた災害時の管理方法を定める取組を推進する。さらに、道路管理者と鉄道事業者が連携して作成・公表している「踏切安全通行カルテ」の更新や改良後の評価の導入により、着実なフォローアップと「見える化」を推進する。

( 3 )ホームドアの整備促進

 視覚障害者等をはじめとしたすべての駅利用者の安全性向上を図ることを目的に、ホームからの転落等を防止するホームドアの整備を促進しており、「交通政策基本計画」(平成27年2月)において定められた、令和2年度までに約800駅に整備するという目標に対して、元年度末時点で858駅に整備されている。3年度以降については、きめ細かな進捗をフォローするため、番線単位の数値目標とし、具体的には、2年12月に改正された「移動等の円滑化の促進に関する基本方針」において、駅やホームの構造・利用実態、駅周辺エリアの状況などを勘案し、優先度が高いホームでの整備を加速化することを目指し、7年度までに、駅全体で3,000番線、うち平均利用者数が10万人/日以上の駅で800番線を整備するとの目標を設定した。

 また、ホームドアや内方線付き点状ブロックの整備促進、車両ドア位置の不一致等の課題に対応した新しいタイプのホームドアの技術開発等ハード面の対策とともに、視覚障害者等への声かけを推進するなどソフト面の対策にも取り組んでいる。

図表Ⅱ-7-4-4 ホームドア
図表Ⅱ-7-4-4 ホームドア

資料)国土交通省

図表Ⅱ-7-4-5 内方線付き点状ブロック
図表Ⅱ-7-4-5 内方線付き点状ブロック

資料)国土交通省

( 4 )鉄道施設の戦略的な維持管理・更新

 鉄道の橋梁やトンネル等については、法定耐用年数を超えるものも多く、老朽化が進んでおり、これらの鉄道施設を適切に維持管理することが課題となっている。鉄道利用者の安全確保及び鉄道の安全・安定輸送の確保を図るため、地域の人口減少が進み経営環境が厳しさを増す地方の鉄道事業者に対して、鉄道事業の継続性等を確認した上で、将来的な維持管理費用を低減し長寿命化に資する鉄道施設の改良・補強を支援している。

  1. 注16 JR西日本福知山線列車脱線事故があった平成17年度など、甚大な人的被害を生じた運転事故があった年度の死傷者数は多くなっている。
  2. 注17 列車の運行本数が多い時間帯において、踏切遮断時間が40分/時以上となる踏切