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国土交通白書 2022

第1節 わたしたちの暮らしの脱炭素化に向けた取組みの課題と方向性

■2 交通・物流の脱炭素化に向けた取組みの課題と方向性

 交通・物流(運輸部門)は、2030年度において二酸化炭素排出量対2013年度比35%削減を目標としており、この達成に向けては一層の取組み推進が求められる。単体対策(次世代自動車の普及促進など)や交通流の円滑化などとともに、公共交通の利活用やモーダルシフトを含めた総合的な取組みが必要である。また、国際航空・外航海運など、国別目標によらない国際的な動向を踏まえた国際的な視点での取組みも重要である。

 ここでは、わたしたちの暮らしを支える交通・物流について、脱炭素化に向けた取組みの課題と方向性を整理する。

(1)運輸部門のエネルギー消費の動向

①現状と課題

 第1章でも記述したとおり、運輸部門における2020年度の二酸化炭素排出量は、新型コロナウイルス感染症の影響等により減少幅が増大したが、2030年度排出量削減目標を達成するため、エネルギー消費の総量を継続的に抑制する取組みが重要である。以下、近年のエネルギー消費量・二酸化炭素排出量について、部門別(旅客・貨物)、輸送モード別の動向を整理する。

(エネルギー消費の経年推移)

 運輸部門のエネルギー消費量は、2019年度において3,004PJ(ペタジュール注21)となっている。高度経済成長期である1965年度から1973年度までの間にエネルギー消費量は約2倍となり、以降も2001年度3,893PJとピークを迎え、以降は輸送量の低下や輸送効率の改善により、減少を続けている。

 また、エネルギー消費量の内訳は、自家用乗用車の普及などに伴い、旅客部門の占める割合は徐々に大きくなり、2019年度では運輸全体の約6割が旅客部門(1,774PJ)、約4割が貨物部門(1,230PJ)となっている。

図表Ⅰ-2-1-20 運輸部門におけるエネルギー消費量推移(旅客部門・貨物部門)
図表Ⅰ-2-1-20 運輸部門におけるエネルギー消費量推移(旅客部門・貨物部門)

(注)「総合エネルギー統計」は、1990年度以降、数値の算出方法が変更されている
資料)資源エネルギー庁「エネルギー白書2021」より国土交通省作成

(二酸化炭素排出量の推移)

 運輸部門における二酸化炭素排出量の推移について、1990年代前半から乗用車の大型化や自動車保有台数の増加により増加傾向であったが、トップランナー制度に基づく燃費基準注22の導入やグリーン税制の導入等により2001年度をピークに減少が続いている。

 特に2013年度以降は、ハイブリッド自動車や電気自動車の普及拡大に伴う燃費の改善により、旅客部門における自動車の二酸化炭素排出量は減少している。

図表Ⅰ-2-1-21 運輸部門の旅客分野における自動車の二酸化炭素排出量、自動車の車種別保有台数
図表Ⅰ-2-1-21 運輸部門の旅客分野における自動車の二酸化炭素排出量、自動車の車種別保有台数

(注)ここで自動車(旅客)の二酸化炭素排出量は乗用車(自家用車、営業用、タクシー)、バス(自家用、営業用)、二輪車に起因するもの
資料)資源エネルギー庁「エネルギー白書2021」、環境省「2020年度温室効果ガス排出量(確報値)」より国土交通省作成

 他方、運輸部門における2019年度の二酸化炭素排出量のうち、自動車に起因するものは約86%を占めているとともに、運輸部門における排出量の約46%近くを自家用乗用車が占めており、自家用乗用車における取組みが運輸部門に与える影響は大きい。

 また、運輸部門における都道府県別二酸化炭素排出量において、自動車に起因する二酸化炭素排出量が多い県においては、自動車保有台数も多くなっていることがわかる。

図表Ⅰ-2-1-22 運輸部門における都道府県別二酸化炭素排出量(2018年度)、都道府県別自動車保有台数(2018年度)
図表Ⅰ-2-1-22 運輸部門における都道府県別二酸化炭素排出量(2018年度)、都道府県別自動車保有台数(2018年度)

(注)自動車保有台数は乗用車、貨物車、乗合車、特殊車、二輪車、軽自動車の合計
資料)環境省「部門別CO2排出量の現況推計(2018年度)」、自動車検査登録情報協会「都道府県別自動車保有台数(2018年度)」より国土交通省作成

②今後の方向性

 運輸部門における二酸化炭素排出量の約86%を占める自動車における二酸化炭素排出量の削減を図るため、次世代自動車の普及促進に向け、燃費規制の活用や導入支援、インフラ整備を図るとともに、交通流の円滑化に向けて、ICT技術を活用したソフト対策、渋滞対策に資するハード対策の両面からの取組みの強化を図るとともに、二酸化炭素排出原単位の小さい輸送手段への転換として、公共交通の利用促進や、トラック輸送の効率化、海運や鉄道へのモーダルシフトの更なる推進を図る必要がある。

(2)次世代自動車の普及に向けた課題と方向性

①現状と課題

(次世代自動車の普及状況)

 エネルギー効率に優れる次世代自動車(EV注23、FCV注24、PHV注25、HV注26等)の新車乗用車販売台数に占める割合は2008年2.6%から2020年39.4%と年々増加しているが、商用車(小型車)の新車販売における電動車の割合は僅少に留まる。

 自動車の燃費規制については、トップランナー制度に基づく燃費基準の下、これまで大幅な燃費の向上が図られてきた。2020年3月に2016年度実績と比較して32.4%の改善を求める新たな乗用車燃費基準(2030年度基準)を定めた。

図表Ⅰ-2-1-23 燃費実績と次世代自動車の普及率、燃料電池バスの例
図表Ⅰ-2-1-23 燃費実績と次世代自動車の普及率、燃料電池バスの例

(注)
1 燃費実績は「年度」、次世代自動車の割合は「年」  
2 次世代自動車普及率は自動車工業会調べ
資料)上:国土交通省 下:トヨタ自動車株式会社

(充電施設・水素供給設備の整備状況)

 電気自動車・プラグインハイブリッド自動車の充電設備は、道の駅や高速道路のSA・PA、ショッピングモール、宿泊施設など、2021年度末時点で29,463箇所に設置されており、そのうち、急速充電器は8,265箇所と着実に増えている。

 燃料電池自動車、燃料電池バス・トラック等の燃料を補給するための水素供給設備(水素ステーション)は、全国157箇所(2022年1月現在)であり、「首都圏」「中京圏」「関西圏」「九州圏」の四大都市圏及び四大都市圏を結ぶ幹線沿いを中心に整備されている。

図表Ⅰ-2-1-24 公共用充電器設置箇所数(推移)
図表Ⅰ-2-1-24 公共用充電器設置箇所数(推移)

(注)電気自動車・プラグインハイブリッド自動車の充電設備の箇所数
資料)株式会社ゼンリンデータより国土交通省作成

②今後の方向性

 次世代自動車の普及促進に向け、燃費規制の活用や、費用の低減、利便性の向上を図っていくとともに、電気自動車・プラグインハイブリッド自動車の普及に向けたEV充電設備の公道設置の検討や走行中給電システムの研究開発を支援している。

 充電設備について、老朽化設備の更新のほか、急速充電器3万基を含め15万基を設置し、遅くとも2030年までにガソリン車並みの利便性を実現することを目指すこととしている。また、水素ステーションについては、2030年までに、1,000基程度、人流・物流を考慮しながら最適な配置となるよう整備することとしている。

 政府は、乗用車については、2035年までに新車販売で電動車注27100%の実現を目指し、商用車については、8トン以下の小型車は、新車販売で、2030 年までに電動車20~30%、2040 年までに、電動車・脱炭素燃料対応車100%を目指し、8トン超の大型車は実証、早期導入を図りつつ、2030年までに目標を決定することとしている。

図表Ⅰ-2-1-25 次世代自動車の普及に向けた環境整備
図表Ⅰ-2-1-25 次世代自動車の普及に向けた環境整備

資料)国土交通省

③技術革新・社会実装に向けた足元の動き

(次世代自動車への転換を支える技術)

 電気自動車・プラグインハイブリッド自動車向けの充電設備には「普通充電」と「急速充電」がある。普通充電は、現在3~6kWの出力が普及しており、充電に数時間を要するため、住宅、事務所や宿泊施設など長時間駐車する場所での充電に適している。急速充電器は、50kWや90kWといった出力が普及しており、充電時間の目安は30分程度と短いため、主に高速SA・PAやコンビニ等、出先での継ぎ足し充電や緊急充電に適している。

 また、充電時間の短縮を図るべく、走行中の給電や、非接触の給電に関する研究が国際的にもなされており、我が国においても技術の開発や基準検討を進めている。

図表Ⅰ-2-1-26 走行中ワイヤレス給電(左)とEV充電施設の道路内配置(右)
図表Ⅰ-2-1-26 走行中ワイヤレス給電(左)とEV充電施設の道路内配置(右)

資料)国土交通省

(3)公共交通利用促進に向けた課題と方向性

①現状と課題

 環境負荷は交通機関によって異なり、輸送機関別の単位輸送量(人キロベース)当たりの二酸化炭素排出量をみると、自家用乗用車に対し、バスは約5分の2、航空は約4分の3、鉄道は約8分の1である。このため、人が移動する際に自家用乗用車に替えて鉄道・バス等の公共交通機関を利用するようになれば、二酸化炭素排出量の削減につながる。

図表Ⅰ-2-1-27 輸送量当たりの二酸化炭素排出量(旅客)
図表Ⅰ-2-1-27 輸送量当たりの二酸化炭素排出量(旅客)

資料)温室効果ガスインベントリオフィス「日本の温室効果ガス排出量データ」、国土交通省「自動車輸送統計」「航空輸送統計」「鉄道輸送統計」より
国土交通省作成

 乗用車への依存が高まることにより、旅客輸送における二酸化炭素排出量は大きく増加するが、排出状況は地域によって異なる。このような地域による違いは、それぞれの交通機関分担の状況によるものと考えられる。都市における移動の交通手段別構成比をみると、三大都市圏では鉄道を利用する割合が大きい一方で、地方都市圏ではその割合は小さく、自動車を利用する割合が大きい。

 鉄道は他の輸送機関に比べ大量輸送、高速輸送、定時輸送の面での強みが特徴である。このため、利用者数が確保できる都市内輸送や都市間輸送において鉄道の持つ強みが発揮され、三大都市圏の分担率が高い。また、新幹線の路線延長に伴い利用者も増加しており、300~1,000km程度の移動手段としても鉄道が多く利用されている。

図表Ⅰ-2-1-28 移動の交通手段別構成比(三大都市圏・地方都市圏)
図表Ⅰ-2-1-28 移動の交通手段別構成比(三大都市圏・地方都市圏)

(注)
1 三大都市圏:さいたま市、千葉市、東京都区部、横浜市、川崎市、名古屋市、京都市、大阪市、神戸市やその周辺都市を含む29都市
2 地方都市圏:札幌市、仙台市、広島市、北九州市、福岡市、宇都宮市、金沢市、静岡市、松山市、熊本市、鹿児島市、弘前市、盛岡市、郡山市、松江市、徳島市、高知市やその周辺都市を含む41都市
資料)国土交通省

 先に記述したとおり、鉄道やバスは自家用乗用車に比べて単位輸送量当たりの二酸化炭素排出量が少ない。したがって、環境負荷の小さい交通体系を構築するには、自家用乗用車から公共交通機関へのシフトを促すことが必要である。地域の公共交通機関の利便性を高め、その活性化・再生を実現することは、公共交通機関の利用促進を通じて環境負荷の低減につながるだけでなく、住民の移動手段を確保することにより自立した生活を支え、暮らしの質を確保・充実させるとともに、地域経済の発展にも貢献する。

 地域の足を確保するための公共交通システムの一つとして、コミュニティバス注28やデマンド型乗合タクシー注29等のデマンド交通の導入に向けた取組みが進んでいるが、人口規模別にみると、1万人未満の人口規模の市町村における導入状況は他の人口規模の市町村に比べて低い。危機に瀕する地域公共交通の確保・維持を図り、ポストコロナにおける地域の暮らしや移動ニーズに応じた交通サービスの活性化が課題である。

図表Ⅰ-2-1-29 コミュニティバス・デマンド型乗合タクシーの人口規模別導入状況(2019年度)
図表Ⅰ-2-1-29 コミュニティバス・デマンド型乗合タクシーの人口規模別導入状況(2019年度)

(注)
1 乗合タクシー:乗車定員11人未満の車両で行う乗合の旅客運送サービスをいう。  
2 導入市町村数は、団地型・循環型の運行形態の合計。  
3 いわゆる「自家用有償運送」は含んでいない。  
4 かっこ内は市町村数。  
5 国土交通省自動車局資料より国土政策局作成。
資料)国土交通省

②今後の方向性

 環境負荷軽減に配慮した地域公共交通計画等を踏まえつつ、LRTなど二酸化炭素排出量の少ない輸送システムの導入推進、地域交通ネットワークの再編、モーダルコネクトの強化など、特に地方圏においてマイカーだけに頼ることなく移動しやすい環境整備を図っていく。

図表Ⅰ-2-1-30 LRT(Light Rail Transit)、グリーンスローモビリティ
図表Ⅰ-2-1-30 LRT(Light Rail Transit)、グリーンスローモビリティ

資料)国土交通省

 2050年カーボンニュートラルの実現に向けては、公共交通の利用促進を図り自家用自動車からの乗換輸送量を38億人キロ(2013年度)から163億人キロ(2030年度)に増やすことにより、二酸化炭素排出量を162万t削減する必要がある。

 公共交通機関の活性化・再生に関するニーズや課題は、地域によって多種多様である。地方公共団体を中心に、交通事業者や住民をはじめ地域の関係者が一体となって、地域の実情に即した交通体系について検討し、その実現を図っていくことが求められる。

③技術革新・社会実装に向けた足元の動き

(MaaS等新たなモビリティサービスの推進)

 MaaSは、ICTやAI等の技術革新やスマートフォンの急速な普及を背景に、公共交通分野におけるサービスを大きく変える可能性がある。また、公共交通により移動しやすい環境が整備されることにより、自家用乗用車からのシフトが期待され二酸化炭素排出削減へも寄与する。

 MaaSなどの新たなモビリティサービスは、次世代自動車や、さらには新技術との連携を促し、更なる利便性向上、環境負荷の低減が期待される。トヨタ自動車株式会社では、自動運転技術を活用した次世代の電気自動車「e-Palette」を発表している。このe-Paletteは、移動するだけの手段としてだけではなく、モビリティへのニーズの多様化に応え、「人が移動するのではなく、モノやサービスが来る」など様々なサービスに対応する新たな「モビリティ」として移動の価値を高めることを目指している。

図表Ⅰ-2-1-31 e-Palette サービスイメージ
図表Ⅰ-2-1-31 e-Palette サービスイメージ

資料)トヨタ自動車株式会社

(4)モーダルシフトに向けた課題と方向性

①現状と課題

(モーダルシフト)

 物流は、国民生活や産業競争力を支える重要な社会インフラであり、その機能を十分に発揮させていく必要がある。

 船舶や鉄道の単位当たりの二酸化炭素排出量を営業用貨物自動車と比較すると、船舶は営業用貨物自動車の約5分の1、鉄道は約13分の1であることから、貨物輸送における二酸化炭素排出量の削減を図るための効果的な手段の一つとして、営業用貨物自動車から鉄道や船舶へのモーダルシフトの促進が重要である。

 また貨物自動車のうち、自家用貨物車と営業用貨物車を比較すると、営業用貨物車の方が混載等により輸送効率が高いため自家用貨物車に比べて環境負荷が小さく、単位当たりの二酸化炭素排出量で比較すると、営業用貨物車は自家用貨物車の約5分の1である。

図表Ⅰ-2-1-32 輸送量当たりの二酸化炭素排出量(貨物)
図表Ⅰ-2-1-32 輸送量当たりの二酸化炭素排出量(貨物)

資料)温室効果ガスインベントリオフィス「日本の温室効果ガス排出量データ」、国土交通省「自動車輸送統計」「内航船舶輸送統計」「鉄道輸送統計」より国土交通省作成

(宅配便輸送)

 わたしたちの暮らしに欠かせない宅配便や日用品・食料品等の商品輸送は、インターネットやスマートフォンなどの普及により急成長しており、消費者のニーズの高度化・多様化に伴い、輸送の迅速化や少量多頻度化が求められてきた。一方で、このような消費者ニーズに応えることは、二酸化炭素排出量の増加にもつながっていると考えられる。したがって、物流における二酸化炭素排出量の削減は荷主企業だけではなく、最終的な利便を享受する消費者もキープレーヤーである。

 近年、新型コロナウイルス感染症による外出自粛などからいわゆる「巣ごもり消費」が常態化し、通販需要が拡大したことに伴い、宅配便の取扱量が急増した。2020年度の宅配便の個数は、48億3,647万個(うちトラック運送は47億8,494万個)で、対前年度比11.9%増加となっている。

 また、2015年度国土交通省調査によれば、宅配便の再配達となった個数は全体の約2割注30であり、再配達のトラックから排出される二酸化炭素の量は年間でおよそ42万トンになると推定されている。宅配便の再配達は、トラックの移動量が増えるため、地球環境に対しても負荷を与えていることとなる再配達の防止が重要である。

図表Ⅰ-2-1-33 宅配便等取扱個数の推移
図表Ⅰ-2-1-33 宅配便等取扱個数の推移

(注)
1 2007年度からゆうパック(日本郵便株式会社)の実績が調査の対象となっている。  
2 日本郵便株式会社については、航空利用運送事業に係る宅配便も含めトラック運送として集計している。  
3 「ゆうパケット」は2016年9月まではメール便として、10月からは宅配便として集計している。  
4 佐川急便株式会社においては決算期の変更があったため、2017年度は2017年3月21日~2018年3月31日(376日分)で集計している。
資料)国土交通省

②今後の方向性

 モーダルシフトの推進として、鉄道貨物輸送量については193.4 億トンキロ(2013年度)から256.4 億トンキロ(2030 年度)を目指すことにより、146.6 万tの二酸化炭素排出削減を図る必要がある。鉄道貨物輸送については、トラックに比べ低炭素であり、かつ輸送力は1編成あたり10トントラック65台分と大きいため、今後脱炭素や物流の課題を解決する重要な輸送モードとしての役割が期待される。海運貨物輸送量は330 億トンキロ(2013 年度)から410.4 億トンキロ(2030 年度)を目指すこととし、187.9 万tの二酸化炭素排出削減が必要である。

③技術革新・社会実装に向けた足元の動き

 物流分野において、AI・IoT 等を活用した物流 DXの推進を通じたサプライチェーン全体の輸送効率化を図ることにより、省エネルギー化の実現を目指すとともに、自動運転技術等を活用した効率的な物流ネットワークの強化や、物流 MaaSの観点からのトラック輸送の効率化、海運や鉄道へのモーダルシフトの更なる推進等のグリーン物流の取組みを通じた新しいモビリティサービスの構築を図っていく。

(ドローン、空飛ぶクルマの開発・活用)

 ドローン物流は、過疎地域等における物流網の維持や、買い物での不便解消など利便性を高めるとともに、脱炭素への寄与や災害時の物流手段としても期待されている。ドローン物流では飛行経路の設定や運航管理の方法、費用負担や料金設定など運行コストの課題がある。これらの課題を抽出し、解決策や持続可能な事業形態を整理することが必要であり、国土交通省では、有識者や関係事業者・自治体からなる検討会を開催し、2022年3月に「ドローンを活用した荷物等配送に関するガイドラインVer.3.0」を公表した。引き続きドローン物流の社会実装に向けた取組みを進めていく。

図表Ⅰ-2-1-34 ドローン
図表Ⅰ-2-1-34 ドローン

資料)国土交通省

 また、「空飛ぶクルマ」は様々な地域課題を解決し、新しい移動の仕方を提供するモビリティとして期待されている注31

図表Ⅰ-2-1-35 空飛ぶクルマ
図表Ⅰ-2-1-35 空飛ぶクルマ

©株式会社SkyDrive

 我が国では2018年より「空の移動革命に向けた官民協議会」が開催されており、都市部や離島・山間部での新たな移動手段、災害時の救急搬送にもつながるものとして期待されている。

 国土交通省・経済産業省では、2025年の大阪・関西万博での空飛ぶクルマの実現に向けて取組みを進めているところであり、2021年10月には日本でも「空飛ぶクルマ」の型式証明申請がなされた。

 社会課題の解決へ活用が期待されており、世界に先駆けた実現を目指している。

(5)航空・船舶における気候変動の緩和に向けた課題と方向性

(ア)航空における気候変動の緩和に向けた課題と方向性

 国内輸送とは異なり、国際輸送(国際航空)については、二酸化炭素排出量を国別に算出することが困難であることから、国際民間航空機関(ICAO)においてその削減に向けた対応を検討することとされている。

①現状と課題

(世界の航空輸送の動向)

 近年、グローバル化が進展する中で航空輸送は増加しており、二酸化炭素排出量削減に向けた取組みの重要性が増している中、機体の燃費改善等も進められているものの、二酸化炭素排出量は増加する傾向にあった。しかし、新型コロナウイルス感染拡大による人流の抑制等により、2020年は旅客数、二酸化炭素排出量は大幅に減少した。

 また、国際航空からの二酸化炭素排出量が世界全体の二酸化炭素排出量に占める割合は約1.8%である。

図表Ⅰ-2-1-36 世界の航空輸送の旅客数と二酸化炭素排出量
図表Ⅰ-2-1-36 世界の航空輸送の旅客数と二酸化炭素排出量

(注)二酸化炭素排出量は、IEAデータ(Direct CO2 emissions from fossil jet kerosene combustion in the Net Zero Scenario, 2000-2030)、旅客数は世界銀行。
資料)IEA、世界銀行データより国土交通省作成

(国際航空分野の温室効果ガス排出削減目標)

 国際航空分野の温室効果ガス排出削減については、ICAOの場において、中期目標として2013年にグローバル削減目標として①燃料効率を毎年2%改善、②2020年以降総排出量を増加させないことを採択し、2035年までの削減手段として、CORSIA注32の枠組みにより新技術の導入、運航方式の改善、代替燃料の活用に加え、市場メカニズムの活用によって取り組みを進めていくこととしている。

②今後の方向性

 前述の中期目標に加え、長期目標についても現在議論が進められているが、島国である我が国の立場が適切に反映されるよう、ICAOを通じた省エネルギー・脱炭素化を一層加速させるためのグローバルな国際枠組みを牽引していく。

 また、中期目標の達成に向けては、二酸化炭素の削減幅が大きい「持続可能な航空燃料(SAF)」注33の活用が不可欠であり、技術開発および実証を推進することが重要である。

図表Ⅰ-2-1-37 国際航空からの二酸化炭素排出量予測と排出削減目標のイメージ
図表Ⅰ-2-1-37 国際航空からの二酸化炭素排出量予測と排出削減目標のイメージ

資料)2019 ICAO Regional Workshop資料より国土交通省作成

③技術革新・社会実装に向けた足元の動き

(SAF)

 現状では、国際規格により、SAFの使用に当たっては化石由来のジェット燃料に混合して使用する必要があり最大50%まで混合が可能である。

 我が国では、2030年時点のSAF使用量について「本邦エアラインによる燃料使用量の10%をSAFに置き換える」という目標を設定している。SAFの導入普及を促進すべく、国産SAFの開発・製造等の供給側の対応やSAFの活用に向けた環境整備を行うこととしている注34

 このような中、2021年6月に本邦航空会社によるSAFを使用した商用運航が実現しており、今後ともSAFの製造技術の確立や、その後の普及促進に向けて取り組んでいる注35

(イ)国際海運における気候変動の緩和に向けた課題と方向性

 内航海運とは異なり、国際海運については、二酸化炭素排出量を国別に算出することが困難であることから、国際海事機関(IMO)においてその削減に向けた対応を検討することとされている。

①現状と課題

 国際海運からの二酸化炭素排出量が世界全体の二酸化炭素排出量に占める割合は約2%である。IEAのデータによれば、国際海運による二酸化炭素排出量は、近年増加傾向にあり、2019年の二酸化炭素排出量は約7億トンとなったものの、2020年は約6.5億トンとなった。

図表Ⅰ-2-1-38 国際海運による二酸化炭素排出量の推移
図表Ⅰ-2-1-38 国際海運による二酸化炭素排出量の推移

(注)国際海運による二酸化炭素排出量は、IEAデータ(CO2 emissions from international shipping in the Net Zero Scenario, 2000-2030)
資料)IEAデータより国土交通省作成

 国際海運からの温室効果ガス(GHG)排出削減を進めるためには、化石燃料を使用する従来型の船舶から、低・脱炭素燃料を使用する船舶への代替を促進するための更なる対策が必要である。このため、IMOにおいて、2018年4月に「GHG削減戦略」が採択され、同戦略において、2008年を基準年として、①2030年までに国際海運全体の燃費効率(輸送量あたりのGHG排出量)を40%以上改善すること、②2050年までに国際海運からのGHG総排出量を50%以上削減すること、及び③今世紀中のできるだけ早期にGHG排出ゼロを目指すことが目標として掲げられている。これらの目標の達成に向けて、これまで、新造船の燃費性能規制(EEDI)の強化、既存船の燃費規制(EEXI)の導入等についてIMOで合意された。

図表Ⅰ-2-1-39 IMO GHG 削減戦略の掲げる目標
図表Ⅰ-2-1-39 IMO GHG 削減戦略の掲げる目標

資料)国土交通省

②今後の方向性

 世界全体で気候変動問題への取組みが加速している中で、国際海運においてもより一層取り組むことが求められており、2021年11月のIMOの会議 においては、2023年までに「GHG 削減戦略」を見直し、現行の目標よりも野心的な目標を設定することが合意されるとともに、同戦略の見直しに向けて、我が国は米英等と共同で「国際海運2050 年カーボンニュートラル」注36の目標を提案した。

 我が国は、この目標を世界共通のものとするとともに、当該目標の達成に向けた取組みを促すために市場メカニズムに基づく経済的手法等の制度を導入することを目指して、IMOにおける国際ルール作りを主導していく。

③技術革新・社会実装に向けた足元の動き

 国際海運2050年カーボンニュートラルの実現のためには、抜本的な対策として、水素・アンモニア等を燃料とするゼロエミッション船の技術開発を進める必要がある。国際海運からのGHG排出削減対策の検討については、こうした技術開発を通じて、我が国が国際的イニシアティブを発揮し、積極的に取り組んでいく。

  1. 注21 ペタジュールの「P」(ペタ)は10の15乗を表す。
  2. 注22 エネルギー消費性能等の向上が特に必要な「特定エネルギー消費機器等」について、エネルギー消費性能等が最も優れている製品をベースに技術開発の将来の見通し等を踏まえてエネルギー消費性能等の目標となる基準値を設定。
  3. 注23 EV(電気自動車)とはElectric Vehicle の略である。充電スタンド等で車載バッテリーに充電しモーターを動力として走行。エンジンを使用しないため走行中に二酸化炭素を排出しない。
  4. 注24 FCV(燃料電池自動車)とはFuel Cell Vehicleの略である。燃料電池は水素と酸素を結合させて発電した電力で電気モーターを駆動。エンジンを使用しないため二酸化炭素を排出しない。
  5. 注25 PHV(プラグインハイブリッド車)とはPlug-in Hybrid Vehicleの略である。車に装備された差込口から充電できるハイブリッド車。短距離なら電気のみ、長距離なら電気とガソリンで走行。
  6. 注26 HV(ハイブリッド自動車)とはHybrid Vehicleの略である。エンジンとモーターの2つの動力を搭載し効率的に使い分ける低燃費を実現する。
  7. 注27 電気自動車、燃料電池自動車、プラグインハイブリッド自動車、ハイブリッド自動車
  8. 注28 コミュニティバスとは交通空白地域・不便地域の解消等を図るため市町村が主体的に計画運行するバス。
  9. 注29 デマンド型乗合タクシーとは利用者の要望に応じて機動的にルートを迂回、利用地点まで送迎する乗合タクシー。
  10. 注30 うち約4割が配達されることを知らなかった。
  11. 注31 空飛ぶクルマとは、明確な定義はないものの、「電動」、「自動(操縦)」、「垂直離着陸」といった要素がある。諸外国では「eVTOL」(Electric Vertical Take-Off and Landing aircraft)やUAM(Urban Air Mobility)とも呼ばれており、世界各国により機体開発が進められている。
  12. 注32 CORSIAとは、目標達成を補完するための制度として、2016年のICAO第39回総会で、市場メカニズムの活用(「市場メカニズムを活用した全世界的な排出削減制度(Global Market-Based Measures:GMBM)」)の導入が決議され、その具体的な内容「国際民間航空のためのカーボン・オフセット及び削減スキーム(Carbon Offsetting and Reduction Scheme for International Aviation:CORSIA)」のこと。
  13. 注33 SAFとはバイオジェット燃料を含む持続可能な航空燃料(Sustainable Aviation Fuel)のことであり、化石由来のジェット燃料と比較して約60%~約80%の二酸化炭素削減効果がある。
  14. 注34 航空分野の二酸化炭素排出削減の具体的な取組みに関しては、第Ⅱ部第8章第1節2(6)③参照。
  15. 注35 【関連リンク】国産SAFを使用した本邦航空会社によるフライトを実施しました。
    出典:国土交通省
    URL:https://www.mlit.go.jp/report/press/kouku08_hh_000023.html
  16. 注36 我が国は「国際海運2050年カーボンニュートラル」を目指すことを2021年10月に発表した。