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国土交通白書 2022

第1節 わたしたちの暮らしの脱炭素化に向けた取組みの課題と方向性

■3 脱炭素化に資するまちづくりに向けた取組みの課題と方向性

 生活の拠点を形成するまちづくりは、前述の住まいや交通等の観点を包含しており、わたしたちの暮らしの基盤であり、地域の活力や生活の質とともに、地域の持続可能性の確保に向けて環境負荷の軽減を図る必要がある。以下では、地域脱炭素に向けた動向、集約型のまちづくり、グリーンインフラを活用した脱炭素型まちづくり、デジタル技術や民間資金による環境に配慮した都市開発等の順にみていく。

(1)地域脱炭素に向けた動向

①現状と課題

(ゼロカーボンシティ)

 「2050 年までの二酸化炭素排出量実質ゼロ」を目指す自治体、いわゆるゼロカーボンシティが2022年3月末時点で679自治体となっており、表明自治体の人口を足し合わせると、1億1,700 万人を超えている。

図表Ⅰ-2-1-40 2050年ゼロカーボンシティを表明した自治体人口・数の推移
図表Ⅰ-2-1-40 2050年ゼロカーボンシティを表明した自治体人口・数の推移

資料)環境省

 今後、二酸化炭素排出実質ゼロの達成に向けた取組みが課題である。

(地域別の二酸化炭素排出動向)

 都道府県別の年間二酸化炭素排出量は地域差があり、大都市で排出量が多く、その内訳は、業務部門のシェアが多い首都圏、産業部門のシェアが多い大都市など地域差がある。このため地域特性に応じた対策が必要である。

図表Ⅰ-2-1-41 都道府県別二酸化炭素排出量(2018年度)
図表Ⅰ-2-1-41 都道府県別二酸化炭素排出量(2018年度)

資料)環境省「部門別CO2排出量の現況推計(2018年度)」より国土交通省作成

 このうち、業務部門について、市区町村別にみると、東京都区部及び政令指定都市で全体の約4割を占めている。これらの都市におけるビルなどの建築物のエネルギー消費の削減に向けた取組みが課題である。また、産業部門については、鉄鋼業・化学工業の製造品出荷額が多い地域で二酸化炭素排出量が多くなっていることがうかがえる。

図表Ⅰ-2-1-42 二酸化炭素排出割合(業務部門、2018年度)
二酸化炭素排出量と鉄鋼業・化学工業製造品出荷額(産業部門、2018年度)
図表Ⅰ-2-1-42 二酸化炭素排出割合(業務部門、2018年度)<br>二酸化炭素排出量と鉄鋼業・化学工業製造品出荷額(産業部門、2018年度)

資料)左:環境省「部門別CO2排出量の現況推計(2018年度)」より国土交通省作成
右:環境省「部門別CO2排出量の現況推計(2018年度)」、経済産業省「工業統計調査(2018年度)」より国土交通省作成

②今後の方向性

 ゼロカーボンシティの実現による地域の脱炭素化に向け、先行的なモデル事例として、都市部の街区や離島等における脱炭素先行地域について2030年度までに少なくとも100事例の創出を図る。

 また、ゼロカーボンシティの実現には再生可能エネルギーの活用が欠かせないなか地域のエネルギー需要を上回る発電ポテンシャルがある農村等の地域より、地域のエネルギー需要を自ら賄うことができない都市部へ送電すること等により、広域的な需給バランスを確保すべく、地域間の連携を図ることが重要である。また、エネルギーの地産地消に向けた分散型エネルギーシステムの形成を進める必要がある。

③技術革新・社会実装に向けた足元の動き

(スマートグリッド)

 地域で発電された再生可能エネルギーを大量かつ計画的に送配電するためには、情報通信技術を活用して需給のバランスをとり、安定供給を実現するスマートグリッド技術が必要である。スマートグリッドでは、電力を供給する発電所(供給側)と、住宅や事業所といった電力消費地(需要側)がネットワークで結ばれ、双方向でデータをやりとりすることで、供給側はリアルタイムで電力需要を把握できる。これにより、電気の発電量や供給量を遠方から調整できるため、必要な電力を必要なだけ送電でき、電力ピーク需要に合わせた柔軟な電力供給を行うことができる。

 スマートグリッドを用いることで、太陽光発電、風力発電、バイオマス発電といった発電量が不安定な自然エネルギーを既存の電力網に組み込み、電力需要に応じ、複数の電源から電力を融通できるようになる。

図表Ⅰ-2-1-43 再生可能エネルギーの発電ポテンシャルの地域差
図表Ⅰ-2-1-43 再生可能エネルギーの発電ポテンシャルの地域差

資料)国土交通省

(エネルギーの面的な利用)

 大都市の業務中枢拠点において、世界水準のビジネス機能・居住機能を集積し、国際的な投資と人材を呼び込むためには、災害に対する脆弱性を克服していくことが重要である。都市部での面的なエネルギーの効率的な利用を推進することで、災害時の業務継続に必要なエネルギーの安定供給が確保される業務継続地区(BCD:Business Continuity District)を構築するとともに、二酸化炭素の排出量を削減していく。

図表Ⅰ-2-1-44 都市部での面的なエネルギーの効率的な利用の推進
図表Ⅰ-2-1-44 都市部での面的なエネルギーの効率的な利用の推進

資料)国土交通省

(2)集約型のまちづくり

 市街地の拡散は、社会経済の側面に加え、環境負荷の軽減の側面からも課題である。市街地の無秩序な拡散を抑制し、商業、業務、公共施設等の多様な都市機能がコンパクトにまとまった集約型のまちづくりが必要である。

 集約型のまちづくりには、単に市街地の居住者を増やすだけではなく、市街地をコンパクトにまとめ、歩いて暮らせるまちづくりや公共交通機関の整備を進め、自家用車に過度に依存しない移動環境を整えるとともに、都市機能が集積し、人々が集まるような魅力ある市街地の形成が重要である。

 これにより、脱炭素化のみならず、高齢者等の生活利便性の確保や都市経営コストの低減等の観点からも効果的である。

①現状と課題

 コンパクト・プラス・ネットワーク注37の実現に向けては、地方公共団体の脱炭素化を考慮した立地適正化計画注38・地域公共交通計画注39に基づく取組み等が重要であるが、立地適正化計画については626都市(2022年3月末時点)が具体的な取組みを行い、地域公共交通計画は714都市で策定(2022年3月末時点)されている。

 都市構造や交通システムは、交通量等を通じて、中長期的に二酸化炭素排出量に影響を与え続けることから、従来の拡散型のまちづくりからの転換を目指し、都市のコンパクト化と公共交通網の再構築(コンパクト・プラス・ネットワーク)、人中心の「まちなか」づくり、都市のエネルギーシステムの効率化等による脱炭素に資する都市・地域づくりを推進することが課題である。

図表Ⅰ-2-1-45 脱炭素化に資するコンパクト・プラス・ネットワーク
図表Ⅰ-2-1-45 脱炭素化に資するコンパクト・プラス・ネットワーク

資料)国土交通省

②今後の方向性

 都市のコンパクト化やゆとりとにぎわいのあるウォーカブルな空間の形成等により車中心から人中心の空間へ転換するとともに、これと連携した公共交通の更なる利用促進や、都市内のエリア単位の脱炭素化に向けて包括的に取り組んでいる。

 都市内の脱炭素化に向けて、シェアサイクルの利用環境整備や、自転車走行空間の整備により、自転車利用を促進することも重要である。まちなかにおいて多様な人々が集い、交流することができる空間を形成し、都市の魅力を向上させることが必要である。

 また、立地適正化計画を作成した市町村数を448(2021年度)から600(2024年度)へ増やし、立地適正化計画や低炭素まちづくり計画に基づく居住や都市機能の集約による都市のコンパクト化の推進、地域公共交通計画や都市・地域総合交通戦略等を通じた公共交通の利便性向上による利用促進、エネルギーの効率的利用を支援していく。

(3)グリーンインフラを活用した脱炭素型まちづくり

①現状と課題

 緑地は、二酸化炭素の吸収源として温暖化の緩和に貢献するものであり、国土づくりの中で森林の整備・保全、都市緑化等を推進する必要がある。特に、都市部におけるまとまった緑地は、都市活動で排出される人工排熱の増加や、建築物・舗装面の増大等による地表の人工化によって引き起こされる気温の上昇やヒートアイランド現象の緩和にも寄与する。また都市部における生産緑地等の保全活用は、良好な都市環境の形成のみならず、市民農園の整備の面でも、居住環境の向上に資するものである。

 今後とも、緑地、水辺保全・再生・創出等を通じて、居住環境等の改善とともに、地球環境への負荷の軽減を図っていくことが必要である。

②今後の方向性

 都市公園の整備、官公庁施設等における緑化について、官民連携により総合的に推進し、脱炭素に資する都市・地域構造を形成する。

 また、社会資本整備や土地利用等のハード・ソフト両面において、二酸化炭素の吸収源となる自然環境が有する多様な機能を活用したグリーンインフラの社会実装を推進するため、グリーンインフラの計画・整備・維持管理等に関する技術開発やグリーンファイナンス等による民間投資の拡大を図る注40

③技術革新・社会実装に向けた足元の動き

(グリーンインフラ)

 グリーンインフラに関する企業の動きとして、例えば、東京建物株式会社では、大手町タワーにおいて、敷地全体の約3分の1に相当する約3,600m²を「大手町の森」として緑化した。この緑地の存在により、生物多様性の保全やヒートアイランド現象の緩和を図るとともに、緑や水が豊かな都市空間による、環境に高い関心を有する人材、企業、民間投資の呼び込みを通じ、経済の活性化を図っている。

図表Ⅰ-2-1-46 グリーンインフラの例(大手町の森)
図表Ⅰ-2-1-46 グリーンインフラの例(大手町の森)

資料)東京建物株式会社

(ブルーカーボン)

 地方公共団体等では、藻場・干潟等の造成・再生・保全の取組みの推進や、藻場・干潟等を対象としたブルーカーボン注41・オフセット・クレジット制度の構築に取り組んでいる。

 横浜市では、横浜ブルーカーボン・オフセット制度により、市内のブルーカーボン等による二酸化炭素吸収量の増大及び排出量の削減効果を、取引可能なクレジットとして独自の方法論によって認証し、そのクレジットの売買を行うことで、海の環境活動の更なる推進を目指している。

(4)デジタル技術や民間資金による環境に配慮した都市開発等

①現状と課題

(まちづくりのデジタル・トランスフォーメーション)

 近年、IoT(Internet of Things)、ロボット、人工知能(AI)、ビッグデータといった社会のあり方に影響を及ぼす技術開発が進展している中、これらの技術をまちづくりに取り込み、都市の抱える課題の解決を図っていくことが求められている。

 国土交通省では、スマートシティやProject PLATEAU(プラトー)注42など、デジタル技術の活用による都市の課題解決や新たな価値創出を図り「人間中心のまちづくり」を実現する「まちづくりDX」の取組みが進められている。

 気候変動の緩和に向けて、例えば、デジタル技術を活用したエネルギー需要予測の精度向上によりエネルギー融通効率化を図ることや、人流・交通データ等を活用し、エリア内の二酸化炭素排出量等を見える化し、脱炭素対策の検討を行うことなどが重要である。

(不動産へのESG投資)

 不動産投資においては欧米各国をはじめとして、投資先へのESGやSDGsへの配慮を求める動きが拡大している。不動産市場へのESG投資を呼び込むことで、我が国の不動産市場での脱炭素化、気候変動への対応や災害への対応など、環境分野の課題に対応した良質なストック形成が促進される。これは経済成長への貢献とともに、持続可能な安全・安心な社会の実現を可能とするものである。

図表Ⅰ-2-1-47 ESG投資の概念図
図表Ⅰ-2-1-47 ESG投資の概念図

資料)国土交通省

②今後の方向性

 スマートシティの実装の加速化、3D都市モデルを活用した環境シミュレーションやモニタリング、エネルギーマネジメント等の取組み、デジタル技術やデータを官民の多様な主体で駆使するまちづくりを推進する。また、2021年3月に公表した不動産分野TCFD注43対応ガイダンスの改訂により不動産へのESG投資を促進する。

③技術革新・社会実装に向けた足元の動き

(Project PLATEAU)

 都市において屋上に太陽光発電パネルを設置する場合には、周囲の建物による阻害など、周囲の環境に発電量が左右されるため、日射量が十分に得られる屋根を選定し、効率よく太陽光パネルを設置する必要がある。PLATEAU注44では、3D都市モデルが持つ建物の屋根面積、傾き、隣接建物による日陰影響等の情報や日射量等のデータを用いることで、太陽光発電パネルを設置した場合の発電量の精緻な推計及び太陽光パネルの設置時の反射シミュレーションを都市スケールで行うための手法を提供している。この結果を活用し、地域における太陽光発電パネルの普及のための施策の検討、特定エリアでのRE100化注45の推進、都市部での面的なエネルギー計画策定等につなげていくことを目指している。

図表Ⅰ-2-1-48 3D都市モデルの活用例(年間予測日射量結果のイメージ)
図表Ⅰ-2-1-48 3D都市モデルの活用例(年間予測日射量結果のイメージ)

資料)国土交通省

動画

PLATEAU Concept Film

URL:https://www.youtube.com/watch?v=RnJldic_IR8

動画

PLATEAU Use case Film

URL:https://www.youtube.com/watch?v=boRW9jFpPRA

  1. 注37 コンパクト・プラス・ネットワークとは、人口減少・少子高齢化が進む中、地域の活力を維持し、生活に必要なサービスを確保するため、人々の居住や必要な都市機能をまちなかなどのいくつかの拠点に誘導し、それぞれの拠点を地域公共交通ネットワークで結ぶ、コンパクトで持続可能なまちづくりの考え方である。
  2. 注38 立地適正化計画とは、居住機能や医療・福祉・商業、公共交通機関等さまざまな都市機能の誘導により都市全域を見渡したマスタープランである。
  3. 注39 地域公共交通計画とは、地域にとって望ましい地域旅客運送サービスの姿を表すマスタープランである。
  4. 注40 産官学の多様な主体からなる「グリーンインフラ官民連携プラットフォーム」の運営を通じて、自然環境が有する多様な機能の評価手法の開発や炭素固定に資する要素技術等の収集・管理を実施している。またESG投資の呼び込みなど、グリーンファイナンスの活用推進に向けた検討を実施している。
  5. 注41 ブルーカーボンとは、2009年に国連環境計画の報告書において、藻場や浅場等の海洋生態系に取り込まれた炭素が「ブルーカーボン」と命名され、地球温暖化対策の新しい可能性として提示されたもの。ブルーカーボンを隔離・貯留する海洋生態系として、海草藻場、海藻藻場、湿地・干潟、マングローブ林が挙げられており、これらは「ブルーカーボン生態系」と呼ばれている。
  6. 注42 国土交通省では、現実の都市空間をサイバー空間上で再現する「3D都市モデル」の整備・オープンデータ化と、これを活用した様々な課題解決を行うProject PLATEAU(プラトー)を進めており、脱炭素まちづくりにおいてもその有効性が示されている。
  7. 注43 TCFDについては、第Ⅰ部第1章第2節3(2)参照。
  8. 注44 【関連リンク】PLATEAU by MLIT
    出典:国土交通省
    URL:https://www.mlit.go.jp/plateau/
  9. 注45 RE100については、第Ⅰ部第2章第2節1参照