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国土交通白書 2022

第2節 再生可能エネルギー等への転換に向けた取組み

インタビュー エネルギーを耕し育てる時代への転換に向けて

足利大学理事・名誉教授・牛山泉氏
足利大学理事・名誉教授・牛山泉氏

 脱炭素社会の実現に向けて、2020年の政府による「2050年カーボンニュートラル宣言」を契機に、再生可能エネルギーを主力電源化する動きが活発化している。我が国は先進諸国の中で再生可能エネルギーの導入が遅れていたが、速やかな再エネシフトが求められている。風力エネルギー利用を中心とした再生可能エネルギーの研究開発や開発途上国への技術協力に取り組まれている牛山泉氏に、再生可能エネルギーの可能性や関連技術の動向などについてお話を伺った。

■日本は再生可能エネルギーの宝庫

 日本は再生可能エネルギーの宝庫である。日本には約3万本の河川と既存のダムがあり、水力発電のポテンシャルは高い。バイオマスについても、日本は国土の約7割が森林に覆われており、世界でもトップクラスの森林資源を有する木質バイオマス王国でもある。また、地熱発電のポテンシャルは世界3位といわれており、世界の地熱発電所の発電システムは70%を日本の3社が製造しており、技術的なポテンシャルも高い。さらに世界2位の導入量を誇る太陽光発電があり、洋上風力のポテンシャルは、電力需要の9倍もあり、これを開発すると世界3位の洋上風力発電王国となる。波力や潮流を利用する発電も先進的な開発が実施されており、日本の電力需要をこれら再生可能エネルギーで賄っていくポテンシャルが十分にあると考えている。

■洋上風力発電は特にポテンシャルが高く、直面する課題を乗り越え、国際競争力を強化すべき

 日本は、陸地の約7割が山岳丘陵であり、平地には都市や工場等があるため、陸上での風力発電の開発導入には限界があるが、周囲を海に囲まれた排他的経済水域世界6位という洋上風力に目を向けるべきである。IEA(国際エネルギー機関)によると、日本の電力需要の約9倍ものポテンシャルが洋上風力にあるとの報告もある。日本政府は、第6次エネルギー基本計画において、2030年までに洋上風力発電1,000万キロワット、2040年までに3,000~4,500万キロワットという目標を掲げ、その目標を支えるための産業・サプライチェーン、関連企業を育成し、産業界の目標として、2040年までに関連部品の60%を国産化する目標を掲げている。

 欧州の北海では、洋上風力のための巨大風車が5,400本も回っており、特に海洋国の英国の動きが大きく先行しているが、同様に海洋国である日本にはさらに大きなポテンシャルがあると考えている。風の観点では、欧州は偏西風帯にあり常に強い風が吹いているが、日本はアジアモンスーン地帯のため、冬の風は強いが夏は弱いという課題がある。また、北海と異なり、台風や春一番などの強風により風車が破損することもあることに加えて、欧州にはない極めて強い冬季雷や地震も多い。しかし、日本には、これらの課題を解決するために蓄積してきた高い技術力がある。例えば、雷の対処として風車の羽に取り付けたレセプターとダウンコンダクターにより、雷を瞬時に地面に逃がす技術等である。日本と同様の気候条件であるアジア地域での市場開拓において、その技術力が役立つはずである。様々な課題を解決するためにはコストを要するが、日本は引き続き技術力を高めるべきである。例えば風車の設計基準は、基本的に雷や台風が少ない欧州で原案が作成されIEC(国際電気標準会議)が定めているが、台風や雷に対する知見、あるいは陸上風車の乱流についての知見を日本から提唱してきた。このように、欧州にはない強みを生かして新しい市場を開拓することも可能であると考えている。

 かつて日本は造船王国といわれ、船づくりや海洋関係の技術に蓄積がある。特に浮体式洋上風力発電の浮体は造船技術そのものであるといっても過言ではなく、その技術を生かしていくべきである。

 また、洋上風力発電には基地港湾が必要であり、現在は基地港湾に能代港、秋田港、鹿島港、北九州港の4港が指定されている。今後は、洋上風力発電のポテンシャルが高い北海道等の北日本方面での基地港湾の増強が求められる。さらに洋上で発電した電力を陸上に輸送するための海底ケーブルの設置も重要であり、政府では直流高圧送電の検討がなされている。

■エネルギーハンティング(狩猟時代)から、エネルギーカルティベーション(耕し育てる時代)へ。
 環境に対する倫理観や道義心を大切にしてほしい。

 私たちが生活してゆくために、一般的に衣食住が大切だと言われているが、それを支えているのはエネルギーであり、我々はそのエネルギーがあることを前提に生活を営んでいる。現在、日本はそのエネルギーのほとんどを海外から輸入しているが、今後はエネルギーの自給率を高めるためにも、国産のエネルギーであるポテンシャルの高い再生可能エネルギーを積極的に活用すべきである。生活の基盤にはエネルギーがあり、そのエネルギーを作る際に二酸化炭素を排出していては、持続可能な生活が難しいことを認識することが重要である。脱炭素の取組みでは、高い技術のみならず、倫理観・道義心を育んでいくとの着目点も大切である。

 人類は狩猟生活から栽培・農耕(カルティベーション)へ移行することで繁栄してきた。エネルギーの分野でも、地中から化石燃料を掘り出してきて使うようなエネルギーハンティング(狩猟時代)から、使ってもなくならないエネルギーカルティベーション(耕し育てる時代)へ転換しなければならない。このカルティベーションのキーワードは持続可能性である。今後は、世界に誇れる日本の技術者達に洋上風力産業に参画してもらい、さらに持続可能な再生可能エネルギー分野が活性化することを願っている。