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国土交通白書 2022

第1節 気候変動時代の暮らしを見据えた地域づくり

コラム デンマーク、フィンランド、タイの事例(移動)

 海外では、移動の脱炭素化に向け、様々な取組みが行われている。ここでは、自転車の活用促進に取り組むデンマーク・コペンハーゲン、都市交通のMaaSに取り組むフィンランド・ヘルシンキ、また温室効果ガスの削減と生活の質の向上を目指すタイ・バンコクの取組みについて紹介する。

■自転車の活用促進

(環境政策と連動した交通計画、コペンハーゲン)

 デンマークの首都コペンハーゲンは人口約62万人であり、欧州モビリティ週間(European Mobility Week)賞を2006年に受賞した実績がある。2025年までのカーボンニュートラル達成を目指す「コペンハーゲン2025年気候計画」を2012年に策定し、交通分担率については、車を25%以下に抑えるとともに、通勤・通学の50%を自転車とする目標を設定している。なお、2019年でのコペンハーゲン市の交通分担率については、車が30%と最も高いものの、自転車が28%と2番目に高く、以下公共交通(タクシーを除く。)と徒歩がそれぞれ21%である。

 当該計画に連動して同市が策定した「グリーンモビリティのための行動計画」(Action Plan for Green Mobility)は、自転車、公共交通を含むグリーンモビリティについて、都市計画に取込むとともに、鉄道駅及びバスターミナルでの物理的改善を通じた自転車と公共交通の接続強化のほか、自転車と公共交通の魅力向上による利用拡大の数値目標を設定している。また、通勤者のニーズを優先し、公共交通と接続する通勤を容易にすべく、鉄道駅に近接して計画されるサイクル・スーパーハイウェイも、デンマーク首都地域の周辺自治体等と連携し、順次整備を進めている(初のルート開通は2012年)。

自転車専用道路と鉄道車内の自転車スペース
自転車専用道路と鉄道車内の自転車スペース

資料)
左)“Troels Heien, City of Copenhagen”
右)国土交通政策研究所

■都市交通でのMaaS

(都市交通の脱炭素化と利便性向上、ヘルシンキ) 

 ヘルシンキは、人口約65万人のフィンランドの首都である。同市における二酸化炭素排出量のうち5分の1を運輸部門が占めている。同市では、運営事業者MaaS Globalが「Whim」というアプリを通じて、バス、トラム、レンタカー、タクシー等、各種移動手段のルート検索、予約、決済機能を一元化し、サブスクリプション型の料金体系を提供している。

 公共交通機関の利便性を向上させることで、自家用車から公共交通による移動へのシフトを促しており、「Whim」の利用者に限っては、サービス導入前後で、公共交通の利用が増加し、自家用車利用が減少している。

MaaSイメージ
MaaSイメージ

資料)copyright of MaaS Global

■温室効果ガスの削減と生活の質(QOL)の向上を目指す「QOL-MaaS」の取組み(「QOL-MaaS」、バンコク)

 タイのバンコクでは、1999年に初めて高架鉄道が開業して以降、市内の鉄道網が20年間で約20kmから210kmに拡大するなど、早い進捗で整備が進んできた。しかしながら、所得上昇に伴って自家用車利用が急増し、通勤時渋滞は未だ激しく大気汚染も深刻となり、生活の快適さを示すQOLの低下が危惧されている。この状況を受け、タイ政府機関・バンコク都庁と中部大・タマサート大、JICA・JSTなどが協力し「QOL-MaaS」の開発が進んでいる。

 通常の経路検索システムが、通勤・買物等の生活動作の時間・場所を所与としたうえで車や鉄道など移動による最短経路検索をするのに対し、「QOL-MaaS」では年齢、性別など個人属性で異なるニーズに応じてQOLを最大化する一日の活動・移動の順列組み合わせを推奨することにより、社会の交通需要を抜本的に削減しつつ一人一人が最も快適に移動できる、コロナ後にも適した行動変容を促すシステムが構築される。

 目指すは、個人のQOL向上と、道路渋滞や大気汚染による経済損失等の社会コスト低減同時達成である。

バンコクの交通渋滞
バンコクの交通渋滞

資料)独立行政法人国際協力機構