国土交通省ロゴ

国土交通白書 2022

第1節 気候変動時代の暮らしを見据えた地域づくり

コラム フランス、フィンランドの事例(まちづくり)

 海外では、脱炭素に向けたまちづくりとして、街の特性を活かした取組みが進展している。ここでは、住民の暮らしやすさと環境負荷の低減に向けて自動車から自転車や徒歩での移動を促進する環境の整備を進めるフランス・パリ、積雪に対応した取組みを行うフィンランド・ラハティの事例について紹介する。

■「15分都市圏」(パリ)

 パリは、人口約220万人(通勤・通学圏のイル・ド・フランス地域圏を含めると約1,220万人)の大都市であるとともに、年間約9千万人が訪れる観光大国フランスの首都であるが、大気汚染や騒音、交通渋滞といった課題をこれまでも抱えてきた。こうした課題に対応するため、公共空間の改造が進められており、特に2014年以降、市街地における自家用車利用の低減、歩行者空間の増大、自転車を始めとした環境に優しいモビリティの活用、公共空間の緑化などの政策が積極的に展開され、環境負荷の低減とともに市民の暮らしやすさを支えている。

 具体的には、期間を区切った形での歩行者天国の増加や環境ステッカーの義務化(大気汚染の度合いが高い日は、排出ガスの汚染度が高い自動車はパリ市内での運転を禁止)、自動車の最高時速制限(2021年8月末よりパリ市内のほとんどの道路が30km/時の制限速度を導入)、自転車道の整備などが挙げられる。特に、ルーブル美術館やコンコルド広場にほど近いリヴォリ通りでは3車線のうち2車線が自転車専用道(残りの1車線もバス、タクシーの商用車専用)とされるなど、まちの中心部において自転車専用道の整備が積極的に行われている。この結果、パリというまちのコンパクトさも相まって、自家用自転車のほか、2007年に登場したヴェリブ(Velib’)を筆頭にシェアサイクルがまちなかで手軽に利用可能であり、近年は電動スクーターの利用者もよく見かけられるようになっている。

「パリ15分都市圏」
「パリ15分都市圏」

資料)パリ市ウェブサイト

 また、こうした取組みを支えるまちづくりの方針の1つとして「15分都市圏」構想というものがある。これは、買い物、仕事、娯楽、文化、スポーツ、医療など、生活に必要なものすべてが自宅から徒歩15分、自転車5分圏内でアクセスできるという考えである。この構想の実現に当たっては、既存の施設をさまざまな形で有効活用することを基本としており、例えば、学校の校庭を開放し、市民のレクリエーションや文化活動の場としている。

リヴォリ通りの自転車専用道
リヴォリ通りの自転車専用道

資料)国土交通省

■公共交通でアクセスするスキーリゾート(ラハティ)

 ラハティ市は、首都ヘルシンキから北東約100km程度に位置する人口約12万人の市であり、これまでFISノルディックスキーワールドカップが開催されたこともあるフィンランド南部の湖畔の町である。同市では、シティスキーの取組みとして、市内に配置されたスキー道具を市民間で共有し、道路凍結時や深い積雪時にも活用している。また、ラハティのスキーリゾートは市の中心部近くに立地し、観光客が公共交通機関等でアクセスできるなど、自然資本を活かした環境に配慮したリゾートの特徴を有している。このほか、循環経済に関しても先進的な取組みを実施しており、地域で発生した廃棄物の3分の1は新製品の原料として、残りの3分の2はエネルギー生産のために再利用するなどにより、同市の温室効果ガス排出量は1990年と比較して70%削減されている。今後、同市は、2025年までにカーボンニュートラルな都市になり、2050年までに廃棄物ゼロの循環経済都市となることを目指している。

資料)Toivo Heinimäki /City of Lahti

資料)Panu Salonen /City of Lahti