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国土交通白書 2022

第5節 危機管理・安全保障対策

■1 犯罪・テロ対策等の推進

(1)各国との連携による危機管理・安全保障対策

①セキュリティに関する国際的な取組み

 主要国首脳会議(G7)、国際海事機関(IMO)、国際民間航空機関(ICAO)、アジア太平洋経済協力(APEC)等の国際機関における交通セキュリティ分野の会合やプロジェクトに参加し、我が国のセキュリティ対策に活かすとともに、国際的な連携・調和に向けた取組みを進めている。

 平成18年に創設された「陸上交通セキュリティ国際ワーキンググループ(IWGLTS)」には、現在16箇国以上が参加しており、陸上交通のセキュリティ対策に関する枠組みとして、更なる発展が見込まれているほか、日米、日EUといった二国間会議も活用し、国内の保安向上、国際貢献に努めている。

②海賊対策

 国際海事局(IMB)によると、令和3年における海賊及び武装強盗事案の発生件数は132件であり、地域別では、ソマリア周辺海域が1件、西アフリカ(ギニア湾)が35件及び東南アジア海域が56件となっている。

図表Ⅱ-7-5-1 国土交通省に報告された我が国に関係する船舶における海賊及び武装強盗被害発生状況(令和3年)
図表Ⅱ-7-5-1 国土交通省に報告された我が国に関係する船舶における海賊及び武装強盗被害発生状況(令和3年)

(注)我が国に関係する船舶:日本籍船又は日本の船舶運航事業者が運行する外国籍船

 平成20年以降、ソマリア周辺海域において凶悪な海賊事案が急増したが、各国海軍等による海賊対処活動、商船側によるベスト・マネジメント・プラクティス(BMP)注24に基づく自衛措置の実施、商船の民間武装警備員の乗船等国際社会の取組みにより、近年は低い水準で推移している。しかしながら、不審な小型ボートに追跡され銃撃を受ける事案が依然として発生しており、商船の航行にとって予断を許さない状況が続いている。

 このような状況の下、我が国としては、「海賊行為の処罰及び海賊行為への対処に関する法律」に基づき、海上自衛隊の護衛艦により、アデン湾において通航船舶の護衛を行うと同時に、P-3C哨戒機による警戒監視活動を行っている。国土交通省においては、船社等からの護衛申請の窓口及び護衛対象船舶の選定を担うほか、一定の要件を満たす日本船舶において民間武装警備員による乗船警備を可能とする「海賊多発海域における日本船舶の警備に関する特別措置法」の運用を適切に行い、日本籍船の航行安全の確保に万全を期していく。

 海上保安庁においては、ソマリア沖・アデン湾における海賊対処のために派遣された護衛艦に、海賊行為があった場合の司法警察活動を行うため海上保安官8名を同乗させ、海上自衛官とともに海賊行為の警戒及び情報収集活動に従事させている。また、同周辺海域沿岸国の海上保安機関との間で海賊の護送と引渡しに関する訓練等を実施している。

 東南アジア海域等においては、巡視船や航空機を派遣し、寄港国海上保安機関と海賊対処連携訓練や意見・情報交換を行うなど連携・協力関係の推進に取り組んでいる。

 加えてこれらの海域の沿岸国の海上保安機関職員に対し研修等を行うなど法執行能力向上のための支援に積極的に取り組んでいるほか、アジア海賊対策地域協力協定(ReCAAP)に基づいて設置された情報共有センター(ISC)へ職員を派遣するなど国際機関を通じた国際的連携・協力に貢献している。

図表Ⅱ-7-5-2 「世界における海賊及び武装強盗事案発生件数の推移(IMB報告による)」及び「令和3年における海賊及び武装強盗事案の海域別発生件数(IMB報告による)」
図表Ⅱ-7-5-2 「世界における海賊及び武装強盗事案発生件数の推移(IMB報告による)」及び「令和3年における海賊及び武装強盗事案の海域別発生件数(IMB報告による)」

(注)
1 ソマリア周辺海域の件数は、平成20年、21年、26年から令和2年、3年にあっては、ソマリア、アデン湾及び紅海で発生している事案、また、22年から25年にあってはソマリア、アデン湾及び紅海の件数にアラビア海、インド洋及びオマーンで発生している事案を計上。
2 西アフリカの件数は、アンゴラ、ベナン、カメルーン、コンゴ共和国、サントメ・プリンシペ、赤道ギニア、ガボン、ガーナ、ギニア、ギニアビサウ、コートジボワール、リベリア、ナイジェリア、コンゴ民主共和国、セネガル、シエラレオネ、トーゴで発生している事案を計上。

図表Ⅱ-7-5-2 「世界における海賊及び武装強盗事案発生件数の推移(IMB報告による)」及び「令和3年における海賊及び武装強盗事案の海域別発生件数(IMB報告による)」

③中東地域における対応

 我が国に輸入される原油の約9割は中東地域からのものであり、中東地域を航行する船舶の航行の安全を確保することは重要である。中東地域は、高い緊張状態が継続しており、航行船舶に対する事案も発生し、令和元年6月13日にはオマーン湾を航行していた我が国関係船舶が攻撃を受ける事案が発生している。

 我が国としては、令和3年12月24日に元年12月27日の閣議決定「中東地域における日本関係船舶の安全確保に関する政府の取組みについて(2年12月11日一部変更)」を一部変更し、引き続き、更なる外交努力や航行安全対策の徹底、自衛隊による情報収集活動を行っている。国土交通省においても、関係省庁から情報共有を受けつつ関係業界との綿密な情報共有や適時の注意喚起等に引き続き取り組み、我が国関係船舶の航行安全の確保に万全を期していく。

④港湾における保安対策

 日ASEANの港湾保安専門家による会合等、諸外国との港湾保安に関する情報共有等を通じて、地域全体の港湾保安の向上を図る。

(2)公共交通機関等におけるテロ対策の徹底・強化

 国際的なテロの脅威は極めて深刻な状況であり、公共交通機関や重要インフラにおけるテロ対策の取組みを進めることは重要な課題である。今後のG7サミットや大阪・関西万博などの大型国際イベントの開催等も見据え、国土交通省では、所管の分野においてハード・ソフトの両面からテロ対策を強化する等、引き続き、関係省庁と連携しつつ、取組みを進める。

①鉄道におけるテロ対策の推進

 令和3年10月31日に発生した京王線車内傷害事件等を受けて同年12月3日にとりまとめた今後の対策等を踏まえ、駅構内の巡回や警戒添乗等の実施及びその周知等に取り組んでいるほか、各種非常用設備の表示の共通化、防犯関係設備の充実及び手荷物検査に関する環境整備等について、関係者との検討を進めている。

図表Ⅱ-7-5-3 国際航海船舶及び国際港湾施設における保安装置
図表Ⅱ-7-5-3 国際航海船舶及び国際港湾施設における保安装置

資料)国土交通省

②船舶・港湾におけるテロ対策の推進

 「国際航海船舶及び国際港湾施設の保安の確保等に関する法律」に基づく国際航海船舶の保安規程の承認・船舶検査、国際港湾施設の保安規程の承認、入港船舶に関する規制、国際航海船舶・国際港湾施設に対する立入検査及びポートステートコントロール(PSC)を通じて、保安の確保に取り組んでいる。

③航空におけるテロ対策の推進

 国際民間航空条約に規定される国際標準に従って航空保安体制の強化を図るとともに、各空港においては、車両及び人の侵入防止対策としてフェンス等の強化に加え、侵入があった場合に迅速な対応ができるよう、センサーを設置するなどの対策を講じている。「テロに強い空港」を目指し、全国の空港において従来型の検査機器からボディスキャナーをはじめとした高度な保安検査機器(爆発物自動検知機器等)への入れ替えを加速度的に促進し、今後の航空需要の回復・増大に向け、航空保安検査の高度化を図るとともに、新技術を活用した新たな検査機器の導入を推進した。保安検査に関する諸課題について検討を行うため、令和2年6月から開催している有識者会議において保安検査の位置付け、保安検査の役割分担、保安検査の量的・質的向上等の課題に関して検討を進めており、その議論を踏まえ、3年6月、保安検査の受検義務付け等を内容とする「航空法等の一部を改正する法律」が成立・公布され、4年3月より施行された。

 加えて、2年7月に「重要施設の周辺地域の上空における小型無人機等の飛行の禁止に関する法律」に基づき8空港(新千歳空港、成田国際空港、東京国際空港、中部国際空港、関西国際空港、大阪国際空港、福岡空港、那覇空港)を対象空港として指定し、当該空港周辺での小型無人機等の飛行を禁止するとともに、これに違反して飛行する小型無人機等に対する退去命令や飛行妨害等の措置をとることができるよう体制整備を行っている。また、上記8空港以外の空港についても、2年9月より、空港の機能を確保する観点から、空港の設置者に対し、空港周辺における無人航空機の飛行等の行為に関し、行為が禁止されていることの周知や場周警備の一環としての巡視の実施、違反行為が確認された場合の連絡体制の構築等を義務付け、これらの実施のための体制整備を行っている。

④自動車におけるテロ対策の推進

 防犯カメラの設置、不審者・不審物発見時の警察への通報や協力体制の整備等、テロの未然防止対策を推進している。多客期におけるテロ対策として、車内の点検、営業所・車庫内外における巡回強化、警備要員等の主要バス乗降場への派遣等を実施するとともに、バスジャック対応訓練の実施についても推進している。

⑤重要施設等におけるテロ対策の推進

 河川関係施設等では、河川・海岸等の点検・巡視時における不審物等への特段の注意、ダム管理庁舎及び堤体監査廊等の出入口の施錠強化等を行っている。道路関係施設では、高速道路や直轄国道の巡回時の不審等への特段の注意、休憩施設のごみ箱の集約等を行っている。国営公園では、巡回警備の強化、はり紙掲示等による注意喚起等を行っている。また、工事現場では、看板設置等による注意喚起等を行っている。

(3)物流におけるセキュリティと効率化の両立

 国際物流においても、セキュリティと効率化の両立に向けた取組みが各国に広がりつつあり、我が国においても、物流事業者等に対してAEO制度注25の普及を促進している。現在では、AEO輸出者により輸出申告される貨物や、AEO保税運送者の輸送を前提にAEO通関業者に委託して輸出申告される貨物については、保税地域に搬入することなく輸出許可を受けることも可能となっている。

 航空貨物に対する保安体制については、荷主から航空機搭載まで一貫して航空貨物を保護することを目的に、ICAOの国際基準に基づき制定されたKS/RA制度注26を導入している。その後、米国からの更なる保安強化の要求に基づき、円滑な物流の維持にも留意しつつ同制度の改定を行い、平成24年10月より米国向け国際旅客便搭載貨物について適用を開始し、26年4月からはすべての国際旅客便搭載貨物についても適用を拡大した。

 また、主要港のコンテナターミナルにおいては、トラック運転手等の本人確認及び所属確認等を確実かつ迅速に行うため、出入管理情報システムの導入を推進し、平成27年1月より本格運用を開始している。加えて、CONPAS(新・港湾情報システム)における予約確認にも出入管理情報システムにおけるPS(Port Security)カードを活用することでセキュリティと効率化を両立させる取組みを行った。また、新型コロナウイルス感染症への対応の一環として、港湾物流事業を継続する必要があるため、セキュリティを確保しつつ本人確認及び所属確認等を非接触に行えるよう出入管理情報システムの改修を推進する。

(4)情報セキュリティ対策

 近年、情報セキュリティのサプライチェーンリスクが指摘される中、サイバー攻撃が複雑化・巧妙化しており、テレワークや遠隔会議システムの普及・拡大により、情報セキュリティ対策の重要性がますます高まっている。

 国土交通省においては、所管する独立行政法人や重要インフラ事業者等とともに情報セキュリティ対策の強化に取り組んでおり、内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)との連携の下、サイバー攻撃への対処態勢の充実・強化等の取組みを推進している。

  1. 注24 国際海運会議所等海運団体により作成されたソマリア海賊による被害を防止し又は最小化するための自衛措置(海賊行為の回避措置、船内の避難区画(シタデル)の整備等)を定めたもの。
  2. 注25 貨物のセキュリティ管理と法令遵守の体制が整備された貿易関連事業者を税関が認定し、通関手続の簡素化等の利益を付与する制度
  3. 注26 航空機搭載前までに、特定荷主(Known Shipper)、特定航空貨物利用運送事業者又は特定航空運送代理店業者(Regulated Agent)又は航空会社においてすべての航空貨物の安全性を確認する制度