国土交通省ロゴ

国土交通白書 2022

第1節 地球温暖化対策の推進

■2 地球温暖化対策(緩和策)の推進

(1)カーボンニュートラルなまちづくりへの転換

 人口と建築物が相当程度集中する都市部において、カーボンニュートラルなまちづくりへの転換を促進するため、市区町村における「都市の低炭素化の促進に関する法律」に基づく「低炭素まちづくり計画」や「都市再生特別措置法」に基づく「立地適正化計画」の作成、これらの計画に基づく取組みに対する各種の税制、財政措置等の活用を通じて、都市のコンパクト化とこれと連携した公共交通機関の利用等を促進し、環境負荷の低減に取り組んでいる。

(2)環境に優しい自動車の開発・普及、最適な利活用の推進

①自動車の燃費改善

  「エネルギーの使用の合理化等に関する法律(省エネ法)」に基づく燃費基準の策定等を行い、自動車の燃費性能の向上を図っている。具体的な取り組みとして、乗用車の燃費基準に関して、モード試験では反映されない燃費向上技術(オフサイクル技術)の評価方法について検討を行うとともに、重量車の電気自動車等のエネルギー消費性能(電費)の測定方法について検討を行った。

②燃費性能向上を促す仕組み

 消費者が燃費性能の高い自動車を容易に識別・選択できるよう、自動車メーカー等に対してカタログに燃費を表示させることを義務づけている。また、燃費性能に係るステッカー表示や、自動車燃費性能評価・公表制度に基づく自動車の燃費性能等の自動車局HPにおける公表を実施している。

③環境に優しい自動車の普及促進

 環境性能に優れた自動車の普及を促進するため、エコカー減税等による税制優遇措置を実施している。また、地球温暖化対策等を推進する観点から、トラック・バス事業者等に、燃料電池自動車、電気自動車、ハイブリッド自動車や天然ガス自動車等の導入に対する補助を行っている。

④次世代大型車等の開発、実用化、利用環境整備

 大型車の脱炭素化等を早期に実現するための調査研究を産学官連携のもと実施しており、電動化技術や内燃機関の高効率化等の次世代大型車関連の技術開発及び実用化の促進を図るための調査研究を行った。

⑤エコドライブの普及・推進

 シンポジウムの開催や全国各地でのイベント等を関係省庁や地方運輸局等と連携して推進し、積極的な広報を行った。また、「エコドライブ10のすすめ」をもとに、エコドライブの普及・推進に努めた。

(3)交通流対策等の推進

 交通流の円滑化による走行速度の向上が実効燃費を改善し、自動車からの二酸化炭素排出量を減らすことから、様々な交通流対策を実施している。具体的には、都市部における交通混雑を解消させるため、都心部を通過する交通の迂回路を確保し都心部への流入の抑制等の効果がある、環状道路等幹線道路ネットワークの強化、交差点の立体化、開かずの踏切等を解消する連続立体交差事業等を推進するとともに、円滑かつ安全な交通サービスの実現のため、今ある道路の運用改善や小規模な改良等により、道路ネットワーク全体の機能を最大限に発揮する取組みを推進している。また、自転車利用を促進するための環境整備や道路施設の低炭素化を進めるため、LED道路照明灯の整備等を実施している。

(4)公共交通機関の利用促進

 自家用乗用車からエネルギー効率が高くCO2排出の少ない公共交通機関へのシフトは、地球温暖化対策の面から推進が求められている。このため、環境省と連携して、LRT/BRTシステムの導入を支援するほか、エコ通勤優良事業所認証制度を活用した事業所単位でのエコ通勤の普及促進に取り組んだ。

図表Ⅱ-8-1-2 エコ通勤とは
図表Ⅱ-8-1-2 エコ通勤とは

(5)高度化・総合化・効率化した物流サービス実現に向けた更なる取組み

 国内物流の輸送機関分担率(輸送トンキロベース)はトラックが最大であり、5割を超えている。トラックのCO2排出原単位注1は、大量輸送機関の鉄道、内航海運より大きく、物流部門におけるCO2排出割合は、トラックが約9割を占めている。国内物流を支えつつ、CO2の排出を抑制するために、トラック単体の低燃費化や輸送効率の向上と併せ、鉄道、内航海運等のエネルギー消費効率の良い輸送機関の活用を図ることが必要である。更なる環境負荷の小さい効率的な物流体系の構築に向け、大型CNGトラック等の環境対応車両の普及促進、港湾の低炭素化の取組みへの支援や冷凍冷蔵倉庫において使用する省エネ型自然冷媒機器の普及促進等を行っている。また、共同輸配送やモーダルシフトの促進や、省エネ船の建造促進等内航海運・フェリーの活性化に取り組んでいる。加えて、「エコレールマーク」(令和4年3月現在、商品171件(193品目)、取組み企業95社を認定)や「エコシップマーク」(4年4月末現在、荷主176者、物流事業者199者を認定)の普及に取り組んでいる。また、港湾においては、大量かつ安定・安価な水素・燃料アンモニア等の輸入・貯蔵等を可能とする受入環境の整備や、脱炭素化に配慮した港湾機能の高度化等を通じて、温室効果ガスの排出量を全体としてゼロとすることを目指す「カーボンニュートラルポート(CNP)」の形成に向けて、停泊中船舶に陸上電力を供給する設備や低炭素型荷役機械の導入等の推進に取り組んでいる。さらに、国際海上コンテナターミナルの整備、国際物流ターミナルの整備、複合一貫輸送に対応した国内物流拠点の整備等を推進することにより、貨物の陸上輸送距離削減を図っている。

 このほか、関係省庁、関係団体等と協力して、グリーン物流パートナーシップ会議を開催し、荷主と物流事業者の連携による優良事業者への表彰や普及啓発を行っている。

 令和3年度には、「総合物流施策大綱(2021年度~2025年度)」(令和3年6月15日閣議決定)の柱である「物流DXや標準化の推進によるサプライチェーン全体の徹底した最適化」や「労働力不足対策の推進と物流構造改革の推進」に則した取組みを行った事業者を表彰する「物流DX・標準化表彰」及び「物流構造改革表彰」を新設し、物流の生産性向上等をより一層推進している。

図表Ⅱ-8-1-3 グリーン物流パートナーシップ会議を通じた取組みの推進
図表Ⅱ-8-1-3 グリーン物流パートナーシップ会議を通じた取組みの推進

(6)鉄道・船舶・航空・港湾における低炭素化の促進

①鉄道分野の更なる環境性能向上に資する取組み

 鉄道は他のモードに比べて環境負荷の小さい交通機関であるが、更なる負荷の軽減を図るため、水素を燃料とする燃料電池鉄道車両の開発を推進するとともに、環境省と連携し、エネルギーを効率的に使用するための先進的な省エネ設備・機器の導入を支援している。

②海運における省エネ・低炭素化の取組み

 国際海運分野については、令和3年6月に、国際海事機関(IMO)において、我が国主導による共同提案を基にした、世界の大型外航船への新たなCO2排出規制「既存船燃費規制(EEXI)・燃費実績(CII)格付け制度」に関する条約を採択し、当該規制を5年1月から開始することが決定された。また、3年10月26日には、斉藤国土交通大臣より、令和32年までに、国際海運からのGHGの排出を全体としてゼロ(2050年カーボンニュートラル)を目指す旨を公表した。これを受けて、国際海運2050年カーボンニュートラルを実現するべく、我が国は3年11月に、IMOに対し米国、英国等と共同でこの目標を提案した。加えて、グリーンイノベーション基金(「次世代船舶の開発」プロジェクト)を活用して水素・アンモニアを燃料とするゼロエミッション船の実用化に向けた技術開発・実証を行うこととしており、同年10月に4つのテーマ及び実施者(民間企業)を選定した。

 内航海運分野については、革新的省エネルギー技術等の実証事業や内航船省エネルギー格付制度の運用等により、船舶の省エネ・低炭素化を促進している。また、令和3年4月に立ち上げた「内航カーボンニュートラル推進に向けた検討会」では、内航海運を取り巻く状況や取り組むべき施策の方向性等についての検討を行い、同年12月に船舶における「更なる省エネの追求」、及び代替燃料の活用等に向けた「先進的な取組の支援」の二つを柱として掲げた「とりまとめ」を公表した。「更なる省エネの追求」に関する具体的施策の一つとして、荷主等と連携した新たな技術・手法を組み合わせた「連携型省エネ船」の開発・普及に向けた取組みを進めている。また、「先進的な取組の支援」として、関係省庁とも連携してLNG燃料船、水素FC船、バッテリー船等の実証・導入を支援するなど船舶の低・脱炭素化に向けた取組みを一層加速させている。

③航空分野のCO2排出削減の取組み

 国による航空分野における脱炭素化の取組みに関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るための「基本方針」を策定し、航空運送事業者や空港管理者による上記方針に則った脱炭素化の取組みの内容等について記載した「推進計画」の作成等の促進により、脱炭素社会の実現に向けた航空分野における取組みを着実に進める。

 航空機運航分野においては、「航空機運航分野におけるCO2削減に関する検討会」で取りまとめた新技術の導入、管制の高度化及びSAF(Sustainable Aviation Fuel:持続可能な航空燃料)の導入促進に関する工程表を着実に進めていくため、実務的な検討の場として、新たに官民協議会などを設置し、引き続き関係者と連携し、着実に取組みを進める。

 特にSAFの導入促進について、令和12年時点のSAF 使用量について設定した「本邦エアラインによる燃料使用量の10%をSAF に置き換える」という目標の下、国産SAF の研究開発への連携、SAF の実需発生に対応するための輸入SAF を含めたサプライチェーンの構築等に取り組む。

 空港分野においては、「空港分野におけるCO2削減に関する検討会」で取りまとめた工程表等に基づいて空港施設・空港車両等からのCO2排出削減、空港の太陽光発電等再生可能エネルギーの導入など各空港における脱炭素化を推進するとともに、空港における省エネ・再エネ設備の導入・整備の際に考慮すべき事項等をまとめた整備マニュアルを令和4年度に策定する予定である。

 国際航空分野のCO2排出削減の長期目標について、我が国が提案し設立したICAOにおけるタスクグループにおいて、議長国として議論をリードしてきたところ、令和4年秋の国際民間航空機関(ICAO)総会において、検討結果を踏まえた国際的に調和が図られた野心的な長期目標が決議されるよう、引き続き議論を主導する。

④港湾におけるカーボンニュートラルポート形成の推進

 港湾においては、水素・燃料アンモニア等の大量かつ安定・安価な輸入・貯蔵等を可能とする受入環境の整備や、脱炭素化に配慮した港湾機能の高度化、集積する臨海部産業との連携等を通じて「カーボンニュートラルポート(CNP)」を形成し、我が国全体の脱炭素社会の実現への貢献を図ることとしている。

 令和3年6月から、CNPの形成に向けた取組みの加速化を図る各種方策について整理等を行う「カーボンニュートラルポート(CNP)の形成に向けた検討会」を開催し、同年12月、検討結果を踏まえ、各港湾管理者が国の方針に基づきCNP形成計画を策定するためのマニュアルを公表した。本マニュアル等の活用等を通じて、港湾管理者によるCNP形成計画の策定を支援するとともに、停泊中船舶に陸上電力を供給する設備や低炭素型荷役機械の導入等をさらに推進していく。また、水素燃料化した荷役機械等の新技術の導入に関する実証事業を行うとともに、水素・燃料アンモニア等の大量かつ安定・安価な輸入に向けて輸入拠点港湾の形成を含め、効率的な輸送ネットワークの構築について検討する。加えて、LNGバンカリング拠点の整備、洋上風力発電の導入促進、ブルーカーボン生態系の活用等を推進する。

図表Ⅱ-8-1-4 カーボンニュートラルポート(CNP)形成に向けた具体的な取組みのイメージ
図表Ⅱ-8-1-4 カーボンニュートラルポート(CNP)形成に向けた具体的な取組みのイメージ

(7)住宅・建築物の省エネ性能の向上

 民生部門のエネルギー消費量は、他の部門に比べると増加が顕著であり、住宅・建築物の省エネルギー性能の向上は喫緊の課題である。

 住宅以外の一定規模以上の建築物の省エネ基準への適合義務等の規制措置を講ずる「建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律」が平成29年4月に全面施行された。また、住宅・建築物の省エネルギー性能の一層の向上を図るため、建築物の規模・用途ごとの特性に応じた実効性の高い対策として、省エネ基準への適合義務の対象となる建築物の範囲を中規模建築物に拡大することや住宅トップランナー制度の対象に注文戸建住宅及び賃貸アパートを追加することなどを内容とする「建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律の一部を改正する法律」が、令和元年5月に公布され、3年4月1日に全面施行された。

 さらに、省エネルギー性能を消費者に分かりやすく表示するため、住宅性能表示制度、建築環境総合性能評価システム(CASBEE)、建築物省エネルギー性能表示制度(BELS)等の充実・普及を図っている。

 このほか、省エネ・省CO2等に係る先導的なプロジェクトや、中小工務店等が連携して建築するZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)や認定低炭素建築物等の取組みに対する支援を行うとともに、独立行政法人住宅金融支援機構の証券化支援事業の枠組みを活用した金利引下げ等を実施している。また、設計・施工技術者向けの講習会の開催等により、省エネ住宅・建築物の生産体制の整備に対する支援を行っている。

(8)下水道における省エネ・創エネ対策等の推進

 高効率機器の導入等による省エネ対策、下水汚泥の固形燃料化等の創エネ対策、下水汚泥の高温焼却等による一酸化二窒素の削減を推進している。

(9)建設機械の環境対策の推進

 燃費基準値を達成した油圧ショベル、ブルドーザ等の主要建設機械を燃費基準達成建設機械として認定する制度を運営しており、令和4年1月末現在で140型式を認定している。一方、これらの建設機械の購入に対し低利融資制度等の支援を行っている。

 また、令和32年目標である建設施工におけるカーボンニュートラルの実現に向けて、動力源の抜本的な見直しが必要であり、革新的な建設機械(電動、水素、バイオマス等)の導入拡大を図るため、現場導入試験を実施し普及・支援策を講じる。

(10)都市緑化等によるCO2の吸収源対策の推進

 都市緑化等は、パリ協定に基づく温室効果ガス吸収量報告の対象に含まれており、市町村が策定する緑の基本計画等に基づき、都市公園の整備や、道路、港湾等の公共施設や民有地における緑化を推進している。

 また、地表面被覆の改善等、熱環境改善を通じたヒートアイランド現象の緩和による都市の低炭素化や緑化によるCO2吸収源対策の意義や効果に関する普及啓発にも取り組んでいる。

(11)ブルーカーボンを活用した吸収源対策の推進

 CO2吸収源の新しい選択肢として、「ブルーカーボン」、すなわち沿岸域や海洋生態系に貯留される炭素が世界的に注目されており、令和元年6月に「地球温暖化防止に貢献するブルーカーボンの役割に関する検討会」を立ち上げ、さらに、2年7月にブルーカーボンに関する試験研究を行う技術研究組合としては国内初となる「ジャパンブルーエコノミー技術研究組合(JBE)」の設立を認可し、ブルーカーボンを吸収源として活用していくための具体的な検討として、藻場の保全活動等によりブルーカーボン生態系が吸収したCO2をクレジットとして認証し、取引を可能とする「ブルーカーボン・オフセット・クレジット制度」の試行に取組んでいる。あわせて、鉄鋼スラグ等の産業副産物を有効利用したブルーカーボン生態系の維持・拡大に向けた取組みを引き続き推進する。

  1. 注1 貨物トンを1km輸送するときに排出されるCO2の量