国土交通白書 2023
第2節 デジタル実装の現在地と今後への期待
(デジタル化に対する意識の動向)
国土交通省「国民意識調査」において、デジタル化に対する考え方についてたずねたところ、「デジタル化は私たちの日々の暮らしを便利に・豊かにする」と思う(とてもそう思う、ややそう思う)と答えた人は全体の約85%であり、デジタル化は暮らしを豊かにすると考えている人が多数を占めていることがうかがえる。
年齢別に見ると、30歳未満では、「デジタル化は人と人とのつながりを広げる・深くする」と思うと答えた人が約6割だったのに対し、60歳以上の世代では約4割であった。また、「デジタル化は煩雑さやコストを増やし、非効率化や複雑化が進む」と思うと答えた人の割合は、30歳未満で約5割、60歳以上では約3割となった。さらに、「暮らしや社会を支える国土交通行政のデジタル化は進んでいる」と思うと答えた人の割合は全体で5割であり、30歳未満では約6割、60歳以上の世代では4割となった。デジタル化に対する人々の捉え方について、年代により差異があることがうかがえる。
(注)各選択肢における括弧内の数値は、設問に対し、そう思う(とてもそう思う、ややそう思う)と回答した割合(全体、~30代、40~50代、60代~)。
資料)国土交通省「国民意識調査」
(暮らしにおけるデジタル活用の状況と今後の活用意向)
暮らしの中でのデジタル活用の状況や今後の活用意向についてたずねたところ、「携帯やインターネットで防災情報、災害情報を常に受け取れる」や「公共交通等のルート検索やチケット購入、クーポンの取得にアプリを活用する」、「オンラインサービスで用事を済ます(買い物、旅行、役所手続)」について過半数の人が実践していると答え、取り入れたいと答えた人を合わせると約8割となっており、暮らしに身近なサービスに対するデジタル活用の意向がうかがえる。
資料)国土交通省「国民意識調査」
(デジタル化による社会課題解決に対する期待度・満足度)
様々な社会課題を解決するため、多くの分野においてデジタル化の取組みが進んでいる中、国土交通省「国民意識調査」では、デジタル化による社会課題の解決に対する人々の期待度と満足度をたずねた。期待度は全分野で5割を超えており、特に「オンライン行政手続や電子証明など(行政手続のDX)」や「デジタル技術による災害の激甚化・頻発化の対策など(防災分野のDX)」、「AI・ドローン等を用いたスマート農業など(農業分野のDX)」、「オンライン診療や電子カルテなど(ヘルスケア分野のDX)」、「新たなモビリティや交通システム、MaaS等による交通のあり方の変革など(交通分野のDX)」、「無人搬送車等ロボットの導入(機械化)やデータ基盤の導入(デジタル化)など(物流分野のDX)」等では、期待度が7割以上と高かった。一方で、期待度に比べて満足度はいずれの項目においても5割を下回り、今後取組みの余地があることがうかがえる。
また、都市規模別で見ると、期待度が最も高かった行政手続について、大都市ほど期待度も満足度も高い傾向となり、都市規模による差異がみられた。
我が国は、あらゆる分野でのデジタル化を政府一体となって進めており、国土交通省においても、行政手続のデジタル化推進とともに、防災、交通、まちづくり、物流、インフラの分野において暮らしと社会を支える取組みを推進している(具体的な取組みは第2章第1節参照)。
ここでは、これら分野別に意識の動向をみていく。
(注1)国土交通省「国民意識調査」では、「現在我が国では様々な分野でのデジタル化による社会変革(DX)が推進されています。あなたはそれぞれのDXについてどの程度期待していますか。」と聞いている。選択肢は「とても期待している」、「やや期待している」、「あまり期待していない」、「まったく期待していない」である。
(注2)図表では選択肢を省略して示している。
インフラ分野:建設現場の生産性向上やインフラサービスの高度化など
交通分野:新たなモビリティや交通システム、MaaS等による交通のあり方の変革など
物流分野:無人搬送車等ロボットの導入(機械化)やデータ基盤の導入(デジタル化)など
観光分野:デジタルツール活用による旅行者の利便性向上、観光産業の生産性向上など
防災分野:デジタル技術による災害の激甚化・頻発化の対策など
まちづくり分野:スマートシティ、3D都市モデルの構築など
ヘルスケア分野:オンライン診療や電子カルテなど
教育分野:タブレット等端末の整備やAIドリルなど
農業分野:AI・ドローン等を用いたスマート農業など
行政手続:オンライン行政手続や電子証明など
資料)国土交通省「国民意識調査」
(交通分野・まちづくり分野のデジタル化に対する意識の動向)
地域公共交通のうち、一般路線バスは、第1章第1節で見たとおり、生活サービス提供機能など暮らしを支えるまちの機能の維持・向上を図るうえで欠かせない一方、ドライバー不足や赤字路線の増加等により路線維持が困難化する地域もあり、近い将来、人口減少の著しい地方部等において公共交通の空白地域の増加が懸念される。
国土交通省「国民意識調査」では、交通分野、まちづくり分野について、特に今後の地域路線バスの方向性の観点から人々の意向をたずねたところ、「安全性や利便性の確保、市民への十分な説明・周知・ケアなど条件が揃えば、路線バスにおける自動運転車の導入など先進技術を活用した課題解決を推進すべき」や「公共交通の問題を強く認識しており、路線バスにおける自動運転車の導入など先進技術を活用した課題解決を積極的に推進すべき」と答えた人の割合が高かった。
安全性や利便性の確保、市民への十分な周知等を前提として、自動運転車の導入など先進技術を活用した課題解決に肯定的である人が一定数存在することがうかがえる。
(注)n=3,000人の複数回答
資料)国土交通省「国民意識調査」
実際に、公共交通の課題が認識されている地域において、路線バスにおける自動運転車の導入という先進技術を活用した課題解決を図る動きがみられる。
諸外国では、自動車の交通量や道路の使い方など交通に係る課題を含め、地域課題の解決を図る際に、市民参加型の地域づくりを支えるデジタルプラットフォームの活用により、住民の意見を取り入れたまちづくりを展開している動きがある。
また、加古川市では、デジタル技術を活用して、高齢者や子どもも安心して暮らせるよう、小学生の登下校時などにおける見守り支援への取組みを強化するとともに、市民の幸福感向上に向け、参加型民主主義のためのデジタルプラットフォームを活用し、市民の多様なニーズやアイデアを取り入れたまちづくりへの取組みが進んでいる。
(物流分野・インフラ分野のデジタル化に対する意識の動向)
物流産業における労働力不足、災害の激甚化・頻発化により露呈した物流ネットワークの脆弱性など物流業界の課題が顕在化している中、「物流DX」の推進にあたり優先して解決すべき課題をたずねたところ、「長時間労働などの労働環境改善(荷待ちシステム等)」や「トラックドライバーなどの高齢化や担い手不足対策(自動運転等)」と答えた人の割合が高かった。
(注)n=3,000人の複数回答
資料)国土交通省「国民意識調査」
また、インフラ分野においても、デジタル技術の活用により従来のプロセスや実施方法等を変革し、インフラの整備・管理・利用等の効率化・高度化を図る取組みを進めている中、「インフラDX」の推進にあたり、優先して解決すべき課題をたずねたところ、「危険作業の解消などの労働環境改善」や「建設業の魅力向上、長時間労働の是正によるインフラ整備・管理従事者の高齢化等による担い手不足対策」と答えた人の割合が高かった。
(注)n=3,000人の複数回答
資料)国土交通省「国民意識調査」
物流分野、インフラ分野ともに、労働環境の改善、担い手不足対策の観点について、優先して取り組むべきであると考える人が多いことがうかがえる。
(デジタル化による社会課題解決への期待)
国土交通省「国民意識調査」では、課題の解決に向けて取り組むべき施策の優先度についてたずねたところ、すべての項目について、優先度が高い(とても高い、やや高い)と思うと答えた人の割合が6割を超えた。
また、優先度がとても高い項目として、「デジタル化やオンライン化による行政手続等の迅速化」、「DXを支える人材の育成」、「デジタル技術の開発・イノベーションの促進」、「あらゆる主体に対応したわかりやすい情報の提供」が約2割となり、行政手続への期待とともに、人材面や技術面、情報基盤面での環境整備への関心が高いことがうかがえる。これらに次いで、「デジタルを活用した利便性の高い住まい方や移動を支える環境整備」、「地方部でのデジタル活用推進による、新たなライフスタイルの創出」に取り組むべきと答えた人の割合が高く、生活環境やライフスタイル面でのデジタル活用が望まれていることがうかがえる。
人々の期待として、総合的な取組みが求められていることがうかがえる。
資料)国土交通省「国民意識調査」