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国土交通白書 2023

第2節 デジタル実装の現在地と今後への期待

コラム 行政手続のデジタル化に関する取組み(X-Road、エストニア)

 エストニアは、人口約133万人に対して比較的広い国土4.5万km3(日本の約9分の1)を有する一方、資源も限られる中、人口減少、GDP成長率の減少という課題を抱えており、行政サービスをデジタル化することで行政経営の効率化を図ることが求められていた。

 エストニア政府は、1998年に、ICT推進の基本方針「エストニア情報ポリシーの原則」を採択し、これに基づき、電子政府化に向けた各種推進計画を策定し、電子政府の取組みを進めてきた。また、2001年には公的使用における情報アクセスの自由を確立するため公共情報法が制定されるとともに、エストニア国民一人ひとりにデジタルIDが付与されている。

 こうした取組みと連携し、2001年、エストニア政府は、各省庁・自治体などの行政機関、医療・教育機関などのデータベースを連携させるデータ交換基盤である、「X-Road」を導入している。このX-Roadは、行政機関や民間の医療・教育機関などで個別に構築されてきたデータベースをそのまま活用し、データベース間を繋ぐネットワーク上において、国民の個人IDデータをキーとして情報を紐づけすることにより、データベースとデータベースの相互接続を行い、データベース間でデータの参照が容易にできることが特徴である。なお、X-Road及び関連システムは、エストニア政府が民間企業に委託して構築しており、行政サービスのデジタル化が進められてきた。これにより、納税、選挙、教育、健康保険、警察業務、土地建物・建設手続の取引、運輸・通信事業など幅広い分野で、電子行政サービスをオンラインで利用することが可能となっている。行政サービスのうち約99%がオンラインでアクセス可能で、約2,600以上の電子行政サービスが提供されている。

 こうした電子政府化の取組みにより、個人IDカードがあれば、国民は行政機関を訪問せずとも、パソコンと個人IDカードリーダーを用いて、上述の電子行政サービスをオンラインで手軽に利用できるなど利便性向上が図られている。行政側でも紙文書が不要になり、業務効率が向上し労働時間にして年間約300万時間が削減されたとの指摘もあり、職員の負担軽減やコスト削減に大きな効果が得られている。

 また、エストニア政府は、2014年からエストニア非居住者でも電子国民の登録を行って個人IDが付与されれば、エストニアの電子行政サービスが利用できる制度「e-Residency」を開始している。これにより、国外からでも、一部の電子行政サービスが利用できるとともに、ビジネス銀行口座の開設やエストニア国内での法人登記ができるなど、スタートアップ企業の誘致にも貢献している。179か国以上の国々における80,000人以上の人々が「e-Residency」に登録した(2023年3月現在)。

 エストニアの電子政府は、データベースを中央で一括管理するのではなく、各主体が独自のシステムを選択して管理するという分散型であることが特徴であるが、エストニア政府では、政府の基幹データのバックアップを国外に持ち、サイバー攻撃や大規模自然災害など非常事態が起こっても、すぐにシステムを再稼働できるようにする「データ大使館」と呼ぶ構想を打ち出した。2018年には、これを実践し、同盟国であるルクセンブルクにデータセンターを設置する取組みを開始している。

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©Nordic Institute for Interoperability Solutions(NIIS)

 (注)NIISへのヒアリング調査(2023年3月)に基づく。

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