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国土交通白書 2023

第2節 デジタル実装の現在地と今後への期待

コラム 地域で支える地域の足(自動運転バス、茨城県境町)

 境町は、鉄道駅がなく、路線バスを中心とした公共交通が脆弱なため、高齢者や子育て世代の移動手段の確保などの課題があった。課題の解決を図るため、境町では、高齢者や子育て世代をはじめとした、「住民の誰もが生活の足に困らない町」を目指して、2020年11月から自動運転バスの社会実装を開始した。

 この社会実装は、境町が民間企業と連携して、生活路線バスとして定時・定路線で運行するものであり、自治体が自動運転バスを公道で定常運行する国内初の取組みである。運行に使用する自動運転バスは海外製(走行実績の高いフランス製のナビヤ・アルマ、レベル2の車両)であるものの、境町の特性に応じた改良を行いつつ徹底した安全管理のもとで、2020年11月の運行開始から現在(2023年2月取材)に至るまで無事故で運行している。

 当初、スーパーマーケット、病院、郵便局、そして子育て支援施設など、主要生活拠点を結ぶルートから運行を開始し、2021年8月には境町高速バスターミナルから道の駅などの観光拠点を結ぶルートを新設、さらに2022年7月にも新たなバス停を追加するなど、住民ニーズに応じて運行ルートを随時見直し、住民と観光客などの来訪者双方の利便性の向上を図っている。このほか、道の駅やカフェなどの飲食店、美術館などの拠点整備も並行して行い、外出目的となる魅力ある行先づくりを行うことで、地域内移動を増加させて地域経済の活性化に寄与するまちづくりを目指している。

 これら境町における自動運転バスの発展は、地域の支えがなくては成り立たないものであり、例えば自動運転バスの停留所が私有地の提供により賄われていたり、沿線上の路上駐車の削減や自動運転バスを見かけた通常車両の譲り合い運転が行われていたりするなど、沿線住民をはじめ町全体でこの自動運転バスの運行を支援していく姿が特徴的である。時速20km程度の低速であるものの、地域の足としての機能が地域で支えられている。

 さらに、高速バスターミナルなど交通結節点の整備により、東京からの高速バスでの訪問者による自動運転バスやシェアサイクルへの乗り換えを容易とするなど環境整備が行われている。

 今後について、運行ルートは住民のニーズに合わせて順次延伸するとともに、MaaSアプリによるオンデマンド運行も予定しており、住民の誰もが生活の足に困らないまちづくりを一層推進していくこととしている。このような地域に根差した取組みが他の公共交通機関の空白地域の参考となることが期待される。

<商店街を走行する自動運転バス>
<商店街を走行する自動運転バス>
<まちの拠点整備>
<まちの拠点整備>

資料)茨城県境町