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国土交通白書 2023

第1節 国土交通省のデジタル化施策の方向性

■2 まちづくり分野のデジタル化施策

(1)現状と今後の方向性

 都市や地域が様々な人々のライフスタイルや価値観を包摂しながら多様な選択肢を提供するとともに、人々の多様性が相互に作用して新たな価値を生み出すためのプラットフォームとしての役割を果たしていくためには、デジタル化によりこれまでのプロセスの効率化や利便性向上等を図るのみならず、従来のまちづくりの仕組みそのものを変革し、新たな価値創出や課題解決を実現すること、つまりデジタル・トランスフォーメーションが必要である。

 このような中、2022年度に国土交通省で取りまとめた「まちづくりのデジタル・トランスフォーメーション実現ビジョン」注2では、インターネットやIoT、AI、デジタルツイン注3等の活用により、まちづくりに関する空間的、時間的、関係的制約を解放し、従来の仕組みを変革していくことで、豊かな生活、多様な暮らし方・働き方を支える「人間中心のまちづくり」の実現に向けて取り組むこととしている。

 このビジョンに基づき、「持続可能な都市経営」、「Well-beingの向上」、「機動的で柔軟な都市」といった都市の新しい価値の実現を目指していく。具体的には、デジタル技術を用いた都市空間再編、エリアマネジメントの高度化、データを活用したオープンイノベーション創出、デジタル・インフラである3D都市モデルの整備・活用・オープンデータ化プロジェクト「PLATEAU」を推進していく。

(2)今後の施策展開

①市民生活等の向上に向けたスマートシティの取組み

 スマートシティは、市民(利用者)中心主義、ビジョン・課題フォーカス、分野間・都市間連携を重視する基本原則に基づき、新技術や官民各種のデータを活用した市民一人ひとりに寄り添ったサービスの提供や、各種分野におけるマネジメント(計画、整備、管理・運営等)の高度化等により、都市や地域の抱える諸課題の解決を行い、新たな価値を創出し続ける持続可能な都市や地域である。

 政府においても、新技術や各種データ活用をまちづくりに取り入れたスマートシティをSociety5.0注4、ひいてはSDGs注5の達成の切り札として推進している。

 国土交通省では、先進的な都市サービスの実装化に向けて取り組む実証事業の支援を行い、これらから得られた知見を盛り込んだスマートシティ・ガイドブックの普及展開等を図っており、今後とも、内閣府、総務省、経済産業省と連携してスマートシティを推進していく。

図表Ⅰ-2-1-7 スマートシティ
図表Ⅰ-2-1-7 スマートシティ

資料)スマートシティ・ガイドブック

②3D都市モデルの活用等によるまちづくりの高度化に向けた取組み

(Project PLATEAU)

 Project PLATEAU(プラトー)は、スマートシティをはじめとしたまちづくりデジタル・トランスフォーメーションのデジタル・インフラとなる3D都市モデル注6の整備・活用・オープンデータ化を推進する国土交通省のプロジェクトである。これまで、2022年度に創設した地方公共団体への支援制度の活用等により、全国約130都市(2023年3月末現在)の3D都市モデルを整備するとともに、これをオープンデータとして公開することで、官民の幅広い主体による共創のもとで、多様な分野におけるオープンイノベーションを促進した。また、国によるベストプラクティスの創出のため、防災・防犯、都市計画・まちづくり、環境・エネルギー、モビリティ、地域活性化・観光・コンテンツといった様々な分野で100件程度のユースケースを開発した。加えて、さらなるオープンイノベーションの創出に向け、データ利用環境の改善(SDK開発等)、チュートリアルの充実、ハッカソン・ピッチイベントの開催等を実施した。2023年度は、「実証から実装へ」をプロジェクトコンセプトに掲げ、3D都市モデルの整備・活用・オープンデータ化のエコシステムを構築するための施策を展開していく注7

 今後、2027年度までに500都市の整備を中長期方針として掲げ、3D都市モデルの整備・活用・オープンデータ化の一層の推進に向け、取組みを加速させていく。

図表Ⅰ-2-1-8 Project PLATEAU
図表Ⅰ-2-1-8 Project PLATEAU

資料)国土交通省

(PLATEAUと連携した建築・不動産分野の取組み(建築・都市のDXの推進))

 少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少や災害の激甚化・頻発化等の社会課題への対応に資するため、建築生産や都市開発、不動産分野においても、生産性の向上や質の向上を図ることが求められている。

 このような中、国土交通省では、建築・都市・不動産分野のデジタル施策である建築BIM注8、PLATEAU、不動産ID注9を一体的に推進する「建築・都市のDX」に取り組んでいる。建物内部からエリア・都市スケールレベルまで、シームレスで高精細なデジタルツインを実現するとともに、不動産関係のベース・レジストリの整備を推進することで、都市開発・まちづくりの効率化や、新サービス・新産業の創出、地域政策の高度化に寄与することが期待される。

 今後、データ相互の連携手法の開発・実証や、幅広い分野におけるユースケースの横展開に取り組んでいく。

図表Ⅰ-2-1-9 建築・都市のDXの推進
図表Ⅰ-2-1-9 建築・都市のDXの推進

資料)国土交通省

③新技術の活用等による新サービスの創出・観光まちづくりの取組み

 デジタルツインなど3D都市モデルの構築とともに、AR・VR等のデジタルツール注10の利用環境の整備が進む中、観光における新技術やデータ利活用の促進を図ることが重要である。

④IoT技術等の活用による住生活の質の向上に向けた取組み 

 少子高齢化、介護分野の人材不足等の社会情勢を踏まえ、健康管理の支援や家事負担の軽減・時間短縮など、IoT技術等の活用による住宅や住生活の質の向上が求められている。国土交通省では、子育て世帯・高齢者世帯など幅広い世帯のニーズに応え、健康・介護、子育て支援等に寄与するIoT住宅の実用化に向けて取り組んでいく。

  1. 注2 【関連リンク】まちづくりのデジタル・トランスフォーメーション実現ビジョン
    URL:https://www.mlit.go.jp/toshi/daisei/toshi_daisei_fr_000050.html
  2. 注3 インターネットに接続した機器などを活用して現実空間の情報を取得し、サイバー空間内に現実空間の環境を再現したもの。
  3. 注4 サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)。狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)に続く、新たな社会を指す。
  4. 注5 持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)
  5. 注6 3D都市モデルとは、現実の都市空間に存在する建物や街路などを、サイバー空間に3Dオブジェクトで再現し、さらにそのオブジェクトに、名称、用途、建設年といった都市活動情報を付与した、3D都市空間情報プラットフォームを指す。
  6. 注7 具体的には、3D都市モデルの全国展開と社会実装を推進するため、国によるデータ整備の効率化・高度化のための技術開発、先進的な技術を活用した多様な分野におけるユースケースの開発等に取り組むとともに、地方公共団体による3D都市モデルの整備・活用等を支援する補助制度(都市空間情報デジタル基盤構築支援事業)や、地域の人材育成、コミュニティ支援等の活用による地域のオープンイノベーションの創出等を推進する。
  7. 注8 「建築BIM(Building Information Modeling)」: 3次元の形状情報に加え、建物の属性情報を併せ持つ建物情報モデルを構築するシステム。設計・施工・維持管理といった建築生産プロセスを横断して建築物のデータを連携・蓄積・活用する建築分野のデジタル・インフラとしての役割が期待される。
  8. 注9 不動産ID:土地や建物を一意に特定するため、不動産登記簿の「不動産番号」(13桁)をベースに「特定コード」(4桁)を加えた17桁の番号(2022年3月「不動産IDルールガイドライン」を公表)。官民の幅広い不動産関連情報の連携のキーとしての活用が期待される。
  9. 注10 AR(Augmented Reality、拡張現実)は、利用者がその空間(場所)に存在するとともに、実際に見ている現実世界に対して、コンピュータで作られた映像や画像を重ね合わせることで、現実世界を拡張する技術である。VR(Virtual Reality、仮想現実)は、利用者がその空間(場所)にいないにもかかわらず、あたかもそこにいるような感覚(没入感)を味わうことのできる技術である。