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国土交通白書 2023

第1節 国土交通省のデジタル化施策の方向性

■3 交通分野のデジタル化施策

(1)現状と今後の方向性

 これまで、増加する交通需要に対応するため、競争を基本とした効率的な交通システムの構築を進めてきた一方、地方部では、人口減少等を背景として、交通サービスの維持・確保が困難となる地域が増加している。昨今のデジタル技術の飛躍的な発展やライフスタイルの変化は、交通事業にも変革を促し、行政の制度や規制のあり方が問われるようになった。

 交通のうち特に、鉄道・路線バスなどのいわゆる地域公共交通は、国民生活や経済活動を支える不可欠なサービスであり、地方の活性化を図る上で重要な社会基盤であるが、人口減少や少子化、マイカー利用の普及やライフスタイルの変化等による長期的な需要減に加え、新型コロナウイルスの影響により、引き続き、多くの事業者が厳しい状況にある。こうした現状を踏まえ、国土交通省では、法制度や予算・税制措置などあらゆる政策ツールを活用し、交通DX・GXや地域の関係者の連携・協働(共創)を通じ、利便性・持続可能性・生産性の高い地域公共交通ネットワークへの「リ・デザイン」(再構築)を推進していく。

 これらの交通を取り巻く様々な課題を乗り越えるため、交通政策基本計画に基づき、多様な主体の連携・協働の下、あらゆる施策を総動員して次世代型の交通システムへの転換に向けて取り組んでいく。国土交通省が所管する交通インフラ・サービスは多岐にわたり、分野横断的・組織横断的な取組みを推進していくこととしており、ここでは、このうち特に、MaaSや自動運転の実現に向けた取組み等を中心に記述する注11

(2)今後の施策展開

①新たなモビリティサービスであるMaaSの取組み

 MaaS(マース:Mobility as a service)とは、スマホアプリ又はwebサービスにより、地域住民や旅行者一人ひとりのトリップ単位での移動ニーズに対応し、複数の公共交通やそれ以外の移動手段の最適な組合せについて検索・予約・決済等を一括で行うサービスを基本としており、AI等の技術革新やスマートフォンの普及を背景に、公共交通の分野におけるサービスを大きく変える可能性がある。また、AIオンデマンド交通、シェアサイクル等の新たな移動手段や、観光や医療等の目的地における交通以外のサービス等との連携により、移動に関連する消費の需要喚起や地域の課題解決に資する重要な手段である。

 国土交通省では、関係府省庁と連携して全国各地でMaaSの実装に係る取組みを支援するとともに、MaaSのさらなる普及のためには、交通事業者等のデータ連携が重要なことから、「MaaS関連データの連携に関するガイドライン」(2021年4月改訂)を策定し、データ連携に係る環境整備を推進している。

 また、高度で利便性が確保された公共交通等の移動サービスが提供されている日本において、交通分野におけるハード・ソフト両面の蓄積を活用しながらデータ連携の「高度化」を目指すことが重要である。このため、国土交通省では、「交通分野におけるデータ連携の高度化に向けた検討会取りまとめ」(2022年6月)を策定し、公共交通や移動サービスを利用するための手法や各移動手段のリアルタイムな情報の連携の重要性を示すとともに、これらのデータを束ねるデータ連携基盤の方向性を示すなど、引き続き、多様な交通手段を組み合わせたシームレスな移動の実現を目指すべく、検討を進めていく。

②自動運転の実現に向けた取組み

(自動車の自動運転)

 運転者に起因する交通事故の大幅な低減、高齢者等の移動支援や渋滞の緩和、生産性の向上、国際競争力の強化、旅客や貨物そして公共交通等の運転手不足の解消といった社会課題を解決する手段の一つとして、自動運転の実現が求められている。

 国土交通省では、2018年4月「自動運転に係る制度整備大綱」を策定し、レベル3以上の高度な自動運転の実用化を図るなど必要な整備を行うとともに、一般道路や道の駅における自動運転サービスの実証実験を行う等、自動運転を活用した公共交通サービスの導入に向けた取組みを進めている。また、自動車は国際流通商品であることから、国際的な基準調和が不可欠であり、国連自動車基準調和世界フォーラム(WP29)において、共同議長又は副議長等として自動運転に関する国際基準に係る議論を主導しており注12、今後とも国際基準化に向けた取組みを推進していく。

 今後、国土交通省は、遠隔監視のみの無人自動運転サービス(レベル4)の実現などの技術開発・実証を推進するとともに、より高度な自動運転機能に係る安全基準の策定や道路上で生じ得る様々な事象に対し、システムが安全を保証しなければならない範囲や通行者や対向車等に対するシステム判断のあり方等の検討など、社会システムの整備に向けた取組みを行っていく。

 また、自動運転の実現に向けたインフラからの支援について検討を進めていく。一般車や歩行者・自転車が混在する一般道での自動運転サービス実現に向けて、車載センサで把握が困難な交差点等において、道路交通状況を検知して自動運転車や遠隔監視室へ提供するインフラからの支援に関する実証実験を実施し、システムの技術基準について検討していく。

(鉄道車両の自動運転)

 鉄道の運転には、運転免許を持つ運転士の乗務が原則であるが、人口減少や高齢化の進行等に伴う将来的な運転士不足の可能性に対応し、運転業務の効率化・省力化が課題である。

 これらの課題を解決すべく、国土交通省は、列車の運転台に搭載したカメラによる列車前方の支障物を自動検知するシステムの開発や、運転士が列車運転中に行っている車内監視、列車制御、前照灯操作等の業務の自動化を検討していく。

 また、踏切道がある等の一般的な鉄道路線を対象とした自動運転の導入について検討会を設置し、自動運転の技術的要件の基本的な考え方についてとりまとめた。この考え方を踏まえた具体的なルールづくりを進めていく。

(船舶の自動運航)

 近年、海上安全の一層の向上、船上の労働環境の改善、産業競争力の向上・生産性の向上等の観点から、船舶の自動運航技術の実用化への期待が高まっている。国土交通省では、2025年までの自動運航船の実用化を目指し、2018年度から自動運航技術の実証事業を実施してきた。また、2022年2月に自動運航船の設計、システム搭載、運航の各段階における安全確保に関する留意事項を取りまとめた「自動運航船に関する安全ガイドライン」を策定した。

 今後とも、国土交通省では、自動運航船の実用化に向けた取組みを進めていく。

  1. 注11 港湾物流手続の電子化による「サイバーポート」の構築、ドローンによる輸配送の効率化については、「4.物流分野のデジタル化施策」参照、交通分野の行政手続のオンライン化については、「6.デジタル化を支える横断的な取組み」参照。
  2. 注12 例えば、2020年6月、自動運転レベル3に関する国内基準と同等の国際基準が成立した。これに基づき、2020年11月に、世界で初めて自動運転車(自動運転レベル3)の型式指定を実施し、日本では2021年3月に、世界初となる自動運転レベル3の認定を受けた市販車が発売され、その動向が注目されている。自動運転レベルについては、第Ⅰ部第1章第2節参照。