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国土交通白書 2023

第8節 海洋の安全・秩序の確保

(1)近年の現況

 尖閣諸島周辺海域においては、ほぼ毎日、中国海警局に所属する船舶による活動が確認され、領海侵入する事案も発生しており、令和4年には、尖閣諸島周辺の接続水域での中国海警局に所属する船舶の年間確認日数が過去最多を更新した。また、中国海警局に所属する船舶が領海に侵入し、日本漁船等に近づこうとする事案も繰り返し発生しており、これに伴う領海侵入時間も過去最長を更新するなど、情勢は依然として予断を許さない状況となっている。また、昨今では、中国海警局に所属する船舶の大型化、武装化、増強が確認されており、3年2月には中国海警法が施行されるなど、中国の動向を引き続き注視していく必要がある。海上保安庁では、現場海域に巡視船を配備するなど、我が国の領土・領海を断固として守り抜くという方針の下、冷静に、かつ、毅然として対応を続けている。

 また、東シナ海等の我が国排他的経済水域等においては、外国海洋調査船による我が国の事前の同意を得ない調査活動等も確認されており、海上保安庁では、関係機関と連携しつつ、巡視船・航空機による監視警戒等、その時々の状況に応じて適切に対応している。

 さらに、大和堆周辺海域では、外国漁船による違法操業が確認されるなど、依然として予断を許さない状況が続いており、海上保安庁では、違法操業外国漁船に対し、退去警告を行う等、関係省庁と連携して同海域で操業する日本漁船の安全確保を最優先とし、厳正に対処している。

 この他、日本海沿岸部への北朝鮮からのものと思料される木造船等の漂流・漂着が確認される等、我が国周辺海域を巡る状況は、一層厳しさを増している。

図表Ⅱ-1-8-1 領海警備を行う巡視船
図表Ⅱ-1-8-1 領海警備を行う巡視船

(2)海上保安能力強化の推進

 海上保安庁では、平成28年12月に決定された「海上保安体制強化に関する方針」に基づき、海上保安体制の強化を進めてきた。尖閣諸島周辺海域における中国海警局に所属する船舶の活動の活発化をはじめとして、我が国周辺海域を取り巻く情勢が一層厳しさを増していることを踏まえ、新たな国家安全保障戦略等の策定にあわせて、同方針を見直し、令和4年12月16日に開催された「海上保安能力強化に関する関係閣僚会議」にて「海上保安能力強化に関する方針」が決定された。

 旧方針においては、主に巡視船・航空機等の増強整備などのハード面の取組みを推進してきたところであるが、新方針では、ハード面の取組みに加え、無操縦者航空機等の新技術の積極的活用、警察、自衛隊、外国海上保安機関などの国内外の関係機関との連携・協力の強化、サイバー対策の強化などのソフト面の取組みを推進することにより、海上保安業務に必要な6つの能力(海上保安能力)を一層強化することとしている。

~強化すべき6つの能力~

①新たな脅威に備えた高次的な尖閣領海警備能力

②新技術等を活用した隙の無い広域海洋監視能力

③大規模・重大事案同時発生に対応できる強靱な事案対処能力

④戦略的な国内外の関係機関との連携・支援能力

⑤海洋権益確保に資する優位性を持った海洋調査能力

⑥強固な業務基盤能力

 なお、令和4年度は、大型巡視船1隻、中型ジェット機1機が就役し、無操縦者航空機1機の運用を開始した。

図表Ⅱ-1-8-2 海上保安能力強化の推進
海上保安能力強化に関する関係閣僚会議にて発言する岸田総理大臣

海上保安能力強化に関する関係閣僚会議にて発言する岸田総理大臣

令和4年度に運用を開始した無操縦者航空機

令和4年度に運用を開始した無操縦者航空機

令和4年度に就役した大型巡視船

令和4年度に就役した大型巡視船

(3)「 自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けて

 我が国は「自由で開かれたインド太平洋」(FOIP=Free and Open Indo-Pacific)の実現に向け、①基本的原則の定着とそれに基づく秩序形成(法の支配、航行の自由、自由貿易の普及・定着)、②平和と安定の確保(海上法執行能力の向上、人道支援、災害救援、海賊対策などでの協力)、③経済的繁栄の追求(連結性、EPAや投資協定を含む経済連携強化)の3点を「三本柱の施策」と定め、地域全体の平和と繁栄を確保するため、各種取組みを推進している。

 海上保安庁では、この「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向け、多国間及び二国間の連携・協力の取組みを強化するとともに、シーレーン沿岸国等の海上保安機関の能力向上を支援し、年々深化・多様化する国際業務に適切に対応する体制を構築している。多国間の連携・協力に関しては、グローバル化あるいはボーダレス化する傾向にある国際犯罪や、大規模化する事故や災害、環境汚染について、各国で連携して対応していくことが重要であるという認識の下、平成12年から北太平洋海上保安フォーラム(NPCGF)、16年からアジア海上保安機関長官級会合(HACGAM)のほか、29年から世界海上保安機関長官級会合(CGGS)を日本の主導で開催し、海上保安機関間の連携・協力を積極的に推進している。なお、令和4年度は、9月に第22回NPCGFにオンラインで参加し、12月にインドにて開催された第18回HACGAMに参加した。さらに、11月にCGGSのオンラインシンポジウムを日本財団との共催により開催した。

 一方、二国間の連携については、覚書や協定を締結して二国間の枠組を構築しており、5月には、2010年に米国沿岸警備隊と締結した協力覚書の付属文書を作成し、日米共同の取組みを「SAPPHIRE(サファイア)」と呼称することとなった。

 また、増加する諸外国からの海上保安能力向上支援の要望に応えるため、平成29年に発足した能力向上支援の専従部門である「海上保安庁Mobile Cooperation Team(MCT)」を、令和4年度末までに、16か国へ合計81回派遣、8か国1機関に21回のオンライン研修を実施するほか、各国海上保安機関等の職員を日本に招へいして各種研修を実施するなど、各国の海上保安能力向上を支援した。