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国土交通白書 2023

第3節 産業の活性化

■3 海事産業の動向と施策

(1)海事産業の競争力強化に向けた取組み

 四面を海に囲まれる我が国において、海上輸送は、我が国の貿易量の99.5%、国内の貨物輸送量の約4割を担っており、我が国の国民生活や経済活動を支える社会インフラであり、海運とその物的基盤である造船業及び人的基盤である船員の3分野が一体となって支えている。

 新型コロナウイルス感染症による影響など、近年、海事産業全体が直面している様々な課題に一体的に対応するため、令和3年5月に成立した「海事産業の基盤強化のための海上運送法等の一部を改正する法律」に基づき、各種支援を行っている。

 具体的には、造船業・舶用工業の事業基盤強化のため、造船・舶用事業者が生産性向上等に取り組む「事業基盤強化計画」について、23件(39社)、海運業の競争力強化を図るため、事業基盤強化計画の認定を受けた造船事業者が建造し、安全・低環境負荷で船員の省力化に資する高品質な船舶を海運事業者が導入する「特定船舶導入計画」について12件(13隻)をそれぞれ認定した。認定事業者に対しては、税制特例及び政府系金融機関からの長期・低利融資等の支援措置が必要に応じて講じられるほか、同法に基づき、船員の労務管理の適正化を図るため、令和4年4月に船舶所有者に労務管理責任者の選任を義務付ける等の制度を創設した。

【関連リンク】

「海事産業の基盤強化のための海上運送法等の一部を改正する法律案」を閣議決定

URL:https://www.mlit.go.jp/report/press/kaiji01_hh_000512.html

(2)造船・舶用工業

①造船・舶用工業の現状

 貿易を海上輸送に依存している我が国において、造船・舶用工業は、経済安全保障上不可欠であるとともに、地域経済・雇用に貢献している。また、艦艇・巡視船をすべて国内で建造・修繕しており、我が国の安全保障を支える重要な産業である。

 船舶は我が国と中国・韓国で世界需要の9割以上を建造しており、世界単一の船舶市場において、し烈な国際競争を繰り広げている。鋼材等の原材料費の高騰等、我が国造船業を取り巻く環境は依然として厳しい状況が続いており、我が国造船業の事業基盤強化が急務である。また、世界の海上輸送の荷動き量の増加に伴い、船舶市場の拡大も見込まれる中、海運分野のカーボンニュートラル化(CN化)の加速、船舶の省人化・自動化の進展等の世界的な潮流に対応しつつ市場の成長を取り込めるよう国際競争力の強化を図る必要がある。

②経済安全保障の確保に関する取組み

 安定的な海上輸送を確保するためには、船舶及びこれを構成する舶用機器の安定的な調達が不可欠である。政府全体の重要テーマである経済安全保障確保の観点から、令和4年5月に成立した「経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律(経済安全保障推進法)」に基づき、同年12月に船舶の運航に欠かせない船舶用機関(エンジン)・航海用具(ソナー)・推進器(プロペラ)を特定重要物資に指定するとともに、安定的な供給体制の確保のため、設備投資の支援に必要な予算を令和4年度補正予算で措置した。当該制度の適切な運用を通じて、舶用機器製造事業者の取組みを支援していく。

③造船・舶用工業の国際競争力強化のための取組み

 国土交通省は、海事産業強化法に基づく事業基盤強化計画等の支援措置と併せて、令和4年度に引き続き、船舶産業全体の生産性向上及び国際競争力強化を図るため、造船事業者間の連携や造船・舶用業界の垣根を越えたサプライチェーン全体の最適化を推進している。加えて、造船業において抜本的な生産性向上やビジネスモデルの変革を図るため、造船所のデジタル・トランスフォーメーション(DX)の実現に向けた技術開発や実証事業を支援している。

 我が国の造船業がDXを実現し、成長力のある産業となるためには、現場で船づくりを支える技能者と、技術開発や設計を支える技術者の確保に加え、CN化や自動運航技術の実装に必要な高度な技術の習得に向けた人材育成も重要である。日本人技術者・技能者については、持続的な人材確保・育成のため、産学官連携の取組みを後押ししつつ、次世代の造船人材のあり方や働き方改革に向けた検討等を進める。また、現場を支える技能者の安定的な確保に向け、外国人材の適正な受入れを進める。

 さらに、造船・舶用工業の維持発展のためには、国内における原材料費、労務費などのコストの適正な転嫁などの取引適正化も重要であり、国土交通省として「船舶産業取引適正化ガイドライン」を令和4年12月に策定・公表した。これを踏まえて業界において自主行動計画が策定されており、官民で連携して、海事産業全体の健全な発展に向け引き続き取り組むこととしている。

 また、造船分野における世界的な供給能力過剰問題が長期化する中、一部の国において市場を歪曲するような公的支援が行われており、我が国はWTO紛争解決手続を用いて、その是正が図られるよう取り組むとともに、経済協力開発機構(OECD)造船部会では、新たに合意された船価モニタリングや公的支援通報制度に基づき、コストを船価に適切に反映しないような不等廉価の抑止や市場歪曲的な公的支援の抑制に取り組んでいる。引き続き、これらの取組みを推進し、公正な競争条件の確保に努める。

(3)海上輸送産業

①外航海運

 外航海運は、経済安全保障の確保に重要な役割を果たしていることから、日本船舶・日本人船員を確保することは極めて重要である。この課題に対処するため、「海上運送法」に基づき、日本船舶・船員確保計画の認定を受けた本邦対外船舶運航事業者が確保する日本船舶等(航海命令発令時に日本籍化が可能である外国船舶(準日本船舶)や、本邦船主の子会社が保有する一定の要件を満たした外国船舶を含む)について、トン数標準税制注6を適用し、安定的な海上輸送の早期確保を図っている。

 さらに、外航船舶確保等計画の認定制度を盛り込んだ「海上運送法等の一部を改正する法律」が令和5年4月に成立した。認定を受けた上記の計画に基づき導入する一定の船舶について、特別償却率を最大32%まで引き上げ、経済安全保障に資する外航船舶の日本船主による計画的な導入・確保を促進している。

②国内旅客船事業

 国内旅客船事業は地域住民の移動や生活物資の輸送手段として重要な役割を担う一方、令和3年度の国内旅客船事業の輸送需要は49.1百万人(前年度比8.5%増)と、新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受けており、燃油価格高騰も相まって、経営環境は厳しい状況にある。このため、独立行政法人鉄道・運輸機構の船舶共有建造制度や税制特例措置により省エネ性能の高い船舶の建造等を支援している。さらに、海運へのモーダルシフトを一層推進するため、モーダルシフトに最も貢献度の高かったと認められる事業者を表彰する「海運モーダルシフト大賞」を令和元年度に創設し、表彰を実施している。

【関連データ】

国内旅客船事業者数及び旅客輸送人員の推移

URL:https://www.mlit.go.jp/statistics/file000010.html

③内航海運

 令和3年度の内航海運の輸送量は1,618億トンキロであり、国内物流の約4割、産業基礎物資輸送の約8割を担っており、モーダルシフトの受け皿としても重要である。

 内航船舶については、船齢が法定耐用年数(14年)以上の船舶が全体の約7割を占めている。船員については、50歳以上が半数近くを占めており、若手船員の定着率の向上が課題となっている。

 令和3年8月には内航海運暫定措置事業が終了し、船舶の供給に関する規制が解除されたことで、代替建造の促進や事業者間の競争促進等、内航海運を取り巻く環境は変化している。

 これらの内航海運を巡る課題や環境の変化に対応するため、令和4年4月に施行された改正内航海運業法では、内航海運業に係る契約の書面交付を義務化し、契約書に盛り込むべき事項を法定化することで、契約内容の「見える化」を図るとともに、内航海運業者による法令違反が荷主の要求に起因する場合の「荷主に対する勧告・公表制度」や、「船舶管理業の登録制度」等を創設した。また、内航海運業者と荷主との連携強化のためのガイドラインの周知や、荷主業界と内航海運業界との意見交換の場である「安定・効率輸送協議会」等の開催を通じて、取引環境の改善や内航海運の生産性向上等を図ることとしている。

④港湾運送事業

 港湾運送事業は、海上輸送と陸上輸送の結節点として、我が国の経済や国民の生活を支える重要な役割を果たしている。令和4年3月末現在、「港湾運送事業法」の対象となる全国93港の指定港における一般港湾運送事業等の事業者数は854者(前年度より4者減)となっている。また、令和3年度の船舶積卸量は、全国で13億8,905万トン(前年度比7.1%増)となっている。

(4)船員

 船員の確保、育成は我が国経済の発展や国民生活の維持・向上に必要不可欠であり、国土交通省では我が国最大の船員養成機関として独立行政法人海技教育機構(JMETS)を活用し優秀な船員を育成している。外航船員について、経済安全保障等の観点から、一定数の日本人船員の確保・育成に取り組んでいる。内航船員について、近年、船員教育機関を卒業していない者を対象とした短期養成課程の支援や新人船員を計画的に雇用して育成する事業者への支援など、若手船員確保に取組んでおり、業界関係者の努力も相まって、新規就職者数が増加し、若手船員の割合も増加傾向にある。

 一方、厳しい労働環境等を背景に若手船員の定着が課題となっていることから、労務管理責任者制度の創設や労働時間管理の電子化の推進等を通じて船員の労務管理の適正化を図るなど、船員の働き方改革の実現に取り組んでいる。

【関連データ】

日本人船員数の推移、内航船員新規就業者数の推移

URL:https://www.mlit.go.jp/statistics/file000010.html

(5)海洋産業

 海底からの石油・天然ガスの生産に代表される海洋開発分野は中長期的な成長が見込まれ、我が国の海事産業(海運業、造船業、舶用工業)にとって重要な市場である。しかしながら、国内に海洋資源開発のフィールドが少なく、我が国の海洋開発産業は未成熟である。このため、国土交通省生産性革命プロジェクトのひとつとして位置づけた「j-Ocean」や関係省庁とも連携したプログラムを通して自律型無人潜水機(AUV)の技術開発支援を行うなど、海洋開発市場への進出を目指す取組みを推進している。

(6)海事思想普及、海事振興の推進

 海洋立国である我が国において、国民の海洋に対する理解や関心の増進や、暮らしや経済を支える海事産業の認知度向上は、安定的な海上輸送及びそれを支える人材の確保のために重要な取り組みである。このため、国土交通省は、海事関連団体等と連携して、海事振興事業及び海洋教育事業を全国で展開している。令和4年度には、海事振興事業として、海を楽しく知ることができるオンラインイベント「海の日プロジェクト2022」を開催。海洋教育事業では「海洋教育プログラム(学習指導案)」や「ウェブ授業動画」の周知・広報など海洋教育を行う環境整備を実施した。

  1. 注6 毎年の利益に応じた法人税額の算出に代わり、船舶のトン数に応じた一定のみなし利益に基づいて法人税額を算出する税制。世界の主要海運国においては、同様の税制が導入されている。