
国土交通白書 2023
第2節 国際交渉・連携等の推進
(1)アジア太平洋経済協力(APEC)
APECは、アジア太平洋地域の持続可能な成長と繁栄に向けて、貿易・投資の自由化、ビジネスの円滑化、経済・技術協力等の活動を行う経済協力の枠組みであり、国土交通省では、APECの交通・観光分野に係る大臣会合及び作業部会に出席し、APEC域内における効率的でシームレスな輸送システムの構築に積極的に取り組んでいる。
APECの交通分野を取り扱う作業部会「APEC交通ワーキンググループ」については、新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から対面での開催が見送られていたが、令和4年9月に第52回がバンコクにて対面開催され、APEC域内の交通分野における強靭性・接続性、コロナからのより良い回復等について議論された。
(2) 東南アジア諸国連合(ASEAN)との協力
国土交通省は、ASEANにおける「質の高い交通」をさらに推進するため、日本とASEANの交通分野の協力枠組みである「日ASEAN交通連携」の下、陸上、海上、航空にわたる様々な協力プロジェクトを実施している。これらのプロジェクトの進捗状況を確認し、今後の方向性、新たなプロジェクトについて議論するため、「日ASEAN交通大臣会合」等の会合が毎年開催されている。令和4年10月、「第20回日ASEAN交通大臣会合」がインドネシア・バリ島で開催され、我が国からは西田国土交通大臣政務官が出席した。本会合においては、「日ASEAN交通連携」の具体的実施計画である「日ASEAN交通連携ワークプラン2022-2023」とともに、新規協力プロジェクトとして「日ASEAN航空保安プロジェクトワークプラン(2023~2027年)」が承認された。さらに、これまでのプロジェクトの成果物として、「港湾保安マニュアルの付属資料(優良事例集)」と「橋梁維持管理技術参考資料」の2つが承認された。
また、ASEAN各国のスマートシティ実現に向けたプラットフォームである「ASEANスマートシティ・ネットワーク(ASCN)」への協力の一環として、ASCNと連携して「ASEAN Smart City Planning Guidebook」を策定し、令和4年6月に公表した他、同年12月、「第4回日ASEANスマートシティ・ネットワーク ハイレベル会合」をASEAN各国、国内関係省庁、関係自治体と連携して、福島県にて開催した。本会合では、我が国とASEAN双方におけるスマートシティの取組みの共有、我が国によるスマートシティ支援策(Smart JAMP)で取り組んでいるプロジェクトの進捗共有、パネルディスカッション等を通じて、スマートシティの社会実装に向けた課題と解決方法の方向性についての認識を共有し、ASEANでのスマートシティ実現に向けて引き続き協力をしていくことを確認した。
(3)経済協力開発機構(OECD)
国土交通省は、OECDの活動のうち、国際交通フォーラム(ITF)、造船部会(WP6)、地域開発政策委員会(RDPC)、開発センター(DEV)、観光委員会等における議論に参画している。
ITFは、加盟64か国が全交通モードを対象に交通政策に関する議論・研究を行っており、年1回開催されるITFサミットにおいて、各国の交通担当大臣が著名な有識者・経済人を交えた議論を行っている。令和4年5月に開催されたサミットでは、「包摂的な社会のための交通」をテーマとして議論が行われたほか、我が国を含む有志国が、ロシアによる大規模な侵略を受けたウクライナとの連帯等で一致し、共同声明を発出した。また、ITFの調査研究部門である交通研究委員会(TRC)に我が国から多くの専門家が参画し、国際的な研究活動の推進に貢献している。
WP6は、造船に関する唯一の多国間フォーラムとして、国際造船市場に関する政策協調のための重要な役割を担っており、公的支援の適正化や透明性確保、輸出信用等に関する議論を行っている。令和4年11月の会合では、我が国の提案により、世界的な鋼材等の価格高騰を踏まえた適切な船舶の価格設定のあり方等の議論を行い、鉄鋼、造船、海運業界等がコストを適切に価格に反映していくことの重要性が認識された。また、環境にやさしい船舶への融資等を促進するための国際的なルールの改正に向けて、特別会合を開催し検討を開始することが合意された。引き続き、政策協調のための議論を継続的に実施し、加盟国間による公的支援の相互監視等を通じて、公正な競争条件の確保に努める。
RDPCでは、国土・地域政策等に関する各加盟国の政策レビューや、東南アジアにおける持続可能な都市政策ファイナンスの促進に関する調査等に積極的に取り組んでいる。また「スマートシティと包括的成長に関するOECDプログラム」の一環としてスマートシティのデータ利活用に関する調査に取り組んできた。
DEVは、開発にかかる様々な問題・経済政策に関する調査・研究、先進国、新興国及び途上国による対話やセミナーを通じた知見・経験の共有・普及、政策オプションの提供等を行う機関であり、今後の開発に関する議論を行うとともに、セミナー等により質の高いインフラの途上国への普及・実施についても取り組んでいる。令和4年12月には、政策対話の場において、災害に対する強靱性に着目した質の高いインフラに関するセッションを国土交通省と共催し、我が国の取組みを共有した。
観光委員会では、各国の観光関連政策のレビューや、観光統計データの整備及び分析等を行っている。我が国は同委員会の副議長国として活動しており、同委員会と積極的に連携している。
令和4年には、加盟国およびパートナー国における新型コロナウイルス感染拡大及びロシアによるウクライナ侵攻の影響を受けた観光の動向に関して調査・分析し、「OECD諸国の観光動向と政策2022年」を発刊した。より強靱で持続可能な観光の再構築に向けた優先政策への提言をまとめており、我が国も関連する施策や取組み等を共有している。
(4)国際連合(UN)
①国際海事機関(IMO)
IMOは、船舶の安全・環境等に関する国際ルールを定めている国連の専門機関である。我が国は、世界の主要海運・造船国として同機関の活動に積極的に参加しており、令和4年12月まで環境関係の条約を採択する委員会の議長を日本人が務めるなど、世界の海事分野のルール作りをリードしている。
特に、世界的に関心が高まっている気候変動対策を海運分野で強力に進めるべく、我が国は国際枠組みの整備を牽引している。令和4年度には、具体的な国際海運からのGHG削減対策(経済的手法)として、ゼロエミッション船の早期導入を促進するため、化石燃料船に対して課金(fee)し、ゼロエミッション船に対して還付(rebate)を行うfeebate制度をIMOに提案した。
また、安全面においては、水素やアンモニアを燃料とする船舶の構造・設備や船員の教育訓練に関する安全ガイドラインの検討が進められており、我が国は、実証事業や研究開発の成果を活用し、これらガイドラインの策定に向けた審議に積極的に貢献してきている。特に、令和4年度は、我が国、シンガポール等の提案により、アンモニア燃料船の安全ガイドラインの策定作業が開始された。
②国際民間航空機関(ICAO)
ICAOは、国連の専門機関の一つであり、国際民間航空の安全・保安・環境などに関する国際標準の策定、各国の安全監視体制の監査などの取組みを実施している。令和4年9~10月に開催された第41回総会では、我が国が理事国に再選されるほか、我が国がリードしたタスクグループの報告書がベースとなり、「国際民間航空分野で2050年までのカーボンニュートラルを目指す」こととする長期目標が採択されるなど、国際民間航空の発展に寄与している。
③国連人間居住計画(UN-Habitat)
UN-Habitatは、人間居住問題を専門に扱う国連の基金・計画の一つである。我が国は、設立以来の理事国としてUN-Habitatの諸活動に積極的に参加し、我が国の国土・地域・居住環境改善分野での経験、知見を活かした協力を通じ、世界、特にアジアでの人口爆発、急激な都市化に伴う人間居住問題の改善に貢献している。
令和4年度は、4年6月にポーランドにて開催されたUN-Habitatが事務局を務める第11回世界都市フォーラムや、4年7月にUNHabitat福岡本部(アジア太平洋担当)が福岡市と共催した第13回アジア太平洋都市サミットに参加し、「強靱なインフラ」をテーマとしたサイドイベントを開催するなど、持続可能な都市化のための世界共通の目標である「ニュー・アーバン・アジェンダ」の達成に向けた強靱なインフラの構築を通じた災害リスク低減(DRR)の重要性を世界へ発信した。
④国連における水と防災に関する取組み
令和5年3月に、国連本部にて国連水会議2023が開催された。同会議では、世界の水問題に対して具体的な行動を起こすための議論が行われ、5つのテーマ別討議のうち、気候変動下における水の強靱性がテーマとなった討議の共同議長を日本とエジプトが務めた。同討議において、日本の水防災の知見を活かして議論を主導し、世界が今後取り組むべき水の強靱化に向けた提言をとりまとめた。
⑤国連における地理空間情報に関する取組み
国土地理院は、国連経済社会理事会に設置されている「地球規模の地理空間情報管理に関する国連専門家委員会(UN-GGIM)」に防災WG共同議長として、また、UN-GGIMの地域委員会の1つである「国連地球規模の地理空間情報管理に関するアジア太平洋地域委員会(UN-GGIM-AP)」に副会長として、更には、「国連地名専門家グループ(UNGEGN)」に参加し、我が国で培った技術や経験を活かして、地球規模の測地基準座標系(GGRF)の普及や、地理空間情報によるパートナーシップの推進等により貢献している。
(5)G7交通大臣会合
令和5年、我が国はG7議長国となり、5月に開催される広島サミットのほか、14の関係閣僚会合が全国各地で開催される。
交通分野については、同年6月に三重県志摩市において、「G7三重・伊勢志摩交通大臣会合」の開催を予定している。新型コロナウイルスの感染拡大後、初めて対面で開催される予定の本会合では、「イノベーションを通じた、誰もがアクセス可能で持続可能な交通の実現」をテーマとし、交通分野における今日的な課題について議論を行う予定である。
(6)G7都市大臣会合
令和4年9月に、ドイツ・ポツダムにおいて初めて開催されたG7都市大臣会合に、国土交通大臣が出席した。5年7月に香川県高松市において、「G7香川・高松都市大臣会合」の開催を予定している。同会合では、「レジリエンス・カーボンニュートラル」や「デジタル技術の活用(スマートシティ)」等をテーマに、価値観を共有するG7各国との間で「持続可能な都市の発展」に係る都市政策の重要性について国際的な共通理解を図る。
(7)世界銀行(WB)
令和4年10月、「アフォーダブル(手頃な価格の)住宅」を主題とした「都市開発実務者向け対話型研修(テクニカル・ディープ・ダイブ)」が、世界銀行により開催された。同研修において、国土交通省は、各国の住宅・都市開発担当者を対象に、日本における住宅政策の変遷や住宅確保要配慮者のための住宅供給政策等に関する知見を紹介した。
(8)アフリカ開発会議(TICAD)
アフリカにおける「質の高いインフラ投資」を推進するために、「アフリカ・インフラ協議会(JAIDA)」と連携し、官民インフラ会議の開催等の取組みを進めてきたところ、令和4年8月にチュニジアで開催された第8回アフリカ開発会議(TICAD8)に併せて、チュニジア設備・住宅省との共催により「第3回日・アフリカ官民インフラ会議」を開催した。本会議では、我が国企業のアフリカ進出・事業拡大に当たっては、現地の信頼できるビジネスパートナーを見つけることが不可欠であり、企業のトップ同士が対面で話し合うことが極めて重要との考えから、日・アフリカのインフラ関係企業の交流機会を設けること等を通じて、我が国企業の現地進出を支援するとともに、アフリカ各国における「質の高いインフラ」への理解促進を図った。
(9)アジア欧州会合(ASEM)
ASEMは、アジア・欧州関係の強化を目指して平成8年に発足した対話と協力の場であり、アジア側参加メンバー(21か国と1機関)、欧州側参加メンバー(30か国と1機関)の合計51か国と2機関によって構成されている。