
国土交通白書 2024
第2節 未来につながる変革と持続可能で豊かな社会を目指して
コラム ホーバークラフトの導入による観光振興を通じた地域活性化(大分県)
大分県は、アジアへの玄関口である九州の北東部に位置しており、県内全域に広がる温泉は日本一の湧出量と源泉数を誇るなど、多くの観光資源を有している。同県北部にある大分空港は、旅行客等の空の玄関口として、コロナ期間を除き、利用者数が年々増加し、2018年には200万人を突破、今後もLCC注1の発着便シェアの拡大により、更なる利用者増加が見込まれている。
同県では、航空需要増を県内経済に確実に取り込み、観光振興等を通じた地方創生の加速化を進める一方で、公共交通注2による中心市街地へのアクセス時間が約65分と、国内の空港の中でアクセス時間が最も長いという課題があった。
同県は、そうした課題を解決するため、定期運航に供されるものとしては日本で唯一となる、ホーバークラフト注3を活用した空港と西大分の間を結ぶ航路を整備することとした。ホーバークラフトによる海上アクセスは、鉄道等の陸上交通と比べ、事業費が安く、導入期間が短く済み、また、空港から中心市街地への経路を直線で結ぶことで、従来の別府湾の迂回が必要な陸路による移動手段(高速バス等)に比べ、大幅な時間短縮効果が期待されている。
ホーバークラフト1隻当たりの収容人数は約80名、車いすの利用を考慮し、船内に車いすスペースを2か所、優先座席を8席備えており、段差の解消や、乗降用のスロープを備えたバリアフリー対応となっている。さらに、プロペラを使用するホーバークラフト特有の騒音問題に対しては、船体後方のプロペラを大型化し、回転速度を抑えることにより、大幅に騒音を低減することが可能となった。同県は、2024年秋頃までのホーバークラフトの就航を目指しており、年間利用者は45万人程度を見込んでいる。
ホーバークラフトを導入することで、空港から中心市街地へのアクセス時間が現行の約65分から約30分へ大幅に削減されるとともに、移動の利便性向上による県外空港から大分空港への利用転換や、世界的に希少性の高いホーバークラフトを目的とした同県への観光客数の増加等により、運航開始してからの約20年間において、同県は、県内で約614億円の経済波及効果を見込んでいる。また、西大分の旅客ターミナル「HOV.OTA」(ホボッタ)は、大分の魅力で来訪者を迎え入れることをコンセプトとして、同県の原風景である杉林をイメージしてデザインされた空間が来訪者を出迎える。施設内のテナントにて飲食や県内特産品の購入ができることに加え、屋外では、展望デッキから別府湾を一望することができるなど、同県における観光の魅力を高める新たなランドマークとしての役割も期待されている。
同県は、今後は大分市との連携の下、従来の公共交通(バス・タクシー)の活性化を図り、同市内の別府湾沿岸部における各観光拠点への回遊性を高めるなど、観光振興を通じた地方創生の更なる加速化に向けた取組みを目指していくこととしている。


資料)大分県
- 注1 Low Cost Carrier:格安航空会社
- 注2 大分県の場合は高速バス
- 注3 ホーバークラフトとは、船体上部から吸い込んだ大量の空気を下部へ勢いよく噴出し続け、船体を宙に浮かせたままの状態で、飛行機のようにプロペラを動力として地面や水の上を走行する、水陸両用の乗り物である。英国製で、商品名はホバークラフトであるが、大分県では以前からホーバークラフトと呼ばれている。