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国土交通白書 2024

第2節 望ましい将来への展望

インタビュー 『ゆき みず だいち つなんまち』持続可能な町の実現への挑戦

~新潟県津南町長 桑原 悠氏~
~新潟県津南町長 桑原 悠氏~

 持続可能なまちづくりには、地域の産業に従事する人材の育成や、地域の稼ぐ力の向上が重要となる。国土審議会計画部会の有識者委員であり、現職の首長としては当時、全国最年少となる31歳で津南町長に就任、二児の母として子育てと仕事とを両立させながら、町政に取り組まれる桑原氏に、人口減少が進む厳しい環境の下で、持続可能な町を実現するための取組みや将来の展望についてお話を伺った。

(Ⅰ)持続可能な町の実現に向けた取組み

●経済的な拠り所としての産業づくり

 日本一の信濃川が流れ、日本有数の河岸段丘の大地を有し、日本屈指の豪雪地帯としても知られている津南町は、春先には雪解け水が田畑を潤し、その豊富な水資源を活かし、特色ある農産物の生産が行われている。

 全国的に人口減少・高齢化は深刻な問題であるが、津南町も近い将来、大幅な人口減少が見込まれている。昨年末の将来人口推計によれば、2050年に町の人口が半減するという非常に厳しい状況に直面しており、厳しい環境変化に対応していかなければならないと認識している。

 持続可能な町を実現するためには、経済的な拠り所をつくることが重要である。「農を以て立町の基と為す」という町是のとおり、基幹産業が農業である津南町には、「魚沼産コシヒカリ」として有名な米、雪下にんじん、アスパラガス等の特産野菜、世界一の作付けを誇るカサブランカのユリ等、数々の「大地の恵み」があり、これらの生産振興は、町の重要課題である。また、町には酒蔵が2つあり、日本酒を海外にアピールできるチャンスがある。

 地域で有数、又は国のレベルで有数の「戦える産業」が残っている今こそ、「儲かる産業づくり」を進めることが重要であり、注力するポイントをどこに置くか、各自治体が整理していく必要がある。

●産業の担い手づくり、省力化・自動化等生産性の向上を推進

 町では、産業の担い手の確保・育成にも力を入れている。農業法人の設立支援等の町の取組みにより、10以上の農業法人が立ち上がり、30代、40代の方々が会社経営者として参画した。それにより、新技術が入りやすい環境が生まれ、ドローンの操縦者技能証明も既に40名ほどが取得するなど、スマート農業の導入が進んでいる。

 また、町では、就農者の省力化につなげるため、農地に情報通信(IT)環境を敷設し、水田の自動給水栓やビニールハウスの温度管理を行う、モデルエリアの推進に取り組んでいる。

 農地へのIT環境の整備は、それだけに終わらせず、ゆくゆくは子ども・お年寄りの見守り等にも活用していきたい。面的に整備したIT環境が、新しいビジネスに繋がっていければと期待している。

 これからもテクノロジーを駆使して公の課題を解決する「パブリテック」を重視し、進めていきたい。

●仕事や結婚、子育ての希望がかなえられる、こどもまんなか社会の津南へ

 また、持続可能な町づくりで優先すべきなのは、子どもたちのより良い育ちのための環境整備である。町では、子育て環境の充実に力を入れており、学童保育や学校施設の環境改善を進めているほか、特徴的な取組みとして、県立の中高一貫校と連携して学習内容に「総合学習・探究学習」を取り入れている。これは、生徒が自分たちの地域で課題を見つけてきて解決策を見出し、実践までするという取組みである。

 また、高校生までに、地元産業・地元企業の認知度があればUターンする率が高いというデータに基づき、地元企業の協力による草の根の取組みとして、中高生に向けた「産業発見塾」を行っている。企業が直接、中高生に対しプレゼンテーションをすることで、中高生の地元企業についての認知度を高めるというもので、子どもたちが自分の町を知り、町に愛着をもてるような取組みである。

 価値観の多様化が進む中で、個性を生かした共生社会の実現が求められている。例えば、「仕事と子育ての両立」の前に立ちはだかる、長時間労働の問題や、仕事と家事・育児の双方を女性が担うといった障壁をどう乗り越えていくかが重要である。現代の夫婦やカップルの中には、男性も女性も共に協力し合いながら、家族もあきらめないし、キャリアもあきらめないといった「デュアルキャリア・カップル」と呼ばれる形がある。町でも、カップルのお互いの状況を、その都度話し合って進めていけるような、夫婦やカップルのモデルづくりから始め、夫婦のウェルビーイングな働き方の実現へつなげていきたい。

●移住人口、関係人口の創出と町の情報発信

 令和4年9月から、移住相談を担当する「移住コーディネーター」を町に設置した。これにより、移住相談や空き家バンク対応がきめ細やかにでき、また、情報発信の強化にもつながっている。住民や町内企業がサポーターとなる「移住サポーター」が、「移住コーディネーター」と連携しながら、移住ツアー等を地域で主催する動きも出ている。住民自ら、人口減少に危機感を持ち、活動する流れは、町にとってもありがたく、今後も応援していきたい。

 また、故郷の津南町に家を建て、暮らしつつ、勤務先のある東京との間を行き来する働き方を選ぶ人が、少しずつ増えている。こうした二地域居住を選ぶ住民にとって過ごしやすい環境となるよう、「まちなかオープンスペース だんだん」という、リモートワークに適した施設を整備している。また、二地域居住する人々同士のコミュニティができていくことも期待している。町内の空き家の有効活用を図る、移住者向けの空き家改修事業、住宅取得や賃貸住宅に対する補助事業等、補助金も用意しており、町への移住人口等の拡大につなげたい。

 二地域居住までいかなくとも、関係人口の皆さんとの交流を通じ、ふるさと納税や実際の来訪等につなげようという取組みも始めている。例えば、「おてつたび」(お手伝いと旅の造語)は、関係人口づくりに有効で、町直営の「ひまわり広場」へ「おてつたび」の方に来てもらうなど、町内の事業者に「おてつたび」の利用を促し、好評をいただいている。

 そのほか、町のイベントや仕事の情報発信、地元産業の認知度向上を目的として、「つながる、つなん」というサイトを、アプリ上で展開している。

●防災力を高め、万が一に備える

 町の持続可能性という観点では、防災の取組みに力を入れることも重要である。令和元年に信濃川が出水したことから、堤防整備等のハード面で、国や県と一丸となり進めたほか、ソフト面でも、町の防災訓練を、県立の中高一貫校と連携し、地域住民や地元小学校の児童との協働で取り組んでいるが、これらの取組みは全国的にも高い評価を受けている。

(Ⅱ)全国に誇れる津南に

●地域経済の好循環を生み出す

 津南には、全国に誇れる独自の価値がある。農業や商工業、観光が連携することで、その価値を活かした地域経済の好循環を生み出したい。豊富な水資源のおかげで、大地の恵みの農産物があるように、自然力に育まれ、自然とともに生きている町の「つなんブランド」の価値向上につなげるため、「ゆき みず だいち つなんまち」を統一的なブランドスローガンに決定し、タウンプロモーションを進めている。また、観光で意識しているのが、地域連携である。地域全体で盛り上げていく意識を持ち、広域で訪問客を増やす、全体のパイを広げる取組みを進めていきたいと考えている。

 これからも多様な資源を活かし、知恵と工夫で、町や地域の魅力・個性を発揮していきたい。

●「いつかは津南に帰りたい」と思ってもらえる町に

 持続可能な町づくりに率先して行動できる人材を育成するためには、子どもの頃から、町や地域に関わり、自分たちが変えられるという手応えを感じ、経験を積むことが重要と考える。そのような経験を積む機会(フィールド)や人材を、町が提供したりつないだりすることで、将来の町づくりや国づくりに関わる人を増やしていくことができる。

 そのため現在、中高生を対象に実施している「総合学習・探究学習」について、今後は「総合学習・探究学習魅力化アドバイザー」を設置し、対象を小学生まで拡充することを考えている。

 「大きくなっていつかは津南に戻りたい」と子どもたちに思ってもらえる、より魅力的な津南町を実現していきたい。