
国土交通白書 2024
第1節 交通ネットワークの整備
(1)航空ネットワークの拡充
①首都圏空港の機能強化等
訪日外国人旅行者の受入拡大、我が国の国際競争力の強化等の観点から、首都圏空港(東京国際空港(羽田空港)、成田国際空港(成田空港))の機能強化は必要不可欠であり、両空港で年間約100万回の発着容量とするための取組みを進めているところである。
具体的には、羽田空港において、令和2年3月から新飛行経路の運用を開始し、国際線の発着容量を年間約4万回拡大しているところであり、引き続き、騒音対策・落下物対策や、地域への丁寧な情報提供に努めるとともに、新飛行経路の固定化回避に向けた取組みを進める。また、引き続き空港アクセス鉄道の基盤施設整備、国内線・国際線間の乗継利便性向上のための人工地盤の整備、旧整備場地区の再編整備等を実施する。成田空港においては、地域との共生・共栄の考え方の下、C滑走路新設等の年間発着容量を50万回に拡大する取組みを進めるとともに、空港会社において、旅客ターミナルの再構築や航空物流機能の高度化等の検討を進めている。


②関西国際空港・中部国際空港の機能強化
関西国際空港については運営権者において、民間の創意工夫を生かした機能強化が図られており、令和5年12月には新国際線出発エリアがオープンした。引き続き、国際線キャパシティーを向上させるため、第1ターミナルにおける国際線/国内線エリアの配置の見直しによる施設配置の再編等を含む、第1ターミナル改修等による同空港の機能強化を推進し、関西3空港における年間発着容量50万回の実現を目指す。
中部国際空港においては、国際線キャパシティーの向上を目的に、第1ターミナル改修等を引き続き行うとともに、現滑走路の大規模補修を速やかに実施するため代替滑走路の整備等の取組みを推進する。

③地方空港の機能強化
福岡空港においては、滑走路処理能力の向上を図るため、滑走路増設事業を実施しており、北九州空港においては、北米・欧州の主要都市へ貨物専用機の直行便運航に対応するため、滑走路延長事業を実施している。また、那覇空港においては、空港の利便性向上を図るため、国際線ターミナル地域再編事業を、新千歳空港においては、航空機や除雪車両の混雑緩和等を図るため、誘導路複線化等を実施している。
そのほかの地方空港においては、航空機の増便や新規就航等に対応するため、エプロンの拡張やターミナル地域の整備等を実施している。
また、航空機の安全運航を確保するため、老朽化が進んでいる施設について予防保全型の維持管理を踏まえた空港の老朽化対策を実施するとともに、地震災害時における空港機能の確保を図るため、滑走路等の耐震対策を進めている。
④航空自由化の戦略的推進による我が国の国際航空網の拡充
国際航空網の拡充を図るため、我が国では航空自由化(オープンスカイ)注1を推進している。首都圏空港の厳しい容量制約を背景に、羽田空港を自由化の対象外とするなど一部制約が残るが、我が国を発着する国際旅客便数は、成田空港における二国間輸送を自由化の対象に追加した平成22年時点(2,649便/週注2)と比べて、令和元年時点(5,516便/週注2)で2倍強に増加した。
その後、新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、国際旅客便数は一時激減したが、水際措置が大幅に見直された令和4年10月以降、回復の傾向にある(5年10月末時点:4,311.5便/週)。
⑤航空機操縦士等の養成・確保
我が国の航空業界においては、操縦士・整備士共に50代あたりを中心とした年齢構成のピークがあり、将来の大量退職が見込まれている。操縦士等が航空会社において第一線で活躍するまでには長い時間を要することから、今後の航空需要の回復・増加に対応するためには、中長期的な視点で計画的に操縦士等の養成を継続する必要がある。
これらを踏まえ、先進的な訓練手法の更なる効果向上に資する訓練データ分析手法の確立に向けた検討、国家資格についてのより合理的で利便性の高い試験方式の着実な運用及び航空大学校における操縦士の着実な養成、航空会社等と連携した指定航空従事者養成施設等における航空整備士養成課程の学生に対する無利子貸与型奨学金の創設・開始、航空業界を志望する若年者の裾野拡大に向けたイベントの開催等に取り組む。
(2)空港運営の充実・効率化
①空港経営改革の推進
国管理空港等において、「民間の能力を活用した国管理空港等の運営等に関する法律」(民活空港運営法)を活用し、地域の実情を踏まえつつ民間の能力の活用や航空系事業と非航空系事業の一体的経営等を通じた空港経営改革を推進し、空港を活用した内外の交流人口拡大等による地域活性化を図っていくこととしている。具体的には、国管理空港について、平成28年7月に仙台空港、30年4月に高松空港、31年4月に福岡空港、令和2年4月に熊本空港、2年6月より順次北海道内7空港(うち3空港は地方管理空港)、3年7月に広島空港の運営委託が開始された。
②LCCの持続的な成長に向けた取組み
平成24年3月に本邦初となるLCCが就航した。それ以降、令和5年冬ダイヤ当初計画時点で、ピーチ・アビエーションは国内25路線及び国際12路線、ジェットスター・ジャパンは国内17路線及び国際3路線、スプリング・ジャパンは国内2路線及び国際3路線、ジップエア トーキョーは国際8路線へネットワークを展開している。
政府は、国内各地域における、LCCを含む国際線就航を通じた訪日外国人旅行客の増大や国内観光の拡大等、新たな需要を創出するため「令和7年の地方空港における国際線就航都市数130都市」を目標とした施策を行っている。また、様々な空港においても、政府の方針に沿った取組みが行われている。
具体的には、主に①着陸料軽減措置、②空港経営改革、③受入環境整備の3つの観点から実施している。
③ビジネスジェットの受入推進
ビジネスジェットとは、数人から十数人程度を定員とする小型の航空機であり、利用者のスケジュールに応じた時間設定や、プライバシーが確保されるため搭乗中に商談等が可能となるなど、時間価値の高いビジネスマン等が利用の対象となっている。
欧米では既にビジネスジェットがグローバルな企業活動の手段となっている中、我が国においても経済のグローバル化に伴い、従来より、東京国際空港・成田国際空港を中心に、アジア地域における経済成長の取り込みの観点から、ビジネスジェットの振興は重要な課題であったが、近年は高付加価値旅行者の取込み等インバウンド拡大の観点からも重要性が増している。そこで、我が国ではビジネスや高付加価値旅行者の観光需要等に応えるべく、ビジネスジェットの利用環境の改善を図っている。例えば、令和5年度においては、観光目的の外国籍ビジネスジェットに係る運航許可に関する航空局への申請期限を緩和し、また、新千歳空港及び下地島空港において、ビジネスジェット専用動線を整備し、一般旅客と動線を分離して利便性の向上を図るなど、ビジネスジェットの利用環境改善を着実に進めている。
④地方空港における国際線の就航促進
平成28年3月に策定された「明日の日本を支える観光ビジョン」において掲げられている、令和12年に訪日外国人旅行者数6,000万人という目標の実現に向けては、国際線就航による地方イン・地方アウトの誘客促進が重要である。各地域における国際線就航を通じた訪日客誘致の促進のため、東京国際空港以外の国管理空港(コンセッション空港を除く)・共用空港について、国際線の着陸料の軽減措置を講じている。また、航空機の運航に不可欠なグランドハンドリングや保安検査をはじめとする空港業務は、コロナ禍の影響等により、人手不足に直面している。このため、令和5年2月に有識者会議を設置し、同年6月には「空港業務の持続的発展に向けたビジョン」の中間とりまとめを公表したところであり、空港業務が持続可能な形で発展するよう、地方公共団体等の地域の関係者が一丸となって、人材確保・育成、職場環境改善等を推進する。加えて、ボーディングブリッジやCIQ施設の整備等の旅客の受入環境高度化への支援等を実施し、各地における国際線就航に向けた取組みを促進している。
(3)航空交通システムの整備
長期的な航空交通需要の増加やニーズの多様化に対応するとともに、国際民間航空機関(ICAO)や欧米等の動向も踏まえた世界的に相互運用性のある航空交通システムの実現のため、平成22年に「将来の航空交通システムに関する長期ビジョン(CARATS)」を産学官の航空関係者により策定し、ICAOの「世界航空交通計画(GANP)」と協調しつつ、その実現に向けた検討を進めている。今後、準天頂衛星システム7機体制が確立されることを踏まえ、静止衛星3機を用いた衛星航法補強システム(SBAS)の測位精度の向上により、高度化したサービスの提供を開始し、視界不良時における航空機の着陸機会の増加等を図ることで、長期ビジョンを実現していく。
(4)航空インフラの海外展開の戦略的推進
アジア・太平洋地域における航空市場は今後も成長が見込まれる。このため、同地域の航空ネットワークの強化に貢献するとともに、各国の成長を我が国に積極的に取り込むべく、我が国企業による海外空港整備・運営への参画及び我が国企業が強みを有する個別技術の海外空港への展開を推進している。
令和5年度は、パプアニューギニアにおいて、円借款で整備したナザブ空港ターミナルの供用式典が行われた。また、タイにおいて、スワンナプーム国際空港の地上直接送信型衛星航法補強システム(GBAS)の導入を推進した。加えて、タイ・フィリピン・ベトナムにおいて、我が国企業が有する技術を紹介する航空技術セミナーを開催した。
- 注1 航空会社の新規参入や増便、航空会社間の競争促進による運賃低下等のサービス水準の向上を図るため、国際航空輸送における企業数、路線及び便数に係る制約を2か国間で相互に撤廃すること。
- 注2 いずれも各年の夏期スケジュールの第1週目の事業計画便数(期首時点での数値、往復で1便とカウント)。