
国土交通白書 2024
第4節 交通分野における安全対策の強化
(1)航空の安全対策の強化
①航空安全プログラム(SSP)
航空局は、国際民間航空条約第19附属書に従い、民間航空の安全に関する目標とその達成のために講ずべき対策等を航空安全プログラム(SSP)として定め、平成26年から実施している。令和5年5月に国際民間航空機関(ICAO)におけるSSPに関する動向を踏まえ、安全目標に対する進捗度合いの評価のために統計的手法を導入するなど、我が国SSPの有効性を向上させるための改正を行った。さらに、我が国の航空の安全上の課題を特定し、これに対処するための具体的取組み等を取りまとめた、我が国における国家航空安全計画(NASP)(仮称)を策定することとしている。
また、報告が義務づけられていない航空の安全情報の収集のため、平成26年より航空安全情報自発報告制度(VOICES)を運用しており、空港の運用改善等に向けた提言が得られている。引き続き、安全情報の重要性の啓蒙を通じ、制度の更なる活用を図るとともに、得られた提言を活用して安全の向上を図ることとしている。
②航空輸送安全対策
特定本邦航空運送事業者注16において、航空機に起因する乗客の死亡事故は昭和61年以降発生していないが、安全上のトラブルに適切に対応するため、航空会社等における安全管理体制の強化を図り、予防的安全対策を推進するとともに、国内航空会社の参入時・事業拡張時の事前審査及び抜き打ちを含む厳正かつ体系的な立入監査を的確に実施している。また、我が国に乗り入れる外国航空機に対する立入検査等により、航空機の運航及び機体の安全性の監視を実施している。
航空機からの落下物対策については、平成29年9月に落下物事案が続けて発生したことを踏まえ、30年3月に「落下物対策総合パッケージ」を策定した。同パッケージに基づき、同年9月に「落下物防止対策基準」を策定し、本邦航空会社のみならず、日本に乗り入れる外国航空会社にも対策の実施を義務付けており、本邦航空会社は31年1月から、外国航空会社は同年3月から適用している。
また、平成29年11月より、国際線が多く就航する空港を離着陸する航空機に部品欠落が発生した場合、外国航空会社を含むすべての航空会社等から報告を求めている。報告された部品欠落情報については、原因究明の結果等を踏まえて国として航空会社への情報共有や指示、必要に応じて落下物防止対策基準への対策追加等を実施しており、再発防止に活用している。引き続き「落下物対策総合パッケージ」に盛り込まれた対策を関係者とともに着実かつ強力に実施していく。
平成30年10月末以降航空従事者の飲酒に係る不適切事案が相次いで発生したことを踏まえ、31年1月から令和元年7月にかけて厳格な飲酒基準を策定し、こうした基準が適切に遵守されるよう、監査等を通じて指導・監督を実施してきたところである。令和3年度から2か年度にわたり、客室乗務員による飲酒検査での不正、アルコール検知、飲酒事案の虚偽報告事案が発生したことを踏まえ、飲酒検査体制の強化、アルコール教育の適切な実施(効果測定含む。)及び組織的な飲酒傾向の把握等が図られるよう、引き続き指導・監督を実施していく。
③無人航空機・「空飛ぶクルマ」に係る環境整備
無人航空機については、「航空法」において、飛行禁止空域や飛行の方法に加え、飛行禁止空域における飛行や規定の飛行の方法によらない飛行の場合の許可・承認等の基本的なルールが定められている。また、無人航空機の所有者等の把握や安全上問題のある機体の排除を通じた無人航空機の飛行の更なる安全性向上を図るため、令和4年6月から無人航空機の機体登録が義務化された。さらに、有人地帯(第三者上空)での目視外補助者なし飛行(レベル4飛行)の実現のため、同年12月から機体認証制度や操縦者技能証明制度等が導入された。5年3月には、まずは山間部において、レベル4飛行が開始されたところ、今後は安全性確保を前提としつつ段階的に人口密度の高いエリアへ拡大していく。また、5年12月には、ドローンによる配送サービスの事業化のため、レベル3.5飛行の制度を新設した。こうした取組みを通じ、安全性を確保しつつ、ドローンの社会実装を強力に推進していく。また、いわゆる「空飛ぶクルマ」については世界各国で機体開発の取組みがなされているが、我が国においても、都市部での送迎サービスや離島や山間部での移動手段、災害時の救急搬送等の活用を期待し、次世代モビリティシステムの新たな取組みとして、世界に先駆けた実現を目指している。令和7年の大阪・関西万博における飛行の開始に向けて、5年度に策定した機体や運航の安全基準、操縦者の技能証明や離着陸場に関する基準に基づき、安全性の審査を実施するとともに、交通管理に必要な情報提供・モニタリング等を行うための施設整備等を進める。
④航空機等の安全性審査
国土交通省では、米国・欧州の航空当局等との密接な連携をするとともに、安全性審査を担当する職員の能力維持・向上等を図ることにより、「空飛ぶクルマ」を含む国産及び輸入航空機の安全・環境基準への適合性の審査を適切かつ円滑に実施している。また、令和5年3月にはレベル4飛行に対応した無人航空機に対して我が国初となる第一種型式認証を行うなど、無人航空機の安全性審査にも取り組んでいる。
⑤小型航空機の安全対策
小型航空機については、平成27年7月に東京都調布市における住宅への墜落事故等が発生したことから、平成28年12月に有識者や関係団体等から構成される「小型航空機等に係る安全推進委員会」を立ち上げ、「新技術の活用」、「操縦士に対する指導監督の強化」及び「安全情報の発信強化」の三つの柱で、安全対策を推進している。
「新技術の活用」においては、小型航空機の事故等の発生時の原因究明や操縦士の技量向上等への効果が期待される簡易型飛行記録装置(FDM機器)について、これまでに実施した調査及び実証実験の結果を踏まえて、令和5年8月に「小型航空機用FDM導入ガイドライン」を策定したところであり、同ガイドラインによりFDMの普及促進に取り組んでいる。「操縦士に対する指導監督の強化」では、特定操縦技能審査を行う技能審査員への指導・監督を強化しているほか、安全講習会の開催、違反者への行政指導等により、操縦士の技能向上や法令遵守を徹底している。また、メールマガジンやSNSによる安全情報の発出、実際に発生した事故等の概要や対策、教訓等を盛り込んだ安全啓発動画や空港ごとの最終進入時に注意すべき点をまとめた参考動画の配信等により、「安全情報の発信強化」を図っている。
(2) 安全な航空交通のための航空保安システムの構築
安全性を確保しつつ、ポストコロナの航空交通の増大に対応しながら、脱炭素化(カーボンニュートラル)の実現に向け、航空機の運航の改善を図るべく、今後、航空情報や運航情報等航空機の運航に必要な情報のより迅速かつ正確な共有を実現するシステムの運用を開始するとともに、運用サービスの拡充を順次計画している。
- 注16 客席数が100又は最大離陸重量が5万キログラムを超える航空機を使用して航空運送事業を経営する本邦航空運送事業者のこと。