国土交通白書 2025
第2節 サービスの供給制約に対する国民意識
インタビュー 建設業をとりまく課題と持続可能な建設業のあり方
担い手不足が深刻化する建設業界では、処遇改善や働き方改革の推進だけでなく、生産性向上の取組が鍵となる。建築生産、建築構法がご専門で、国土交通省の建設キャリアアップシステム処遇改善推進協議会座長や建築BIM推進会議の委員等を務め、建設業界の課題解決に取り組んでおられる蟹澤氏に、現状と持続可能な建設業のあり方について、お話を伺った。
1. 建設「2024年問題」の現在地
①大手をはじめとする労働環境への意識改革
2024年4月に時間外労働上限規制が施行されてから、現場の処遇改善に対する意識は徐々に高まっている。特に大企業では、発注者都合の設計変更による工期延長が必要な場合、元請けが発注元に請負代金の変更を交渉するといった動きが見られる。これは、専門工事会社や職人の労働環境改善に対する意識の表れといえる。また、4週8閉所の導入は、公共土木には定着したが、民間建築ではまだ途上だと感じる。未だ建設技能労働者は日給の考え方が根強く、稼働日数の減ることによる手取りの減額に対する懸念が強い。4週8閉所を定着させるために、生産性の2割向上、単価の2割引上げなど考える良い機会になる。
②大手と中小企業の意識面等の差
働き方改革や賃金上昇など業界全体で労働者の処遇改善に向けた動きが活発になる中、既に大企業と中小企業の間で対応に差が生じている。その最たる要因は、スケールメリットによるものではなく、危機意識の差によるものだと思う。現状の労働環境では担い手が確保できなくなることへの危機感や、労働者を守るためのコンプライアンスへの意識が、中小企業にはもっと必要である。
2. 建設業の維持に向けた取組
①建築業界内で「継続教育」ができる仕組みづくり
新たななり手が不足する中で、業界全体として人材を確保するためには、「継続教育」、つまり入職時のみならず継続的な教育・訓練を建設業界の中で行い、能力等があれば、業界の中を渡り歩ける、多様なキャリアアップの道筋をつくる必要がある。大手は他産業に劣らない待遇で、従来は採用していなかった工業高校の卒業生の採用を強化している一方で、専門工事会社や中小企業の採用は非常に厳しくなっている。また大手になるほど離職率が低いが、中小企業は離職率が高く、人材が定着しにくい。人材不足の解決の方向性として、技能と技術の能力評価の一本化や、企業横断的なキャリアアップを推進すること、そのために、今までは評価されてこなかった個人の経験や知識の可視化が必要である。行政の施策としては、建設キャリアアップシステム(CCUS)の仕組みを活用して、個々のレベルに対応した継続教育のシステムを構築するべきだと考える。
②多能工化は建築現場の生産性向上に必要不可欠
多能工の定着においては、多能工職人の継続的な雇用機会と、多能工化による生産性向上の価格転嫁が重要である。建築の現場は職種が細分化されており、ひとつの現場に携わる職人が多すぎるために1人あたりの稼働率が低く、現場全体の生産性を下げる要因になっている。人手不足が進む中で多能工化は必然ともいえるが、多能工の育成には、組織への所属、教育システムに加え、元請けによる継続的な多能工職人への発注が必要である。また、多能工を定着させるためには、生産性の向上を賃金に反映する仕組みが重要である。
③日本の建築業界の最大の魅力は受け皿の多さ
国際競争が激化する中で、外国人採用を強化するためには、外国人材の日本における実績の定量的な評価制度と日本の受け皿の多様性を生かしたキャリアパスの提示が重要である。日本の建築業界は、既に外国人材なしでは成立しない状況になっている。日本の専門工事会社や工務店にあたる組織は海外では珍しく、他国にない多様な受け皿が日本の魅力であるにもかかわらず、技術者としての来日希望者の受入れ先が少ない状況である。日本の国際競争力を強化するためには、外国人材の日本での現場経験や資格取得の実績を定量的に評価する仕組みを構築しなければならない。その上で外国人材に選ばれる国になるためには、特定技能から技術・人文・国際業務、高度専門職へと、評価に応じた在留資格の付与や、更には本国と日本を往来しながらの事業展開の支援など、外国人にとって魅力のあるキャリアパスの提示が必要である。
④生産性向上の鍵となるのは設計施工分離の原則の見直しとDfMAの導入
建設業の生産性向上には、設計施工分離の原則の見直しとDfMA注1(Design for Manufacture and Assembly)の導入が必要であり、BIM注2(BuildingInformation Modeling) はその実現において不可欠なツールである。2045年には建設業の従事者が2020年の約半分になると予想されており、現場の生産性を上げることは、必然のミッションである。日本の建設業界において、生産性向上のための最大の課題は、意思決定の迅速化である。特に建築では、制度レベルで設計・施工が分離されており、詳細な設計は現場で擦り合わせていく方式が一般的であるが、より早い段階で設計を完成させるべきである。そのためには、各工程の実務者を交えた、施工段階を想定した設計、すなわちDfMAが必要であり、BIMはDfMAの実現にとって欠かせないツールである。生産性向上という最終目的を意識して、制度の観点からも設計施工分離の原則を見直していかなければならない。
3. 持続可能な建設業界の実現に向けて
①規格化とクリエイティブの二分化
建設業では、今後多くの作業がAIに代替されていくと予想されるが、最終的な現場でのものづくりの代替は不可能である。アパートやビジネスホテルのような規格化された建造物と、一品生産性が高くクリエイティブな作業が求められる建造物の二分化が進むと考える。日本の建設業界に見られる職種間での分業制や上下関係などの固定概念を払拭し、業界内での統合を進めることは、建設業の魅力向上と発展に寄与する。
②継続的な職人の仕事の創出
職人の減少が進む中で、熟練の技術を継承するためには、行政による支援が不可欠である。例えば社寺仏閣といった伝統的な建造物を「博物館」にするのではなく、その現場で人材を育成するために、定期的に一定量の仕事を振り出す仕組みが必要である。伝統文化や技術の継承を目的とした学びの場ととらえて、工期や単価の設定に、行政がある程度以上関与すべきである。
③エンドユーザーの価格転嫁とコンプライアンスに対する意識向上
人手不足により建設業界に供給制約が生じる中で需要者側に求められるのは、工期の設定に対する正当な価格転嫁の受容と、建設事業者のコンプライアンス遵守に対する意識の向上である。日本は工期厳守の縛りが非常に強く、公共工事では年度単位での発注による制約がある。供給制約を加味すると、年間を通して偏りのない発注が理想であるが、繁忙期に発注する場合は、労働者の残業時間増加や人員増加など現場の負担が価格に割増されることを、需要者もある程度認識することが重要である。需要者は、事業者の信頼性・公平性に対する意識を高め、その担保としてのCCUSへの加入事業者には対価を払うべき価値があると認識するべきである。
④土木と建築の人材交流について
土木と建築は、基準だけでなく文化も異なっており、人材交流のような取組はほとんど見られない。しかし、土木と建築の間を行き来することで、互いに専門的・技術的な刺激を受け、多様なキャリアパスの形成につながる可能性もある。また、建設業の人手不足が懸念される中では、土木と建築の整合を図ることで手間が省ける部分もあるのではないかと考える。建設技能労働者は難しい部分もあるかもしれないが、技術者は積極的に交流をして、互いの良いところを知り、改善点を考えていくことは重要である。
- 注1 DfMA(Design for Manufacture and Assembly)とは、工事の大部分を工場で製作し、現場での作業を組立のみにする調達・設計のプロセスを指す。建築の工場生産化を目指す概念である。
- 注2 BIM(Building Information Modeling)とは、コンピュータ上に作成した主に3次元の形状情報に加え、材料・部材の仕様・性能等、建築物の属性情報を併せ持つ建物情報モデルを構築するもの。