国土交通省ロゴ

国土交通白書 2025

第2節 サービスの供給制約に対する国民意識

インタビュー 人口減少に応じた公共施設・インフラ再編と持続可能な公共サービスの実現に向けて

~東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻 准教授 瀬田 史彦氏~
東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻 准教授 瀬田 史彦氏

 都市計画、地域開発がご専門で、国土審議会推進部会等の委員であり、公共施設・インフラの再編等の研究で活躍されている瀬田氏に、人口減少局面におけるまちづくりが抱える課題、公共施設・インフラ再編のあり方、持続可能な公共サービスの実現に向けた展望などについて、お話を伺った。

1. 公共施設・インフラが抱える課題

①国民の意識が、人口減少のペースに追いついていない

 都市計画の専門の立場から、大きな課題と思うのは、都市計画等の制度や都市行政上の施策の多くが人口増加を前提としていることである。人口が減少に転じて久しい中、それに応じて制度等も見直されるべきところ、政策担当者、専門家、そして一般市民の意識が、その現実に追いついていないことが大きな問題となっている。人口減少の事実を受け止める覚悟がまだ十分でないため、制度等の見直しが進まず、現実に起きている問題に対応できない状況となっている。

 人口減少への対応においてまず最も重要なのは、当事者による問題の「自分ごと化」である。公共施設再編のワークショップで全国を回った経験から感じるのは、施設やサービスの削減に対して反対する意見が多く出る中、現実を「自分ごと化」できている地区は、市民が自ら積極的に課題に向き合っていたことである。少しずつでもいいので、政策担当者、専門家は現実を直視し、またより多くの市民が人口減少という現実を「自分ごと化」できるよう粘り強く働きかけなければならない。

②インフラ集約やコンパクトシティ化は、中長期的かつ段階的に進めるべき

 市街地やインフラと比べると、公共施設は人口減少に適応するための再編のハードルが概して低い。市街地の土地の多くは民間の個人・法人が所有している。インフラの多くは行政が持っているが、生活の根幹を支えるものが多く、簡単には再編できない。それに対して、公共施設は行政が所有しており制御がしやすく、かつ市民の協力を得てサービスの方法を変化させていく選択肢も多い。もちろん公共施設再編も大きな困難を伴うが、それでも2000年代後半からFM(ファシリティマネジメント)という形で取組が進んできている。

 市街地の集約については、密度が高い市街地の方がサービス供給が効率的なのは自明であるが、民有地が多いため、土地利用の誘導で短期的な成果を得るのは難しい。ただ、それでも行政として、中長期的に目指す理想のコンパクトシティ、集約した市街地の姿を計画で掲げ、意思表示し続けることは重要である。長期的に理想の姿を目指しつつ、そこまでの過渡期として、拡散した市街地を前提としたサービスの提供のあり方を考えるという、段階的なプランニングが求められている。

2. 人口減少局面において求められる公共施設・インフラ再編

①公の負担で維持すべき必要不可欠なサービスを厳選する議論が必要

 インフラや公共施設による公共サービスの提供における公共と民間の責任範囲は、時代の変化に従ってこれまでも変化してきた。今後も、この役割分担を固定的に考えず、状況に応じて変化させることが必要である。近年では、例えば、民営のプール施設が充実することによって、老朽化した市営プールが更新されず閉鎖される例も増えてきている。人口減少が加速する今、公共が負担して維持するべき必要不可欠なサービスを厳選する必要がある。

 公共施設・インフラの再編はもちろん簡単なことではないが、大きな出来事が全国に報道されることを契機に、市民の多くがその重要性に気付くこともある。例えば2012年12月に起きた笹子トンネル天井板崩落事故を機に、インフラの維持管理不足が明るみになり、インフラの取捨選択の必要性に対する理解が市民レベルでも高まり、人口減少対策としてのインフラ集約に関する議論もそれ以前に比べて大きく進んだ。

②官民連携においては、公による目配りと地域ごとの状況に合わせた検討が必要

 インフラ再編における官民連携の選択肢は、地域ごとの状況に応じて検討されるべきである。各自治体にインフラの維持管理や運営に精通する人材を置くべきであるが、こうした人材の確保が困難な場合、合併や広域連携による複数自治体での共同運営・共同管理を視野に入れた体制の検討が必要となる。そのような体制を整えたうえで、公が地域に目配りして地域全体としての望ましい姿を見据え、それを前提に民間の持つノウハウを上手く活用することが重要である。民間の担い手を得られるかは条件によって異なり、人口減少が進行する多くの地域では市場が成り立たず民間の活力に多くを期待できないだろう。

 特定の自治体における成功例がもてはやされることがあるが、条件の異なる地域への横展開には限界がある。地域の特性と現状を踏まえ、公民でどのような役割分担が可能かを、それぞれの地域で検討する必要がある。

③自治体同士の広域連携を促す取組の重要性

 自治体間の連携においては、広域連携をすれば全体としてより効率的にサービス供給が行えるという理論上のスケールメリットは認識されているものの、すべての地域がおしなべてメリットを得られない限り、広域連携に至らないことが多い。国が広域連携を促すための補助金は、そのメリットを補って一定の成果を出しているものの、まだ十分とは言えない。

 また、広域連携の障害には、メリットが得られそうでも不確実である限り、自治体が二の足を踏んでしまうという問題もある。こうした自治体の背中を押す広域連携の好事例として、「奈良モデル」が挙げられる。奈良県では、財政と人員のキャパシティがあり制度にも精通している県と、現場の課題を最もよく理解している市町村の実務者が集うフォーラムを毎年開催し、枠組みごとに広域連携の推進体制を議論することで、自治体間の橋渡しをし、地域の状況に応じた様々な形の広域連携を進めている。

 一方で、市町村合併は、複数自治体間におけるメリットの食い違いや意思疎通・意思決定の問題を解消する効果は大きいものの、すべての施策を合併によって統合することの副作用も大きい。

 地方部におけるインフラと公共施設の充実が、地方創生に資するとは限らない。特に公共施設サービスについては、地方部が都心部より劣っているとは必ずしも言えない。1970年代の三全総(第三次全国総合開発計画)では、東京への人口流出の要因は地方部での公共施設の不足であるという論理のもと、地方部で文化ホールやスポーツセンターなどの公共施設の設置が進んだが、人口流出の抑制効果は概して見られなかった。現在において、なお東京圏への転入超過が続く現状を鑑みると、その主要な要因は、公共施設やインフラによるサービスとは異なる部分にあると考えられる。

④デジタル化や新技術の導入の可能性と限界を認識する必要

 デジタル化は、データの取得と分析を通じて既存の供給方法を飛躍的に効率化する効果が得られる。それと同時に、高齢者を含めてスマートフォン等やオンラインサービスの利用増加をはじめとする市民のデジタルリテラシーの向上により、公共サービスの供給自体を一部デジタル化することでコストを大幅に下げることが可能となる。しかし、福祉、移動、供給処理等、公共サービスの多くは、現状では専らフィジカルで提供されており、そのサービス自体がデジタルで代替可能な領域は限定的となっている。

 インフラの維持管理においても、最先端技術の導入が進められている。しかし数十年以上前に建設され、現在は老朽化したインフラ・公共施設の情報は限られているのが現状であり、デジタル技術だけで、インフラの更新や老朽化対策がすぐに大きく改善されるとは言い難い。先進技術にも限界があることを念頭に置き、地道な対策を続けていくことが求められる。

3. 持続可能な公共サービスの実現に向けて

①人口減少局面での広域連携の推進には、国による自治体間の橋渡しが求められる

 人口減少局面では、中長期的かつ全体的な視点から連携の圏域を拡大すべき課題が増えるはずである。しかし上述のように、それぞれの自治体がメリットを確信しなければ広域連携は進まない。国は財政的支援も含めて、広域連携のための施策を進め、人口減少局面でも公共サービスとそれを支えるインフラ、公共施設が維持できるよう、新たな制度設計を進めるべきである。同時に、広域連携がもたらす効果を最大化するための体制を、課題ごとに検討し、連携におけるハードルを下げる必要がある。例えば、国土形成計画で提唱されている「地域生活圏」の形成等を通じ、地域の生活の維持に不可欠なサービスを、国の支援を得ながら自治体が連携して供給すると同時に、サービスの広域化によって市場性が見込めるものについては民間の参入を積極的に促す仕組みは重要であり、推進していくべきである。

②人口減少は疑いようのない事実であるとの共通認識を持つべき

 人口減少が疑いようのない事実であるにもかかわらず、直視されて来なかった影響は、具体的な制度にも表れている。例えば、地域づくりの補助金や低利融資の評価においても、人口増加を前提とする判断基準が残っている。人口減少を共通認識として念頭に置き、判断基準も変えるべきものは変えていくべきである。

 一方で、インフラの維持管理の方法として、例えば、壊れたインフラを市民が点検・報告するといったことが一定の効果を果たしつつあるように、サービスの利用者側は、「自分たちでできることは自分たちでやっていく」という基本姿勢への回帰が問われている。