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国土交通白書 2025

第1節 国土交通分野における施策の新展開の萌芽

インタビュー 建設現場における省人化・省力化技術の普及に向けて

~建ロボテック(株) 代表取締役社長兼CEO 眞部 達也氏~
建ロボテック(株) 代表取締役社長兼CEO 眞部 達也氏

 建設技能労働者の高齢化や若年者の入職減少が進む中、建設現場においては、人による作業を代替するロボットの活用が進められている。建ロボテック(株)の代表で、建設現場における省人化・省力化技術の開発、現場への導入に取り組んでおられる眞部氏に、建設現場が抱える課題と生産性向上の取組についてお話を伺った。

1. 建設現場が抱える課題

①深刻な高齢化と若手の離職

 建設現場では、職人の高齢化と入職者の不足がかなり進んでいる。職人が高齢になり過ぎて、体への負担の大きさから職人自ら建材を運搬できず、従来は高所への荷物運搬を担っていた「荷揚げ屋」が職人に代わって建材の水平移動も担うほどに深刻な状況である。また、労働環境の過酷さが、若手の不足に拍車をかけている。夏は体温を超えるほどの猛暑、冬は手が凍り付くような寒さの中での作業となるために、若手の入職者数が少ない上に、入職後短期間で現場の環境に耐えられず離職する人も多い。

②中小企業こそ、生産性向上が不可欠

 中小企業では、大企業と比較して未だ働き方改革が浸透しておらず、土曜日も稼働しようとするケースも多いのではないか。背景には、低い粗利率ながら受注量の多さで利益を得る大企業と、単価は高いが受注量が少ない中小企業の財務体質の違いがある。中小企業では、価格転嫁の停滞も相まって、受注量が経営状況に直接的に影響するため、「2024年問題」に対応し切れないところもあるのではないか。

 また、地方の中小企業には、そもそも生産性向上というアイデアが乏しい。これは経済的なリソースではなく、危機感の欠如が根本にあると考える。中小企業は、休日も下請けに稼働させることで現場を間に合わせている現状であり、生産性向上に対する意識が低い。しかし、不動産事業や海外事業などで利益を下支えしている大企業ならともかく、下支えとなる収入がない中小企業では、人手不足が加速する中で現状の生産性に留まっていればいずれ経済的な体力が尽きてしまうと思われる。

2. 担い手不足対策を現場に近いロボットで

①反復作業を得意とするロボットはインパクトが大きい

 ロボットの開発に至る経緯は、生産性向上のための技術開発への参入、その手段としてのロボットの選択という大きく2つあるが、前提として、自分自身の職人としての現場経験や、職人を束ねる建設会社の経営者としての経験から、若手がもっと楽しく働ける環境をつくりたいと望んできたといった背景がある。社会情勢の変化に伴い建設業界の景気が悪化し、厳しい経済状況の中で、生産性を上げるために職人の背中を叩いて「頑張れ」と声をかけるだけの、職人頼みの状況に危機感を感じ、省人化・省力化技術の開発に踏み切った。具体的には、現在の会社の前身となる会社を設立し、鉄筋工事を省力化する副資材の開発・販売事業を展開したが、結果的に生産性の飛躍的な向上に結びつかなかった。そこで、代替労働力の必要性を実感し、ロボットによる課題解決への挑戦を決意した。解決策の検討においては、生産性向上効果ではなく、反復作業を得意とするロボットの特性が活かされ、開発実現の確実性の高さを重視した。その上で、「人ではなくてもできる単調な作業を人から引き剥がす」ことをコンセプトに開発したのが、トモロボ注1である。

 ロボットの開発においては、現場作業を定量的に分析し、必要な人工と作業の難度を加味した上で、自動化によるインパクトが最も大きい作業を特定できる人材が必要である。トモロボの開発の際には、実際に使用時と不使用時での作業時間を計測し、導入による生産性への貢献度を定量化した。開発を委託するエンジニアとの合意形成においても、定量化された数字に基づく要件定義は欠かせない。現場の目線から、現場に即した重量は何キロまでか、また、価格との見合いで現場に無用な機能は不要といった開発アプローチである。

 建設現場は一つとして同じ条件下の環境はない。様々な想定外の環境への対応力を高めるために、継続的にシステムをアップデートし、性能を向上させている。お客様に常に最新型のロボットを提供するためにも、販売よりレンタルの方が適している。また、同じ作業の反復という性質上、一般的にロボットは工事期間に対して稼働率が低く、販売の場合、投資回収にかかる負担が大きいことからも、短期使用に即したレンタルでの提供を提案している。また、職人の1日あたりの人件費を2万円として、それを超えないようにレンタルフィーを設定している。

②必ずしもロボットが最適解ではない

 小規模な現場での生産性向上においては、必ずしもロボットが最適解ではない。比較的小規模な現場の生産性向上も視野に入れ、ロボットというよりは、電動工具に近い商品も提案し始めている。あくまで省力化が目的であることを念頭に置くと、小規模な現場では、必ずしも自動化を必要としない。

3. 持続可能な建設業界の実現に向けて

①現場へのロボット普及に向けて必要なこと

 少子高齢化・人口減少が深刻化する中、持続可能な建設業にしていくために、建設業界に対しては、技術の開発だけでなく、現場でまず技術を利用させる、ロボットの導入に重きを置き、継続的な事業投資を期待している。大手企業において、技術導入に向けたナレッジの蓄積を可能にしているのは、本部が費用負担する仕組みであると思う。一方で、ほとんどの中小企業では、技術の導入にかかる予算は現場負担であるため、既にリソースが逼迫している現場にとって、技術の導入は、遅延のリスクやコストの増加などデメリットの方が大きい。せめて金銭的なリスクを排除しなければ、現場への技術導入は普及しないと考える。

 また、行政に対しては、直轄工事であれば、技術提案等による技術導入の促進に加え、技術による省力化を加味した新たな労働力管理の体制構築を期待する。同じ現場でも、経営側と実際の最前線の現場とでは、生産性向上に対する認識が異なっている。経営側は中長期的な生産性向上の必要性を認識している一方で、現場では短期的な生産性向上が重視される。労働集約型のビジネスモデルの中、最前線の現場を担っている者にとって、技術による代替は、自らの仕事の略奪、ひいては収入の減額といった脅威でさえある。

 下請けにおいてロボットを導入した場合とそうでない場合の生産性を、元請けが公平に評価するためには、建設キャリアアップシステム(CCUS)にロボットの投入量を記録し、1人当たりの生産量の管理において、人件費に加えて生産性を向上させたコストを加味したコスト管理を行うことが必要であると考える。

②ロボットフレンドリーな現場環境の整備のために、設計思想の改善が必要である

 建設の現場においては、どんなに技術が向上しても、こだわった設計をする限り、人の叡智は欠かせない。また、人手不足が進む中で、最低限の労働力で建設業を持続的に成長させるためには、少なくとも30%の生産性向上が必要であると考える。そのためには、ロボットをはじめとした代替労働力の導入は欠かせない。しかし、現状の日本の建設現場は、設計思想の段階からロボットフレンドリーではなく、ロボットの普及の障壁となっている。例えば、トモロボは5㎝の段差を超えられないといった制約があるなど、ロボットの動作の確保には様々な環境整備が必要であるが、日本の建設現場は対応が追い付いていない。日本においても、大手企業も含め、トレードオフによるコストアップの許容と、設計思想段階からの根本的な課題解決が必要である。

 現場全体の生産性向上に必要なのは、高度な機能が備わった高価な「スーパーロボット」ではなく、一部の作業を省力化する安価なソリューションを、複数の作業に適用することである。単一の工程を省力化しても、工事全体に与えるインパクトはごく限定的であるにもかかわらず、ロボットの導入が目的化し、結果微々たる省人化に莫大な投資をしている例が散見される。省力化技術の導入においては、導入しやすい価格かつ、現場に定着しやすいシンプルなオペレーション、そして人件費以上の生産性向上を証明する経済合理性を達成することが必要であり、これらがロボットの一般化に向けても必要である。

  1. 注1 建設工事における鉄筋結束等の単純作業を自動化するロボット。