国土交通白書 2025
第2節 望ましい将来への展望
インタビュー どうすれば持続可能な地域公共交通を実現できるか
相次ぐバス・鉄道等の減便・撤退などで、地域交通の持続可能性への懸念が高まっている中、全国の現場に足を運び、危機に直面する公共交通網の再生や活性化に向け、自治体や住民に寄り添い、活躍を続けておられる加藤氏に、バスやタクシーなど地域公共交通が抱える課題、維持に向けた有効な取組などについて、お話を伺った。
1. 地域公共交通が抱える課題
①公共交通の各分野で担い手不足が深刻
地域公共交通は、近年の担い手不足の深刻化により、厳しい状況にある。乗合バス運転手は不規則で長い労働時間に加え、給料も全産業平均を2割ほど下回る水準まで待遇が悪化する等、過酷な労働環境に置かれ、若手が入社しても仕事がきつくて辞めるといったように、離職率も高い。
タクシー運転手も、地方では最低賃金ギリギリの状況が見られる。鉄道業界も、運転手だけでなく保線作業員や駅員などの不足が深刻で、その背景は、やりがいを感じて仕事に携わる人の善意に甘え、「やりがい搾取」のような状況が続いた結果、立ち行かなくなったと考えている。今は地方だけでなく都市部でも深刻である。
②運賃・補助金の引上げや業務効率化・収益性向上を伴う処遇改善を
バスの減便・廃止に陥る事態を避けるには、運転手を確保するために処遇改善に取り組むべきである。「2024年問題」の本質には、そもそも残業上限規制が施行された途端、減便・路線廃止等が免れないほどに、上限ぎりぎりの長時間労働が常態化していたという状況がある。処遇改善には、労働時間の短縮とともに、単位当たりの賃金引上げのため業務効率化や収益性を上げる取組を進めることが必要である。長年抑制されてきた乗車運賃の引上げや補助金の増額もやむを得ない。
2. 地域公共交通の維持に向けた取組
①「熟議」があってこその「地域公共交通のリ・デザイン」
「公共交通は、地域を支える不可欠な社会基盤」との意識をどう根付かせるかが重要となる。私が2005年に「地域公共交通会議」の仕組みを提案し、翌年に法制化されて以来、全国で協議会が立ち上がり開催されるようになった。しかし、これがセレモニー化し、より良い地域公共交通のあり方を検討する上で本来必須である「熟議」が抜け落ちてしまっている協議会が少なくない。公共交通を取り巻く環境を改善できる関係者が参画する協議の場において、公共交通の利用者との間で、合意形成に向けて「熟議」を重ねてこそ、地域の関係者同士の連携・共創による地域公共交通の「リ・デザイン」が達成される。
②『検討する』よりも、取組内容や具体的なスケジュールが肝要
地域公共交通計画の中には、目的達成のためにやるべき施策が具体的に書かれておらず、スケジュールも不明確なため、実行性に乏しいものが散見される。計画には、具体的に取り組む内容を書くのであって、これから検討するというなら検討が終わるまで計画をつくるべきではない。取り組む内容が決まったら、具体的なスケジュールとして実行から再検討までのPDCA各段階を落とし込む。場合によっては機動的に計画を改定することも必要である。要するに、「『検討する』の文言」や「単なるPDCAサイクルの図」がない計画こそが実行性の高い計画である。
③デジタル活用は「マーケティングの高度化」・「業務の省力化」・「利用者の利便性向上」に寄与
地域公共交通におけるデジタル技術の活用には3つの方向性がある。デジタル技術でマーケティングの高度化が実現できるが、現場では既存の技術で収集できているデータをほぼ捨ててしまっているのが現状である。例えば、ドライブレコーダーの映像を活用すれば、従来運転手が行っていた利用者数の計測が自動化できるが、ごく一部でしか導入されていない。
業務の省力化につながるデジタル技術の活用も重要である。自動点呼や遠隔点呼の導入による運行管理の省力化は、1人当たりの業務負荷の軽減だけでなく、管理の精度向上も見込める。運転手ごとの経時変化を客観的に評価し、状態を正確に分析して人員配置に反映することで、サービスの信頼性向上にもつなげられる。
利用者の利便性向上の面では、既存のQRコード決済を活用した決済の利便性向上や、スマホの既存アプリを活用した各種モビリティサービスの予約システムの構築等の取組がある。サービスの普及には、「日常生活の延長」として位置付けることがポイントである。特化したアプリの導入ではなく、幅広い年齢層になじみのあるプラットフォームを活用し、日常的な買い物と公共交通機関でシームレスに利用できる決済ツールを提供することで、公共交通の利用者数の増加にも寄与し得る。
④シームレスな接続、「居場所」となる交通結節点の整備に期待
交通結節点は、シンプルに、かつシームレスに様々な交通手段が連続して利用できるようになっていることが重要である。例えば、鉄道を廃止してバスに代替する場合、乗換えがホーム上ででき切符もそのまま使えるようでなければいけない。逆に、それさえできれば、バスに代替してもサービス水準低下は抑制され、逆に鉄道では経由できなかった学校や病院などを通れるようになり、むしろサービスの向上が実現できる可能性さえある。
多様な選択肢があることも重要である。結節点は、各種移動手段を利用してあそこに行ける、ここに行けるという期待感を持たせるようなゲートウェイとなるべきであり、使える移動手段も、バス・タクシーだけでなく、自転車や電動キックボード、さらにはベビーカーやショッピングカート等もシェアしながら、バリアがなく皆が移動しやすい交通結節点が整備できると良い。
今の20代以下は、家で過ごすより、街なかで過ごしている方が落ち着くという人も多い。一人でクルマを運転するよりも、人とつながれる場となり得る公共交通の役割が高まる、そういう時代が到来すると感じる。交通結節点には、例えば、会話を楽しんだり、仕事や勉強をしたり、居眠りしたりと皆が好きなことができるように、机やイスを多くしつらえる等して「居場所」を作る、地域の誇れる場所へと付加価値を付けることも重要である。
MaaSは、地域と公共交通の共創が大前提であり、デジタル技術の導入はその実現のための手段である。一部の観光地域では、かなり以前から紙の切符のフリーパスで地域までの往復交通機関と地域の観光施設の入場チケットをセットにした商品を提供しており、公共交通も観光施設も客単価が下がるものの公共交通利用者や施設来訪者が増えプラスになるという、まさに共創の考えに基づいたサービスが提供されている。このような取組をMaaSとしてデジタル技術を活用すると、マーケティングの高度化に有効なデータ取得に活用できるようになるので、是非そのような形で進めてほしいと思っている。
3. 持続可能な地域公共交通の実現に向けて
自動運転はまだ、人間による補助を必要とする「仮免許」状態といえるが、いずれ公共交通においても欠かせない技術になる。自動運転技術の向上を上回る勢いで運転手不足が加速する中、実証実験を積極的に実施し、人手を必要としない自動運転が一刻も早く実現できるようにすることを目指すべきである。
少子高齢化が深刻化する中、交通サービスの供給者側の制約について、需要者側がよく理解し、限られた人数でどれだけ多くの人がサービスを受けられるかを考えることが必要である。従来のように、特定の公共交通に個々人の十分な満足を求めることは最早できない。むしろ、乗合バスやデマンドサービスなど、多様な手段を乗り継ぐなどして活用する方が、需要者側にとってもメリットがあることを広く理解していただくことが必要である。
また、供給者側も、地域での話し合いやデータの活用により、利便性と効率性の高い公共交通サービスをプロデュースしていくために、関係する交通事業者と意識を共有できるよう努めるべきである。自治体と事業者が熟議し、地域の課題と事業者のケイパビリティについて情報を共有することを通じて、限られたリソースで輸送能力を最大化する仕組みの構築につながると考える。