国土交通白書 2025
第4節 交通分野における安全対策の強化
(1)船舶の安全性の向上及び船舶航行の安全確保
①知床遊覧船事故を受けた安全・安心対策
令和4年4月に発生した知床遊覧船事故を受け、国土交通省では、このような痛ましい事故が二度と起きることがないよう、旅客船の安全・安心対策として、抜き打ち監査の実施や通報窓口の設置等の対策を行うとともに、改正海上運送法に基づき、6年4月に船員の資質の向上に係る制度を導入したほか、7年4月より改良型救命いかだ等の旅客船への搭載を義務化するなど、各対策を着実に進めている。利用者の皆様に安心してご乗船いただけるよう、各対策の進捗に応じフォローアップも行っていくことにより、引き続き、旅客船の安全・安心対策に万全を期していく。
②船舶の安全性の向上
船舶の安全に関しては、国際海事機関(IMO)を中心に国際的な基準が定められており、我が国はIMOにおける議論に積極的に参画している。また、我が国で航行する船舶の安全を確保するため、日本籍船に対する船舶検査を実施し、国際基準等への適合性を確認している。ヒューマンエラーの防止による海上安全の向上や船員の労働環境改善が期待される自動運航船については、令和12年頃までの本格的な商用運航の実現を目指し、6年6月に設置された「自動運航船検討会」を通じて国内制度の検討・整備を進めるとともに、IMOにおける国際ルール策定作業を主導している。
③船舶航行の安全確保
船員の訓練及び資格証明並びに当直の基準に関する国際条約(STCW条約)に準拠した「船員法」及び「船舶職員及び小型船舶操縦者法」に基づき、船員に必要な資格・教育訓練等を定めるとともに、小型船舶操縦者の資格及び遵守事項について定め、人的な面から船舶航行の安全を確保するとともに、運航労務監理官による監査を通じて、関係法令の遵守状況等の確認を行い、関係法令に違反していることが判明した事業者等に対して、行政処分等を行うことにより再発防止を図っている。また、小型船舶の安全確保のため、小型船舶操縦者が遵守すべき事項として、酒酔い等操縦の禁止、危険操縦の禁止、ライフジャケットの着用等を義務づけており、これらについて、小型船舶乗船者を中心に規制内容の説明やリーフレットの配布を行う等、関係省庁、団体と連携して周知・啓発を図るとともに、違反者への再教育講習を行っている。
また、「水先法」に基づき、水先人免許の資格を定め、水先業務の適正かつ円滑な遂行を確保することにより、船舶交通の安全を図るとともに、水先人の安定的な確保・育成に向けた施策を推進している。
海難審判所では、職務上の故意又は過失によって海難を発生させた海技士、小型船舶操縦士及び水先人等に対して「海難審判法」に基づく調査、審判を実施しており、令和6年には230件の裁決を行い、海技士、小型船舶操縦士及び水先人等計308名に対する業務停止(1から2か月)及び戒告の懲戒を行うなど、海難の発生防止に努めている。
海上保安庁では、5年間ごとに取り組むべき海上安全行政の方向性と具体的施策を「交通ビジョン」として位置付けており、令和5年3月に策定された「第5次交通ビジョン」に基づき各種施策を推進している。
令和6年における船舶事故の特徴として、船舶種類別では、プレジャーボート、漁船、貨物船の順で船舶事故隻数が多く、プレジャーボートの船舶事故隻数は約5割を占めている。また、プレジャーボートの船舶事故について事故種類別でみると、運航不能(機関故障)が最も多く発生しており、プレジャーボートの船舶事故全体の約2割を占めている。
このため、海上保安庁では、プレジャーボートの機関故障対策として、海事局等の関係機関と連携し海難防止講習会や訪船指導等のあらゆる機会を通じて、発航前検査のみでなく、整備事業者等による定期的な点検整備の実施及びユーザーによる整備記録の管理を呼び掛けている。
また近年、カヌー、SUP(スタンドアップパドルボード)、ミニボート等のマリンレジャーが盛んになっている状況を踏まえ、関係機関、民間団体、販売店等の事業者及び海難防止活動に協力的なマリンレジャー愛好家と連携し、広く安全啓発活動を実施している。
このほか、海上保安庁が運用している総合安全情報サイト「ウォーターセーフティガイド」において、マリンレジャーの事故防止のための情報を掲載し、周知することで愛好者の安全意識の向上を図っている。
加えて「海の安全情報」では、避難勧告等の緊急情報、全国各地の灯台等で観測した気象現況等の海難防止に資する情報を海事関係者からマリンレジャー愛好者まで幅広く提供している。
平成30年9月の台風21号の影響により発生した関西国際空港連絡橋への船舶衝突事故を受け、走錨事故対策のために、レ令和5年度までに大阪湾北部海域の監視及び情報提供体制の強化を完了したほか、3年7月に施行された「海上交通安全法等の一部を改正する法律」に基づき6年の台風接近時においても、大型船等の一定の船舶に対する、湾外等の安全な海域への避難等の勧告制度やバーチャルAIS(Automatic Identification System:船舶自動識別装置)航路標識の緊急表示制度を運用するなどして、船舶交通の安全確保に努めた。
また、来島海峡航路西側海域において、令和3年及び5年に死者・行方不明者を伴う船舶同士の衝突事故が相次いで発生したことから、同種事故の再発防止の徹底を図るため、6年7月から来島海峡航路西口の入出航に係る経路を指定するとともに安芸灘南航路第四号灯浮標を廃止した。引き続き、同海域における安全対策を推進していく。
海図については、電子海図情報表示装置(ECDIS)の普及に伴い、重要性の増した電子海図の更なる充実を図っている。このほか、航路、港湾施設、潮汐等に関する情報を水路書誌として刊行するとともに、水路通報、航行警報等により最新の情報提供を行っている。
航路標識については、海水の浸入を防止する対策及び電源喪失時における予備電源設備の整備等、船舶交通の環境及びニーズに応じた効果的かつ効率的な整備を行っており、令和6年度に292か所の改良・改修を実施した。
我が国にとって輸入原油の9割以上が通航する極めて重要な海上輸送路であるマラッカ・シンガポール海峡については、船舶の航行安全確保が重要であり、沿岸国及び利用国による「協力メカニズム」注13の下、我が国として航行援助施設基金注14への資金拠出等の協力を行っている。今後も官民連携して同海峡の航行安全・環境保全対策に積極的に協力していく。
(2)乗船者の安全対策の推進
乗船者の事故における死者・行方不明者のうち約4割は海中転落によるものである。転落後に生還するためには、まず海に浮いていること、その上で速やかに救助要請を行うことが必要である。小型船舶(漁船・プレジャーボート等)からの海中転落による乗船者の死亡率は、ライフジャケット非着用者が着用者の約4倍と高く、ライフジャケットの着用が海中転落事故からの生還に大きく寄与していることが分かる。また、通報時に携帯電話のGPS機能を「ON」にしていることで、緊急通報位置情報通知システムにより遭難位置を早期に把握することができ、救助に要する時間の短縮につながる。
このため、海上保安庁では、海での痛ましい事故を起こさないために①ライフジャケットの常時着用、②防水パック入り携帯電話等の連絡手段の確保、③118番・NET118の活用という「自己救命策3つの基本」のほか「家族や友人・関係者への目的地等の連絡」について講習会やメディア等を活用して周知・啓発を行っている。
(3)救助・救急体制の強化
海上保安庁では、迅速かつ的確な救助・救急活動を行うため、緊急通報用電話番号「118番」の運用を行っているほか、「海上における遭難及び安全に関する世界的な制度(GMDSS)」により、24時間体制で海難情報の受付を行うなど、事故発生情報の早期把握に努めている。また、海上において発生した海難や人身事故に適切に対応するため、特殊救難隊、機動救難士、潜水士等の救助技術・能力の向上を図るとともに、救急救命士及び救急員が実施する救急救命処置等の質を医学的・管理的観点から保障するメディカルコントロール体制の構築、巡視船艇・航空機の高機能化、関係機関及び民間救助組織との連携を推進するなど、救助・救急体制の充実・強化を図っている。
- 注13 国連海洋法条約第43条に基づき沿岸国と海峡利用国の協力を世界で初めて具体化したもので、協力フォーラム、プロジェクト調整委員会及び航行援助施設基金委員会の3要素で構成されている。
- 注14 マラッカ・シンガポール海峡に設置されている灯台等の航行援助施設の代替又は修繕等に要する経費を賄うために創設された基金。