国土交通白書 2025
第4節 交通分野における安全対策の強化
令和6年の交通事故死者数は、2,663人で前年比15人、0.6%の減少となった。しかし、交通事故死者の約半数が歩行中・自転車乗用中で、その約半数が自宅から500m以内の身近な場所で発生するなど依然として厳しい状況である。このため、更なる交通事故の削減を目指し、警察庁等と連携して各種対策を実施している。
(1)道路の交通安全対策
①ビッグデータ等を活用した幹線道路・生活道路の交通安全対策の推進
道路の機能分化を推進することで自動車交通を安全性の高い高速道路等へ転換させるとともに、幹線道路については、安全性を一層高めるために都道府県公安委員会と連携した「事故危険箇所」の対策や「事故ゼロプラン(事故危険区間重点解消作戦)」により、効果的・効率的に事故対策を推進している。
一方、生活道路については、車両の速度抑制や通過交通進入抑制による安全な歩行空間の確保等を目的として、警察庁と国土交通省は、「ゾーン30プラス」として設定し、人優先の安全・安心な通行空間の整備を推進している。
具体的には、警察と道路管理者は検討段階から緊密に連携して、最高速度30キロメートル毎時の区域規制と物理的デバイスとの適切な組合せにより交通安全の向上を図ろうとする区域を「ゾーン30プラス」として設定し、ハンプや狭さくの設置等による車両の速度抑制対策や通過交通の進入抑制対策、外周幹線道路の交通を円滑化するための交差点改良等を推進している。これらの交通安全対策の立案等にあたっては、急減速や速度超過等の潜在的な危険箇所を見える化するため、ビッグデータ等の活用を推進している。また、自転車対歩行者の事故件数が近年増加傾向であり、車道通行を基本とする自転車と歩行者が分離された形態での整備を推進している。
②通学路等の交通安全対策の推進
通学路については、平成24年に発生した集団登校中の児童等の死傷事故を受け、通学路緊急合同点検を実施し、学校、教育委員会、道路管理者、警察等の関係機関が連携して、交通安全対策を実施した。その後、継続的な通学路の安全確保のため、市町村ごとの「通学路交通安全プログラム」の策定等により、定期的な合同点検の実施や対策の改善・充実等の取組を推進しており、「通学路交通安全プログラム」に位置付けられた交通安全対策事業への支援を重点的に実施している。
また、令和元年に発生した園児等の死傷事故を受け決定された「未就学児等及び高齢運転者の交通安全緊急対策」(元年6月18日関係閣僚会議決定)に基づき行われた緊急安全点検の結果を踏まえた交通安全対策事業への支援も重点的に実施している。
さらに、令和3年6月に発生した下校中の小学生の死傷事故を受け決定された「通学路等における交通安全の確保及び飲酒運転の根絶に係る緊急対策」(3年8月4日関係閣僚会議決定)に基づき通学路合同点検を実施し、この結果を踏まえ、学校、教育委員会、警察、道路管理者等の関係者が連携し、ハード・ソフトの両面から必要な対策を推進している。また、こどもの安全性を更に高めるべく、小学校周辺のゾーン30内にある通学路に着目し、事故の状況、交通規制、自動車走行速度等のデータ分析・評価を基に、ゾーン30プラスの導入等の面的な対策を、警察や学校、地域等とも連携して実施する。
③高速道路の安全性、信頼性や使いやすさを向上する取組
令和元年9月に策定した「高速道路における安全・安心基本計画」等を踏まえ、利用者視点の下、新技術等を活用しつつ、高速道路の安全性、信頼性や使いやすさを向上する取組を計画的に推進していく。
具体的には、暫定2車線区間における走行性や安全性の課題を効率的に解消するため、時間信頼性の確保や事故防止、ネットワークの代替性確保の観点から選定した優先整備区間の中から財源確保状況も踏まえ、計画的に4車線化等を実施していく。また、正面衝突事故防止対策として、土工部及び中小橋においては令和4年度にワイヤロープ設置が概成しており、長大橋及びトンネル区間においては、車両の逸脱防止性能等を満たす区画柵を全国51か所(約14km)の実道で令和3年度より試行設置し、効果検証を推進していく。
また、世界一安全な高速道路の実現を目指し、事故多発地点での集中的な対策に取り組むだけでなく、高速道路での逆走事故対策として、逆走事案発生箇所の約4割を占める分合流部・出入口部等へのカラー舗装や路面標示等の対策を推進、また、道路管理設備(CCTV等)の充実やDX関連技術の進展等の変化を踏まえ、道路管理設備を活用した逆走検知や車両側で逆走検知、通知できる新規技術の実用化を推進する。
(2)安全で安心な道路サービスを提供する計画的な道路施設の管理
全国には道路橋が約73万橋、道路トンネルが約1万本存在し、高度経済成長期に集中的に整備した橋梁やトンネルは、今後急速に高齢化を迎える。こうした状況を踏まえ、平成26年より、全国の橋やトンネル等について、国が定める統一的な基準により、5年に1度の頻度で点検を行っている。30年度までに実施した橋梁、トンネル等の一巡目点検の結果、橋梁では次回点検までに措置を講ずべきものが全国に約7万橋存在する。このうち、地方公共団体管理の橋梁では修繕が完了したものが約66%(令和5年度末時点)に留まることを踏まえ、「道路メンテナンス事業補助制度」により計画的かつ集中的に支援している。
今後、地方公共団体が計画的に措置できるよう、具体的な対策内容を盛り込んだ長寿命化修繕計画の策定・公表を促すとともに、直轄診断・修繕代行による支援、地域単位での一括発注の実施、修繕に係る研修の充実等、技術的にも支援していく。さらに、高速道路の老朽化に対応するため、大規模更新・修繕事業を計画的に進めているほか、跨線橋の計画的な維持及び修繕が図られるよう、あらかじめ鉄道事業者等との協議により、跨線橋の維持又は修繕の方法を定め、第三者被害の予防及び鉄道の安全性確保等に取り組んでいる。
(3)バスの重大事故を受けた安全対策の実施
平成28年の軽井沢スキーバス事故等を踏まえ、二度とこのような悲惨な事故を起こさないよう、安全対策を取りまとめ、着実に実施してきた。令和4年10月には静岡県の県道において観光バスが横転し、乗客が亡くなる痛ましい事故が発生したところ、貸切バスの安全性向上に関する関係法令等の改正を行い、令和6年4月より貸切バスの安全対策の強化を開始した。引き続き、事業者に対する指導や監査により法令遵守を改めて徹底し、必要な安全対策を講じていく。
(4)事業用自動車の安全プラン等に基づく安全対策の推進
「事業用自動車総合安全プラン2025」を令和3年3月に策定し、7年までに事業用自動車の事故による24時間死者数を225人以下、重傷者数を2,120人以下、人身事故件数を16,500件以下、飲酒運転を0件とする事故削減目標を掲げ、その達成に向けた各種取組を進めている。
①業態ごとの事故発生傾向、主要な要因等を踏まえた事故防止対策
輸送の安全の確保を図るため、トラック・バス・タクシーの業態ごとの特徴的な事故傾向を踏まえた事故防止の取組について評価し、更なる事故削減に向け、必要に応じて見直しを行う等、フォローアップを実施している。
②運輸安全マネジメントを通じた安全体質の確立
平成18年10月より導入した「運輸安全マネジメント制度」により、事業者が社内一丸となった安全管理体制を構築・改善し、国がその実施状況を確認する運輸安全マネジメント評価を、令和6年度は自動車運送事業者95者に対して実施した。特に、平成29年7月の運輸審議会の答申を踏まえ、令和3年度までにすべての事業者の運輸安全マネジメント評価を行うとした貸切バス事業者については、すべての評価を終了した。その後、新規許可を受けた貸切バス事業者や一定規模以上の貸切バス事業者について優先的に評価を実施している。
(5)自動車の総合的な安全対策
①今後の車両安全対策の検討
第11次交通安全基本計画(計画年度:令和3~7年度)を踏まえ、交通政策審議会陸上交通分科会自動車部会において、今後の車両の安全対策のあり方、車両の安全対策による事故削減目標等について審議され、令和3年6月に報告書が取りまとめられた。報告書では「歩行者・自転車等利用者の安全確保」、「自動車乗員の安全確保」、「社会的背景を踏まえて重視すべき重大事故の防止」及び「自動運転関連技術の活用・適正利用促進」を今後の車両安全対策の柱とするとともに、12年までに、車両安全対策により、年間の30日以内交通事故死者数を1,200人削減、重傷者数を11,000人削減するとの目標が掲げられた。また、高齢運転者の事故防止対策として、ペダルの踏み間違い等、運転操作ミス等に起因する高齢運転者による事故が発生していることや、高齢化の進展により運転者の高齢化が今後も加速していくことを踏まえ、「安全運転サポート車(サポカー)」の普及促進に取り組む等により、先進的な安全技術を搭載した自動車の性能向上と普及促進に取り組んだ。さらに、ペダル踏み間違い時加速抑制装置について性能評価・公表を行っており国際基準について日本が議論を主導し、合意された。
②安全基準等の拡充・強化
自動車の安全性の向上を図るため、国連の自動車基準調和世界フォーラム(WP.29)において日本が副議長を担うなど議論を主導しており、例えば、事故時のデータを記録する「事故情報計測・記録装置(EDR)」について、国連基準化を通じ、バスやトラック等の大型車への搭載を義務付けるなど、保安基準の拡充・強化を行った。さらに、障害物の手前で停止中に誤ってアクセルを踏み込んだ時に急発進や急加速を抑制する、日本発の技術である「ペダル踏み間違い時加速抑制装置」は、日本が提案、国際議論を主導し、令和6年11月に国連基準の合意に至った。引き続き、自動車の安全性向上に向けて、更なる安全基準の拡充・強化を図っていく。
③先進安全自動車(ASV)の開発・実用化・普及の促進
産学官の連携により、先進技術を搭載した自動車の開発と普及を促進し、交通事故削減を目指す「先進安全自動車(ASV)推進プロジェクト」では、令和3年度から7年度の5年間にわたる第7期ASV推進検討会において「自動運転の高度化に向けたASVの更なる推進」を基本テーマに掲げ、6年度は、誰もが使用する技術となったASVの正しい理解・利用の徹底と効果的な普及を図るための動画の作成、ドライバー異常時対応システム作動時の車外への報知性改善のためのガイドライン改訂に向けた検討等を行った。
④自動車アセスメントによる安全情報の提供
安全な自動車及びチャイルドシートの開発やユーザーによる選択を促すため、これらの安全性能を評価し結果を公表している。令和6年度は、6車種について、衝突安全性能、予防安全性能等の評価に取り組み、「自動車安全性能2024」として結果を公表した。さらに交差点に対応した衝突被害軽減ブレーキ及び新しいオフセット前面衝突(相手車への加害性を考慮した対向車との部分衝突)について、評価を開始した。
⑤自動運転の実現に向けた取組
より高度な自動運転の実現に向け、国連WP.29における議論を主導し、令和6年6月、自動運転車が有するべき機能要件や自動運転車の認証方法に関する国際ガイドラインが策定された。
また、自動運転機能等の故障による事故を防ぐため、令和6年10月より自動車の検査に電子装置の機能確認(OBD検査)を導入した。
⑥自動車型式指定制度
自動車型式指定制度においては、保安基準への適合性及び生産過程における品質管理体制等の審査を独立行政法人自動車技術総合機構交通安全環境研究所と連携して実施し、自動車の安全・環境性の確保を図っている。令和6年度の自動車型式指定件数は1,360件、装置型式指定件数は401件であった。
また、近年相次いで発覚した型式指定申請における不正事案を踏まえ、審査・監査の強化をはじめとした不正事案の抑止、早期発見のための手法について、多角的に検討を行い、必要な措置を講ずることとしている。
⑦リコールの迅速かつ着実な実施・ユーザー等への注意喚起
設計・製造過程における問題を原因とした自動車の事故・トラブルを未然に防止するため、リコール制度を運用し、自動車製作者等から届出された情報について、ウェブサイト等を通じて発信している。令和5年度のリコール届出件数は349件、対象台数は810万台であった。
この制度の的確な運用のため、不具合情報等について、自動車製作者等及びユーザーからの収集に努めるとともに、安全・環境性に疑義のある自動車について、独立行政法人自動車技術総合機構交通安全環境研究所において技術的検証を行い、自動車製作者等への確認・指導を行っている。
また、収集した不具合情報や事故・火災情報等を公表し、ユーザーへの注意喚起が必要な事案や適切な使用及び保守管理、不具合発生時の適切な対応について、ユーザーへの情報提供を実施している。令和5年度は、電動車の加減速時における特性についての啓発動画を作成し、注意喚起を行った。冬季の冬用タイヤやチェーンの適切な使用については、季節に合わせた報道発表やX(旧Twitter)を通じて、ユーザー等への注意喚起を行った。
⑧自動車の整備・検査の高度化
令和2年4月に施行された「道路運送車両法の一部を改正する法律」により、高度な整備技術を有するものとして国が認証を与えた整備工場(認証工場)でのみ作業が可能な整備の範囲を拡大することで、自動車の使用者が安心して整備作業を整備工場に委託できる環境作りを進めている。具体的には、これまで「対象装置の取り外しを行う整備(分解整備)」がその対象であったのに対し、対象装置に「自動運行装置」等を加えるとともに、取り外しは行わずとも制動装置等の作動に影響を及ぼすおそれがある作業を対象に含め、特定整備と改称した。
また、自動運転機能等の先進安全技術の機能確認を行うため、令和6年10月より自動車の検査に電子装置の機能確認(OBD検査)を導入した。
(6)被害者支援
①自動車損害賠償保障制度による被害者保護
自動車損害賠償保障制度では、クルマ社会の支え合いの考えに基づき、自賠責保険の保険金支払いとともに、自動車事故対策事業として、ひき逃げ・無保険車事故による被害者の救済(保障事業)や、重度後遺障害者への介護料の支給や療護施設の設置・運営等(被害者保護増進等事業)を実施している。今後も「被害者保護増進等事業に関する検討会」を通じた施策の効果検証等を踏まえ、被害者支援等の更なる充実に取り組むとともに、自動車事故被害者への情報提供の充実、自動車損害賠償保障制度に係る自動車ユーザーの理解促進にも取り組み、安全・安心なクルマ社会を実現していく。
②交通事故相談活動の推進
地方公共団体に設置されている交通事故相談所等の活動を推進するため、研修や実務必携の発刊を通じて相談員の対応能力の向上を図るとともに、関係者間での連絡調整・情報共有のための会議やホームページで相談活動の周知を行うなど、地域における相談活動を支援している。これにより、交通事故被害者等の福祉の向上に寄与している。
(7)機械式立体駐車場の安全対策
機械式駐車装置の安全性に関する基準について、国際的な機械安全の考え方に基づく質的向上と多様な機械式駐車装置に適用するための標準化を図るため、平成29年5月にJIS規格を制定しており、令和5年5月に更なる安全性向上を図るため、ワイヤーロープの強度及び安定性に関する基準等について一部改正した。
また、平成29年12月の社会資本整備審議会「都市計画基本問題小委員会都市施設ワーキンググループ」取りまとめを踏まえ、30年7月に策定した「機械式駐車設備の適切な維持管理に関する指針」について、近年、機器等の交換が適切に実施されなかったことによる機械式駐車設備の事故が発生している状況を踏まえ、令和3年9月に指針の一部見直しを行っており、機械式駐車装置設置後の点検等による安全確保を推進している。




