国鉄再建監理委員会(以下「再建監理委員会」という。)は、臨調答申を受けて制定された「日本国有鉄道の経営する事業の再建の推進に関する臨時措置法」に基づき国鉄事業の抜本的な改善策を策定することを主たる任務として58年6月に発足した委員会であり、60年7月26日に、分割・民営化を基本理念とする「国鉄改革に関する意見」を内閣総理大臣に提出した。その基本的な内容は次のとおりである。
国鉄の経営状態は悪化の一途をたどっており、借金の残高は60年度末には実に23.6兆円の巨額に達すると見込まれていた。このまま推移すれば、列車の運行等事業の運営にまで重大な支障が生じることが危惧される。
一方、鉄道は、今後とも、旅客については中距離都市間旅客輸送、大都市圏旅客輸送及び地方主要都市における旅客輸送の分野で、国民生活にとって重要な役割を果たしていくことが見込まれ、貨物についても大量輸送や長距離コンテナ輸送の分野において相応の役割を果たしていくことが見込まれる。
国鉄改革を行う意義は、破綻に瀕している国鉄を交通市場の中での激しい競争に耐え得る事業体に変革し、国民生活充実のための重要な手段としての鉄道の役割と責任を、十分に果たすことができるよう国鉄事業を再生することにある。
このような国鉄の改革は一刻の猶予も許されない。国鉄事業を再生させる可能性がまだ残されている現在において抜本的改革措置を講じることこそ、これを放置した場合の将来における計り知れない不利益を回避し、結果として国民の負担を最小限のものとするための最善の道である。
(イ) 国鉄経営はなぜ破綻したのか
国鉄経営の破綻原因は、鉄道事業を取り巻く環境の変化にもかかわらず、これに即応した経営の変革や生産性の向上が立ち遅れる等時代の変化に的確に対応できなかったことが最も大きな原因である。
その理由は、現在の経営形態そのものに内在する構造的な問題、すなわち、公社という制度の下で巨大組織による全国一元的な運営を行ってきたことにある。
(ウ) 分割の必要性
現在のような全国一元的組織では、適切な経営管理が行われ難く、事業の運営が画一的に行われがちであること、各地域や各事業部門の間に依存関係が生じやすく、それぞれの経営の実情に即した効率化が阻害されること、同種企業間における競争意識が働かないものとなっていることといった問題がある。
このような弊害を克服し、鉄道事業として今日の要請に即した運営を行うためには、適切な経営管理が行われ、かつ、地域性や事業部門の特性を反映した事業運営が確保されるよう適切な事業単位に分割することが不可欠である。
ただし、貨物部門については、輸送距離が長く、コンテナ輸送・車扱直行輸送の6割を超える列車が複数の旅客鉄道会社にまたがって運行されている実態等にかんがみ、旅客部門から経営を分離し、全国一元的に鉄道貨物事業を運営できる独立した事業体とする。
(エ) 民営化の必要性
現在のような公社制度では、外部干渉を避けがたい体質をもっていること、経営責任が不明確になっていること、労使関係が不正常なものとなりがちであること、事業範囲に制約があり、多角的、弾力的な経営が困難となっていることといった問題点があり、これは、公社という経営形態のあり方そのものに内在する構造的なものである。
これを打破するには、現行公社制度を民営化することによって、経営者の官僚的体質の改善と職員の意識改革を図るとともに、関連事業を展開し経営基盤の強化を図るしか道はない。
なお、民営化後の法人の性格は、当初、国鉄の全額出資による特殊会社とするが、経営基盤の確立等諸条件が整い次第、逐次株式を処分し、できる限り早期に純民間会社に移行する。
(オ) 長期債務処理の考え方
新事業体は、最大限の効率的経営を行うことを前提として、当面収支が均衡し、かつ将来にわたって事業を健全に経営できる限度の長期債務等を負担する。なお、新幹線保有主体は、資産価額のうち簿価に見合う長期債務を引き継ぎ、再調達価額と簿価との差額相当分について「旧国鉄」に対し債務を負うが、これらは実質的に旅客会社が負担する。
それ以外の長期債務等は旧国鉄に残置し、国鉄用地を最大限長期債務等の処理財源に充てるなど可能な限りの手段を尽くしたうえでなお残る長期債務等は何らかの形で国民に負担を求めざるを得ない。
(カ) 余剰人員対策の考え方
移行前に希望退職募集等によりできるだけその数を減らし、移行時には旅客鉄道会社に経営の過重な負担とならない限度において余剰人員の一部を移籍し、その他は「旧国鉄」の所属としたうえ、一定の期間内に集中的に対策を講じて全員が再就職できるよう万全を期することにより、この問題を解決することが適切である。