1 鉄道事業の推移と課題


(1) 鉄道事業の再生
 以上のような考え方のもとに、国鉄の分割・民営化を柱とする国鉄改革は昭和62年4月1日に滞りなく実施に移され、これによってJR北海道、JR東日本、JR東海、JR西日本、JR四国、JR九州及びJR貨物の各社が特殊会社として新たに発足し、会社発足後10年を経たところである。
 各社は、分割・民営化により、基本的に一般の鉄道事業者の立場に置かれ、民間企業として交通市場の中で激しい競争にさらされることとなった。すなわち、大都市圏内輸送等近距離輸送の分野では主として大手民鉄との間で、長距離輸送の分野では主として航空との間で、地方都市圏及び中距離圏の輸送の分野では主として自家用車及びバスとの間で、それぞれ厳しい競争にさらされた。
 このため、各社は大手民鉄、航空、自家用車、バス等他の交通機関との競争に対応することを大きな経営課題として位置付け、各種経営施策を講じることとなった。具体的には、各社は、これら他の交通機関との競争上優位に立つため、生産性向上を図りつつ、利用者のニーズに応じた鉄道輸送サービスの向上を進め、利用者の増加を通じて運輸収入の増加をめざすこととするとともに、事業の合理化、効率化によりコスト削減を図り、営業力と経営基盤の強化を強力に進めた。この結果、各社においては、輸送量が概ね順調に増加し、運輸収入の増加が図られ、また、国鉄時代と比較して経営状況は好転している〔1−3−5図1−3−6図〕。

(2) JR各社の完全民営化に向けて

 JR各社は、先に述べたとおり、全体的に見れば収支状況も改善され、鉄道再生という観点からはおおむね順調に推移してきているところであるが、完全民営化の実現という観点から眺めると、JR7社は大要次のように分けることができる。
 まず、JR東日本、JR東海及びJR西日本については、平成5年にJR東日本が株式の上場を果たし、また、JR西日本も8年に、JR東海も9年にそれぞれ株式を上場したところであり、これら3社とも完全民営化の実現に向けて着実に歩を進めている。
 一方、JR北海道、JR四国及びJR九州については、近年の低金利による経営安定基金の運用益の大幅な減少により、各社とも厳しい経営状況に直面しているが、9年度から、国において、経営安定基金の運用益を確保するための措置(5年間)及び国鉄改革関連税制の延長措置が講じられたこともあり、今後各社において徹底した合理化努力を尽くすことにより、5年後の13年度までには、これら3社とも株式の上場が可能となる経営状況に達することが期待される。
 これに対し、JR貨物については、厳しい競争下にある物流市場の中で、景気の低迷等による輸送量の減少等により、5年度から4年連続して経常損失を計上するに至っており、全国一元的な事業運営のもとでの完全民営化という国鉄改革の最終目標の実現について、目途が立たない状況にある。
 このため、JR貨物の完全民営化の実現に向けた道筋を早急に明らかにすべく、同社の経営に関する基本的な事項全般にわたり検討を行うため、8年10月より「JR貨物の完全民営化のための基本問題懇談会」を開催し、9年6月に、同懇談会の意見として「JR貨物の完全民営化に向けて」が運輸大臣に提出された。今後関係者からの可能な限りの協力を得つつ、JR貨物において、この意見を踏まえ、徹底した合理化、効率化等の努力により最大限の経営改善効果を達成して、できるだけ早期に完全民営化を実現することが強く期待されるとともに、運輸省としても、JR貨物の経営改善措置の進捗状況等、同社の完全民営化に向けた動きを見守りつつ、必要に応じ、適切な措置を講じていくこととしている。


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