2 清算事業団による債務処理の状況


(1) 清算事業団において講じた措置

 国鉄改革時においては、国鉄長期債務の処理については、「最終的に残る債務等について国民に負担を求めざるを得ないことにかんがみ、土地、株式等の資産の適切かつ効率的な処分を進め、自主財源の増大を図り、極力国民負担の軽減に努める」こととされた。
 このため、清算事業団においては、次のような措置を講じた。

  1. 土地関係

     旧国鉄が保有していた土地のうち将来の鉄道事業に最小限必要となる事業用用地以外として国鉄から8,808ha(その後、鉄道公団からの追加承継等により、保有土地は約480ha増加している。)の土地を承継したが、このうち昭和62年度から平成8年度までに6,863haを売却し、5兆6,440億円の収入をあげてきたところである。特に、8年度においては、清算事業団の保有する土地については、汐留、品川等の大型物件の売却が可能となり、過去最高額の1兆525億円の収入をあげることができたところであり、今後ともあらゆる手法を駆使して、全力をあげて早期処分を図ることとしている〔1−3−7表〕。

  2. 株式等関係

     清算事業団は、国鉄改革により発足したJR株式(7社合計919万株)を保有することとなったが、5年度にJR東日本の発行済株式数400万株のうち250万株、8年度にJR西日本の発行済株式数200万株のうち136.6万株を売却し、計1.6兆円の収入をあげてきたところである。9年度にはJR東海株式の売却(発行済株式224万株中135.4万株、売却収入4,859億円)・上場を果たした〔1−3−8表〕。さらに、JR東日本株式第2次売却に係る主幹事証券会社を決定するなど、既上場株式の第2次売却についても所要の準備を進めているところである。
     帝都高速度交通営団に対する出資持分のうち旧国鉄が保有していた分(額面価額で310億円)は清算事業団に帰属し、適正な価額で政府に譲渡することとされ、昭和62年度から平成元年度までの間に1,700万口を393億円の無利子債務の償還に充て、残る2億9,300万口については2年度に9,372億円の資金運用部からの有利子債務の国への承継と引き換えに清算事業団から国に移す措置を講じたところである。

(2) 国鉄長期債務の増加とその原因

 しかしながら、昭和62年度から平成8年度までの10年間に清算事業団が負担した利子及び年金負担等の支出は14.6兆円に及んだのに対して、資産処分等の収入は12.9兆円にとどまった。
 その理由としては、まず第一に、地価高騰問題への対応による土地売却の凍結が挙げられる。これは、清算事業団の発足後、大都市を中心として地価が急激に高騰する状況において、当面の地価対策が国家的緊急課題となり、昭和62年10月に「緊急土地対策要綱」が閣議決定され、清算事業団が処分すべき用地について「現に地価が異常に高騰しつつある地域内の用地の売却については、…地価の異常な高騰が沈静化するまでこれを見合わせる」こととされたことに伴うものである。
 なお、この措置は、当面の地価対策が国家的緊急課題であるという認識のもと、一般競争入札による清算事業団用地の売却が更なる地価高騰の引き金になるので、これを凍結すべきであるという考え方が大勢を占めていた状況の中で、国鉄長期債務に係る国民負担の軽減の観点から清算事業団用地を早期に売却すべきとの主張にも留意しつつ講じられたものであり、その当時の社会経済情勢から見ればやむを得ない措置であったと考えられるものである。
 さらに、清算事業団の資産売却収入の伸び悩んだその他の理由としては、その後のバブル崩壊に伴う不動産・株式市況の低迷等による土地及びJR株式売却の伸び悩んだことがあげられる。
 また、支出面においては、平成2年度から8年度までの7年間、鉄道共済年金の財政破綻に対応してなされた0.7兆円の特別負担、9年度首においては鉄道共済年金の厚生年金への統合に伴い、0.8兆円(見込み)の移換金債務が追加された。これらの年金の負担は、国鉄改革後に新たに生じた債務である。
 以上のような事情から、9年度首における国鉄長期債務の残高は28.1兆円に増加した〔1−3−9図〕。


前へ戻る 表紙へ戻る 目次へ戻る