3 需給調整規制をめぐる環境の変化


 「需給調整規制」とは、事業参入に関して、需要と供給の関係を判断して供給が多すぎる場合には新規参入を認めないという規制の一形態であり、交通運輸の分野では、総じて「事業の開始によって当該路線又は事業に関わる供給輸送力が輸送需要に対し不均衡とならないものであること」とされ、事業参入の法律上の要件の一つとして採用されてきた。この規制は、一般的には、(1)過当競争による安全性の低下やサービスの質の低下を防止する、(2)モードにより程度に違いはあるものの、規模の経済性により資源の有効活用を通じて社会的により低い費用での生産を可能とする、等の効果があり、また、(3)採算路線と不採算路線との間の内部補助を通じて域内のネットワークの維持・確保を容易にする機能を果たしてきた。
 このようにして、これまで利用者に対する良質なサービスの安定的な供給や国民経済上の資源の有効活用を図る上で有効であった需給調整規制であるが、マイカー交通の顕著な普及拡大はこの規制の導入時において想定していなかったものであり、また、交通需要の拡大はもはや規模の経済性が作用しにくい段階に達しているとも考えられる。あるいは、分野によっては近年の需要の低迷や代替交通の整備により参入競争がもはや現実的でないものもある。こうした状況変化を踏まえ、需給調整によらなくても市場のメカニズムの中で所期の目的がよりよく達成される場合があるのではないか、あるいはこの規制の存在により却って効率的な事業運営が阻害される面もあるのではないかとの指摘がなされるようになった。
 こうしたことから、交通運輸の分野においても、利用者の立場に配慮しつつ、市場原理の活用と自己責任の原則に基づいて、事業者がその活力を最大限に発揮するためのシステムの構築が求められることとなった。


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