1 需給調整規制の廃止と市場原理の活用のための環境整備


 前節で述べたとおり、需給調整規制の下では、多様化した国民のニーズに即した多様なサービスの提供、効率的な事業運営の確保による国際的な大競争時代への適切な対応等が十分に行い得ないおそれが生じた。また、バブル崩壊後の経済の閉塞状況の中で、我が国全体の経済社会システムの抜本的な構造改革が求められてきた。こうした急速な環境変化の顕在化を踏まえ、平成8年12月、交通運輸分野における需給調整規制の原則廃止の方針が表明された。(第2部第1章第3節参照)
 需給調整規制を廃止し、市場原理と自己責任原則の下、交通運輸が我が国内において、あるいは国際的に、活性化・高度化・多様化していくためには、需給調整規制廃止の効果を十分に引き出すための次のような市場環境の整備により、事業者間の競争が促進される必要がある。

(1) 総合的な交通インフラの整備

 鉄道、空港、港湾等の交通運輸関係の公共施設は、利用者が交通運輸サービスを享受するための基盤であるが、その整備に当たっては、従来からの国土の均衡ある発展という観点のほか、市場原理の最大限の活用のための競争環境の整備、グローバリゼーションへの対応、物流の効率化、円滑な交通運輸の確保等の観点を加え、これらに資する高速鉄道、空港、港湾、物流拠点、交通ターミナル等の整備を総合的に推進していく必要がある。
 こうした交通インフラの整備には、いうまでもなく、多額の資金を要し、その回収にも長期間を要することが多いため、民間単独による投資は望みにくい。このことは、大都市鉄道における通勤混雑緩和のための投資等の場合にも同様である。
 しかしながら、こうした交通運輸関係の基盤施設の整備は、今後の競争環境として大前提となるものであり、また、上記のような観点からみても重要度を増している。このため、必要に応じて行政により、又は行政の主導や支援等の措置を通じて、整備されていかなくてはならない。
 その際、交通運輸行政として、以下の点に留意する必要がある。
 (1) 計画策定に際して、各交通インフラの整備を整合的に位置付けること。
 (2) 空港・港湾とアクセス手段である鉄道・道路の一体的整備等、各交通モードや施設の有機的な連携を図ること。
 (3) 公共事業の効率的・効果的な実施とともに、透明性の向上を図るため、投資の重点化・効率化、事業採択時の費用対効果分析を含む総合的・体系的な評価の実施、採択後の再評価の実施、建設コストの縮減等を推進すること。また、PFI(Private Finance Initiative)方式の導入による民間の資金力、技術力及び経営能力の活用についても適切に対処していくこと。
 (4) 利用者ニーズに応じたインフラの整備という視点が一層重要となることを踏まえ、中長期的な視点に立って、インフラ整備というハード面と、利用に係るソフト面の施策との整合性を十分に図り、両者が一体となって最大の効果を発揮するようにすること。
 (5) 総合的な交通インフラの整備とその他の社会資本の整備とが相まって、総合的・体系的な国土の開発及び利用に資すること。

(2) 新たなニーズに対応した創造性豊かなサービスの提供の確保

 国民の価値観の多様化、安全性に対する意識の高まり、又は社会の高齢化の進展等により、交通運輸に対する利用者ニーズは多様化、高度化している。こうした新たなニーズに的確に対応して、既存のサービスを一層高度化し、また、創造性豊かなニューサービスを創出するため、事業者による創意工夫の発揮や積極的なビジネスの展開が必要となっている。
 交通運輸行政は、事業者による新たなサービスの創造に資するため、社会におけるニーズの変化、規制の緩和等に係る情報を幅広く潜在的な事業者等に対しても提供するとともに、積極的なビジネス展開を促す環境整備を行う必要がある。さらに、新たなサービスを生み出す可能性のある新技術は将来性が不確実でしかも多額の投資を要する場合が多いため、これに対する支援を検討する必要がある。

(3) 公正な競争の促進のための環境整備

 市場原理の活用の効果を十分に実効あらしめるためには、市場の特色等を踏まえつつ、モードにこだわらず事業者の競争を一層促進するための環境整備が必要である。航空、海運分野において公正な競争を図るための国際交渉、輸送機器等の国際標準化への対応をはじめとした多国間・二国間の国際調整、空港容量の制約がある場合の空港スロットの調整ルールの設定、各モードを総合した旅客流動の的確な把握等に適切に対応していく必要がある。


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