公共交通機関においては、交通ターミナルにおけるエレベーター・エスカレーターの設置、ノンステップバス、リフト付きバスの導入等の垂直移動対策が進められており、国、地方公共団体、各事業者等の取り組みによって、年々これらに係る改善整備は進捗しつつある。しかし、高齢者・障害者の公共交通機関の利用が増加していく中、現在の公共交通機関のバリアフリー化に向けた施設整備は十分とはいえず、一層の努力が求められている。
駅における段差の解消等の垂直移動対策としてエレベーター、エスカレーター及びスロープ等の設置が行われているが、JR、大手民鉄、営団・公営地下鉄の駅のエレベーター・エスカレーターの整備率をみると、それぞれ9.0%、16.2%となっている。このうち、プラットホームから公共通路への移動の際の高低差が5m以上であり、かつ、1日当たり5,000人以上の利用者がある全国1,945駅についてみると、エレベーター・エスカレーターが整備されている駅は、それぞれ約29%、約54%となっている。このため、運輸省が5年に策定した「鉄道駅におけるエレベーターの整備指針」等に基づいてさらに計画的な整備促進が求められている(9年度末)。
(イ) バス・タクシー
バスにおいては、利用者の乗降をより容易化するため、従来より低床化が進められている。バスの床面地上高は通常90cm程度であるが、技術開発に伴い徐々にこれを引き下げることが可能となり、床面地上高55cm程度のワンステップバスや床面地上高35cm程度のノンステップバスの導入が進められている。特に、整備された歩道面から段差なくバス床面に乗降可能なノンステップバスについては、10年3月末現在、全国で145台あり、前年度の19台から大幅に増加しているが、その利便性や大量生産による価格低減への期待からも、さらなる普及拡大が望まれる。このほか、車椅子利用者のため、スロープ付きバス(10年3月末現在695両)やリフト付きバス(同260両)の導入も進められている。
また、タクシーは、機動性があり、需要への個別対応が可能なことから公共交通機関の中では移動制約者にとって最も利便性の高い交通機関である。従来からリフトを設置したタクシーの導入が進められており、全国で900台程度となっている〔1−3−10表〕。
(ウ) 旅客船
旅客船ターミナルにおける垂直移動対策としてエレベーター・エスカレーターの設置が行われているが、全国の412カ所のうち2階建て以上の193カ所についてその整備率をみると、それぞれ34.7%、17.1%にとどまっている〔1−3−10表〕。
1−3−9表をみると、旅客船の船内についても、クルーズ客船(同表のデイクルーズ船、クルーズ船をいう。)や長距離フェリーのように船旅を楽しむ目的の旅客船では、船内を自由に行動できることは非常に重要な意味を持つため、旅客船内の段差の解消や、エレベーター等の整備による垂直移動対策の充実が図られており、身体障害者用トイレについては、クルーズ船や長距離フェリーにおいて整備率が高い〔1−3−9表〕。
(エ) 航空
空港ターミナルにおける垂直移動対策としてエレベーター・エスカレーターの設置が行われているが、全国の80カ所のうち2階建て以上の51カ所についてその整備率をみると、それぞれ96.1%、86.3%となっている〔1−3−10表〕。
公共交通機関における高齢者・障害者等に配慮した施設整備は、依然不十分な状況にあり、高齢者・障害者の側でも不便を感じている人の割合は高い。
身体障害者が外出時に困る理由を調査した厚生省資料によると、肢体不自由者については、25.6%が「道路や駅に階段が多い」、9.4%が「利用できる交通機関がない」をあげている〔1−3−11図〕。
「利用できる交通機関がない」をあげた者の中には介添えなしでは最寄りのバス停に行くことができない等の理由も含まれるものと考えられ、今後、各モード内における施設整備の他、ドア・ツー・ドア型サービス等の新たな輸送サービスの充実を図ることも必要である。
また、以下に掲げる各交通ターミナル等における整備のほか、駅前広場、周辺道路(歩道橋、ペデストリアンデッキ等を含む。)、駅ビル等の整備と併せて、地域の街づくりと一体的に関係各方面の連携協力の下にバリアフリー化を推進することが望まれる。
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