(1) 国内輸送
(景気の低迷に伴い国内旅客輸送は低調)
旅客輸送の動向に影響の大きな経済指標について、その対前年度伸び率の推移をみると、実質賃金は1.3%減(8年度は1.5%増)と4年ぶりにマイナスとなり、実質消費支出は2.1%減(8年度は0.1%減)と前年度に比べマイナス幅が拡大している。また、経済活動や通勤旅客輸送の動向に影響が大きいとされる雇用者数は、対前年度比0.8%増(8年度は1.3%増)と増加を続けたものの、その伸びは鈍化している〔2−1−1図〕。
このように我が国経済が総じて低迷し、消費活動も冷え込みが続く中で、9年度の国内旅客輸送量は、航空を除く営業用輸送機関が減少したものの、保有台数が堅調に増加した自家用旅客自動車が、燃料油価格の低下等もあり、引き続き増加傾向を続けたことにより、輸送人員が846億人、対前年度比(以下同じ。)0.3%増(8年度は0.3%増)、総輸送人キロが1兆4,185億人キロ、0.7%増(8年度は1.5%増)となった(注)〔2−1−2表〕。
この結果、輸送機関の分担率は、航空及び自家用自動車が拡大し、この他は縮小または横ばいになった。営業用輸送機関のシェアは39.3%で0.6ポイント減となり、低下傾向が続いた〔2−1−3図〕。
(イ) 輸送機関別の動向
(鉄道は依然として低調)
まずJR全体の輸送量についてみると、輸送人員1.5%減、輸送人キロ1.6%減となった。定期旅客、定期外旅客ともに輸送人員、輸送人キロが減少している。また、9年10月の北陸新幹線(高崎−長野間)の開業により、新幹線旅客は増加した。
民鉄(JRを除く。)についても、定期旅客、定期外旅客ともに輸送実績が前年を下回り、全体では輸送人員1.5%減、輸送人キロ2.1%減と低調に推移した。
JRも含めた鉄道全体の輸送量が減少傾向であることの要因としては、景気低迷の影響による旅行需要の減少に加え、企業の雇用調整と週休2日制の普及による通勤定期利用者の減少、学生数の減少による通学定期利用者の減少等が挙げられる。
(旅客の減少傾向が続く営業用自動車)
営業用バスは輸送人員3.4%減、輸送人キロ1.8%減と輸送量の減少傾向が続いた。このうち、乗合バスは輸送人員、人キロとも3.6%減となっており、引き続く自家用自動車へのシフトや少子化に伴う学生数の減少による定期旅客の低迷等によって旅客需要の減少傾向が続いている〔2−1−4図〕。
また、営業用乗用車(ハイヤー・タクシー)の輸送量も減少が続き、輸送人員2.6%減、輸送人キロ3.5%減となった。実車率(実車キロ/走行キロ)の低下、1乗車当たりの平均輸送距離の減少も続いている。この要因としては、企業の経費削減の一環としての交通費の縮減、実質賃金の低下に伴う需要減などが挙げられる〔2−1−5図〕。
(自家用乗用車は輸送量増加)
自家用乗用車は、輸送人員2.3%増、輸送人キロ2.0%増と輸送量の増加が続いている。燃料油の価格低下に伴い、自動車維持費が軽減したことや、免許人口が増加していること等が影響しているものと思われる。
一方、保有車両数は増加傾向を維持しているものの、消費税率引き上げ前の駆け込み需要の反動や、景気の低迷による消費者心理の悪化に伴って、新車販売台数が8年度に比べて大幅に落ち込んだこと等により、本年度の伸びは例年よりも緩やかになっている〔2−1−6図〕。
(航空は好調な伸びが続く)
航空は羽田空港の拡張等に伴う輸送力の向上や、規制緩和に伴う各種運賃割引等による需要喚起によって輸送実績を伸ばした。輸送人員、輸送人キロのいずれについてもすべての月において輸送実績が前年度を上回り、輸送人員4.2%増、輸送人キロ6.1%増と好調に推移している〔2−1−7図〕。
(旅客船は低調に推移)
旅客船(一般旅客定期航路、特定旅客定期航路及び旅客不定期航路の合計)は、4年連続して航路数が減少したことも影響し、輸送人員2.3%減、輸送人キロ5.0%減と輸送人員、輸送人キロともに減少した。
(2) 国際輸送
(出国日本人数は6年連続過去最高を更新)
9年(暦年)における出国日本人数は1,680万人と6年連続で過去最高を更新したものの、秋以降、対前年同月比で減少に転じるなど、伸び率では対前年比(以下同じ。)0.6%増(8年は9.1%増)とわずかな伸びにとどまった。その要因としては、実質賃金の低下に伴う消費の冷え込み、円安基調、香港行き旅行者数が大幅に減少したこと等が挙げられる〔2−1−8図〕。
旅行先の国・地域のシェアは、アメリカ合衆国の32.0%(1.0ポイント増)を筆頭に韓国9.5%(0.9ポイント増)、中国6.2%(0.1ポイント増)、香港5.4%(3.6ポイント減)の順となった。旅行先を州別でみたときにアジア州への旅行者数が大幅に減少しているのは、香港行きの旅行客数の減少の影響である〔2−1−9図〕。
(訪日外客数も過去最高を記録)
9年の訪日外客数は、韓国の通貨危機の影響から、年末に訪日韓国人数が大幅に減少したものの、円安を背景に、年間で422万人、対前年比9.9%増(8年は14.7%増)となり、初めて400万人を突破した。このうち、観光客は全体の56.7%(前年比1.6ポイント増)を占める239万人で、13.1%増(8年は22.1%増)と大幅な増加傾向が続いている。
州別にみるとアジア州が252万人で全体の59.7%を占め、ついで観光客数が大幅に増加したヨーロッパ州が北アメリカ州を抜いて77万人で18.2%、北アメリカ州が73万人で17.3%の順となった。
9年夏には東南アジアで通貨危機を契機とした政治・経済の混乱が起こったが、台湾及び香港からの訪日外客数が前年に引き続き好調を維持したため、アジア地域からの訪日外客数は増加した。国・地域別では、訪日外客総数が最も多いのは韓国で101万人、観光客数が最も多いのは台湾で73万人となっている〔2−1−10図〕。
(注) 阪神・淡路大震災の影響により、平成7年1月〜3月の自動車輸送統計の調査結果は営業用バス等以外について兵庫県分を除いた数値を公表しているが、本節においては、除かれた部分を含めて推計した全国値によっている。
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