(1) 国内輸送
(トン数、トンキロとも減少に転じた国内貨物輸送)
公表されている主要な経済指標のうち、貨物輸送の動向に影響の大きな指標について、その対前年度伸び率の推移をみると、鉱工業生産指数は年度前半の活発な生産活動に支えられて1.2%増(8年度は3.4%増)と増加を続けたものの、実質GDPは0.7%減(8年度は3.2%増)と戦後最大のマイナスとなり、住宅着工戸数は、長期にわたる低金利等を背景とした需要の先食いや、消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動に加え、昨年秋以降の金融不安などによる家計の景況感の悪化等もあり17.7%減(8年度は9.8%増)と大幅な減少となるなど、総じて低調に推移している〔2−1−11図〕。
このような状況のなかで、9年度の国内貨物輸送は、航空と、年度前半に好調であった営業用自動車が増加したものの、建設需要の減少など景気低迷の影響を受けて自家用自動車、鉄道、内航海運がいずれも減少したため、総輸送トン数で66億7,710万トン、対前年度比(以下同じ。)1.8%減(8年度は2.3%増)、総輸送トンキロで5,688億8,000万トンキロ、0.8%減(8年度は2.5%増)とトン数、トンキロともに、4年ぶりの減少となった〔2−1−12表〕。
この結果、9年度の輸送トンキロでみた各輸送機関の分担率は、前年度に比べて営業用自動車のみが分担率を拡大した〔2−1−13図〕。
(イ) 輸送機関別の輸送動向
(減少続く鉄道貨物)
JR(貨物会社)のコンテナ貨物は、9年度は建設残土などの廃棄物輸送が前年度と同様に好調に推移、さらに樹脂、紙・パルプなどのコンテナ化が引き続き進んでおり、トン数で3.6%増、トンキロで0.7%増となった。車扱貨物は、これらのコンテナ化の影響や景気低迷による需要減に加え、荷主の輸送合理化の一環としての工場施設等の統廃合や自動車輸送へのシフトなどにより、大宗貨物であるセメント、石油などの荷動きが低調であったのをはじめ、すべての品目でマイナスとなっており、トン数で9.7%減、トンキロで9.4%減と、ともに7年連続での減少となった。このため、鉄道全体による輸送量は、車扱貨物の減少をコンテナ貨物の増加によってカバーすることができず、9年度はトン数で5.9%減、トンキロで1.4%減と、依然として減少基調で推移している〔2−1−14図〕。
(トン数で4年ぶりの減少となった自動車貨物)
自動車による貨物輸送量は、9年度は民間需要の冷え込みに加え、消費税率の改定に伴う駆け込み需要の反動などもあり、輸送量は、トン数で1.8%減、トンキロで0.2%増と、トン数で4年ぶりの減少となった〔2−1−15図〕。
営業用・自家用別にみると、営業用自動車は、建設需要や個人消費の低迷により砂利・砂・石材、セメント、日用品などの荷動きが低調であったものの、年度前半には、買い控えの影響の少ない食料工業品や、活発な輸出に支えられて機械類の輸送が好調であったことに加え、宅配便貨物が引き続き堅調を維持したことにより、営業用全体としては、トン数では0.1%減、トンキロでは1.4%増となった。一方、自家用自動車は、公共投資や住宅建設の大幅な減少による建設資材輸送の低迷などから、トン数で3.2%減、トンキロで3.5%減といずれも減少となった。
(トン数、トンキロともに減少となった内航海運貨物)
内航海運の貨物輸送量は、トン数では1.0%減、トンキロでは2.0%減となった。
これを貨物船、油送船別にみると、貨物船は、公共投資や住宅需要の停滞から主要貨物であるセメントを中心に建設材の荷動きが悪化したことなどにより、輸送量(トンキロ)は減少した。油送船は、景気低迷の影響などによる電力用重油、トラック用軽油などの需要減に加え、油槽所の統廃合や石油会社同士の製品融通による石油関連貨物の輸送距離の短縮と、それに伴うローリー輸送へのシフトなどの動きにより石油の輸送需要が縮小し、トン数、トンキロともに減少となった〔2−1−16図〕。
(5年連続増加の国内航空貨物)
9年度の国内航空貨物輸送量は、景気低迷の影響を受けて国内需要が減速するなかで、1−3月期には、対前年同期比で平成4年10−12月期以来のマイナスに転じるなど、年度後半には輸送需要が急速に冷え込んだものの、年度全体ではトン数で1.2%増、トンキロで2.0%増となり、ともに5年連続で増加となった〔2−1−17図〕。
(堅調な世界の海上荷動き量)
タイ、インドネシア等の東南アジア諸国では、通貨危機を契機とした政治・経済の混乱により輸入が伸び悩んだものの、その一方で通貨価値が下落したことにより輸出は好調に伸張したため、アジアを中心とした荷動きは全体としては堅調に推移した。このため、平成9年(暦年)の世界の海上荷動き量の合計は、トンベースで50億7,400万トン、対前年比(以下同じ。)4.4%増、トン・マイルベースで21兆4,130億トン・マイル、3.6%増となり、いずれも過去最高となっている。なお、世界の海上荷動き量に占める我が国輸出入貨物の割合はトンベースで17.3%、トン・マイルベースで20.6%(8年は各々17.6%、20.5%)となっている〔2−1−18表〕。
(イ) 我が国の海上貿易量の動向
(輸出入ともに増加)
9年の我が国の海上貿易量(トンベース)は輸出入合計で、2.9%増(8年は0.2%減)の8億7,784万トンとなった。
輸出は、円安により日本製品の価格競争力が高まったことに加え、欧米の経済の回復・拡大が続いていることから欧米向けの輸出が堅調に推移、7.5%増(8年は2.7%減)の1億193万トンとなった。これを品目別にみると、アジア向けが主であるセメントが減少となったものの、欧米向けが主である乗用自動車などが増加した。
輸入は、円安傾向が続いたにもかかわらず、年前半の活発な生産活動に支えられ、9年は2.4%増(8年は0.1%増)の7億7,591万トンと5年連続で増加を続けた。これを品目別でみると、住宅建設の低迷からくる需要減により木材(1.4%減)が減少したものの、鉄鉱石が粗鋼生産量の増加を受けて6.2%と増加に転じたのをはじめ、ほとんどの品目の取扱いが増加したため、乾貨物計では4.0%増(8年は0.2%減)となった。また、液体貨物計は、シェアの大きな原油が低価格で安定していたこともあり2.7%増と増加したものの、重油(40.2%減)、LPG、LNGなど液体貨物その他(3.7%減)が減少したため、液体貨物全体では0.1%増(8年は0.6%増)と微増にとどまった〔2−1−19表〕。
(ウ) 国際航空による貨物輸送
(輸出が好調であった国際航空貨物)
9年度の国際航空貨物輸送量(継越貨物を除く。)は、円安傾向が続くなかで輸出が年度を通して好調に推移し、輸入は若干の伸びにとどまったものの、全体としては依然として順調な伸びを示している。輸出は、通貨危機を契機としたアジア地域における経済の混乱の影響で、同地域への半導体、機械部品の供給が激減したことにより、年度後半にかけて低迷したものの、北米向けの半導体、自動車部品等、欧州向けのパソコン、家庭用ゲーム機等が好調であったことから、トンベースで対前年度比(以下同じ。)21.3%増の115万トンであった。輸入は、欧州発の機械類、赤ワイン等は好調であったが、円安の影響で北米発の魚介類、果物などの生鮮食料品等が低調に推移し、1.3%増の130万トンにとどまった。
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