(1) 船腹調整事業の見直し
内航海運においては、昭和41年よりスクラップ・アンド・ビルド方式による船腹調整事業が実施されてきており、これまで船腹需給の適正化、内航海運業者の経営安定、船舶の近代化等の推進という役割を果たしてきていた。しかし、平成7年の海運造船合理化審議会答申において、「内航海運業の活性化及び構造改善の推進を図るため、船腹調整事業の計画的解消を図り、市場原理をより強く働かせるべきである」との指摘がなされ、8年及び9年には、同事業を計画的に解消していくこと、解消時期の前倒しを検討することなどについて閣議決定がなされた。
(イ) 船腹調整事業を解消する場合の問題点
船腹調整事業が長期にわたり継続実施される中で、新造船のためのスクラップとして引き当てられる既存船の引当資格(一種の営業権)が取り引きされることとなり、この結果、引当資格が財産的価値を有するものとして認知されることとなった。また、引当資格は、企業会計上資産として評価されるとともに、税務上も相続等の際課税対象とされ、金融機関からも融資の際に担保又は含み資産として評価されることとなった。
したがって、船腹調整事業を解消する場合には、引当資格の財産的価値が消滅することとなるため、内航海運業者の事業経営に多大な影響を与え、社会問題化するおそれがあるとともに、内航海運業や中小造船業等が基幹的産業となっている地域における経済の急激な地盤沈下が起こることも予想された。
(ウ) 内航海運暫定措置事業の導入
このような状況の下、海運造船合理化審議会内航部会は、10年3月に船腹調整事業の解消問題について、船舶を解撤する転廃業者等に対し解撤する船腹量に応じ交付金を交付するとともに、船舶を建造する者から建造する船腹量に応じ納付金を納付させるという方式(以下「内航海運暫定措置事業」という。)を導入することによって、引当資格の財産的価値について所要の手当てを行いつつ、現在のスクラップ・アンド・ビルド方式による船腹調整事業を解消すべきであるとの報告書を運輸大臣に提出した。
これを踏まえ、「規制緩和推進3か年計画」(10年3月閣議決定)において、「平成10年度早期に、できるだけ短い一定期間を限って転廃業者の引当資格に対して日本内航海運組合総連合会が交付金を交付する等の内航海運暫定措置事業を導入することにより、現在の船腹調整事業を解消する」こととされ、同連合会は、10年5月に内航海運暫定措置事業を導入し、船腹調整事業を解消した。
内航海運暫定措置事業の導入により、引当資格の保有の有無にかかわらず一定の納付金を支払うことによって船舶を建造することが可能となるなど、船舶建造の自由度が高まり、意欲的な事業者の事業規模の拡大や新規参入が促進されることとなるため、今後、内航海運の構造改善や活性化が推進されることが期待される。
また、内航船の建造需要の拡大、内航海運へのモーダルシフトの推進を図るためには内航海運暫定措置事業の円滑な実施を進める必要がある。そこで、政府の総合経済対策の一環として、10年度第1次補正予算において、物流効率化のための基盤整備としての内航海運活性化緊急対策を盛り込むこととし、運輸施設整備事業団が内航海運暫定措置事業に係る必要な資金について日本内航海運組合総連合会に融資すること、運輸施設整備事業団の船舶共有業務を弾力化すること等の支援措置を講じた。
(2) 内航海運の運賃協定の見直し
内航海運の運賃協定については、価格競争を通じた内航海運の効率化を図るため、現在残っている内航タンカー運賃協定及び内航ケミカルタンカー運賃協定を10年度末に廃止することが閣議決定されている。
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