厳しい運輸事業経営と総合的な経済対策の推進


 最近の我が国経済は、金融機関の相次ぐ経営破綻、アジア諸国における経済・通貨危機の影響等により、家計及び企業の景況感は悪化し、個人消費及び企業の設備投資は低調が続いている。加えて、公共投資の抑制等もあり、平成9年度の実質経済成長率はマイナス0.7%と第1次石油危機後の昭和49年度以来23年ぶりで、かつ、戦後最大のマイナス成長となった。また、完全失業率も平成10年度に入ってから4%台で推移するなど、これまでにない高さに上昇した。景気は低迷状態が長引き、極めて厳しい状況にある。

 こうした経済状況を反映し、輸送動向も航空の一部を除き軒並み減少傾向にあり、運輸企業も厳しい経営環境下にある。
 具体的には、国内旅客輸送については、航空を除き、各輸送機関とも低迷を続けており、航空についても10年に入ってから伸びが鈍化している〔図3〕。国内貨物輸送については、9年秋以降、減少が顕著となり、10年に入ってから減少幅が拡大する傾向にある〔図4〕。

 国際旅客輸送については、9年秋以降出国日本人数の減少が顕著となり、円安傾向を反映し好調であった入国外客数も、韓国の経済危機の影響等により10年に入ってから減少に転じた〔図5〕。国際貨物輸送については、円安傾向及び国内消費の低迷により輸入は低調が続いており、増加していた輸出もアジア諸国の経済危機により10年に入り減少している〔図6〕(第2部第1章第1節参照)。

 政府としては、10年4月に総事業費16兆円超の過去最大規模の「総合経済対策」を決定し、その着実な実施を図っているところである。さらに、一刻も早い景気回復を図るため、11年度に向け切れ目なく施策を実行できるように、第3次補正予算を編成することとし、また、税制について、6兆円を相当程度上回る恒久的な減税を実施することとしている。
 運輸省としても、「総合経済対策」の一環として、10年度当初予算の前倒し執行を図るほか、第1次補正予算に基づき、成田、羽田等の大都市圏拠点空港の整備、横浜港等の中枢国際港湾及び塩釜港等中核港湾の整備、営団地下鉄東西線等の広域的都市ネットワークの整備等を推進し、内需拡大とこれによる景気回復に資することとしている。また、中小企業対策として、(1)中小企業信用保険の限度額の拡充、(2)中小企業の範囲拡大による公的融資の拡充、(3)中小企業投資促進税制の創設、(4)雇用調整助成金制度の活用等の施策を実施している(第2部第1章第2節参照)。さらに、景気回復に向けて全力を尽くすために、運輸関係社会資本の重点的・効率的な整備による内需拡大等を内容とする11年度概算要求を行ったところである。
 こうした総合的な経済対策が奏功し、我が国経済が早期に景気の自律的回復軌道に乗ることが期待される。


表紙へ戻る 次へ進む