1 収支の概況


  私鉄の営業成績を35年度〜37年度について示したものが 〔I−(I)−50表〕である。私鉄全体についてみると,鉄道営業収益は輸送実績を反映して願調な伸ぴを示し,37年度では35年度に対し29%の増加となつた。一方,鉄道営業費用は,〔1-(1)-51表 〔I−(I)−51表〕〕に示すようなベース・アップを中心とした人件費の増大と 〔I−(I)−62表〕に示す設備投資の増加による減価償却費の増大により,鉄道営業収益を上回る32%の増加となり,その結果,鉄道営業"利益率〔鉄道営業利益÷鉄道営業収益×100)は9.5%から7.3%へと低下した。さらに企業利益率(純利益÷総収益×100)においても,兼業事業の業績悪化と借入金増大による支払利子の著増で4.0%から1.5%へと低下した。

  これを大手私鉄,中小私鉄,公営および帝都高速度交通営団(以下「営団」という。)に分けてみよう。
  大手私鉄では,鉄道営業収益は,37年度において35年度対比で平均を上回る31%の増を示したが,これは都市の人口集中により大手私鉄の沿線が急速に開発されていることによるものである。鉄道営業費用は,人件費33%,経費33%と大きく伸びたので全体で33%の増加となり,鉄道営業収益の伸びを上回つた。これを反映して,鉄道営業利益率は,35年度の12.3%から36年度9・9宅に低下したので,37年に運賃改訂が行なわれた結果,37年度は11.2%とある程度回復した。また鉄道営業利益率の低下のみならず,支払利息の著増による営業外費用の増大があり,経営の多角化による兼業事業の好成績にもかかわらず,企業利益率は若干の低下をまぬがれなかつた。
  中小私鉄では,鉄道営業収益は37年度で35年度対比23%の増加であり,一方,鉄道営業費用は27%の増加となつたので鉄道営業利益率は6.7%から3.4%へと大幅な減少をみた。その結果,兼業部門における業績が比較的堅調であつたにもかかわらず,企業利益率は35年度の6.7%から37年度の3.4%へと低下した。中小私鉄の経営問題については後述する。
  つぎに公営についてみると,鉄道営業収益は35年度対比で37年度において17%の増加となつて,私鉄全体の平均を大幅に下回つているが,これは,都市交通の渋滞,とくに路面電車の撤去による輸送実績の低下を反映している。一方鉄道営業費用は29%の伸びであり,その結果,鉄道営業利益率は35年度の0.3%から37年度のマイナス10.2%と大幅な業績悪化となつた。これは他の鉄道事業者と比較して,ベース・アップが高率であり,かつ,東京都大阪市および名古屋市における地下鉄新線建設による減価償却費の増大によるものである。また,兼業の営業成績も,悪化しており,企業利益率は,35年度のマイナス2.6%から37年度のマイナス14.0%へと悪化し赤字がますます増大している。このため,公営企業再建整備が大きな問題となつている。
  営団については,新線の開業と路面交通からの旅客の転移とにより,営業収益は35年度対比で37年度72%の増加となつている。これに対し営業費用は56%の伸びであるから,鉄道営業利益率は30%から364%と好転している。しかしながら,営団の経理は借入金の利子支払を考慮しないでは考えられない。新線建設の促進は,ますまず多額の借入金の導入とそれに伴なう支払利息の驚異的な増加をもたらし,その結果,企業利益率は依然としてゼロにとどまつている。
  以上述べたように,私鉄の営業成績は,35年度と比較して37年度はいずれも低下しており,今後の好転もあまり期待できず苦しい経営が続くものと思われる。


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