3 労働問題


  大手および中小私鉄においては,戦後いちはやく労働組合の結成がおこなわれ,これが全国的な組織に発展するにおよんで,従業員の桂内的地位は著しく向上し,労働条件も国内法規の整備とあいまつて著しく向上した、とくに私鉄総連の組織は年々拡大され鉄道のほかバス,タクシー等交通機関全般を傘下におさめることによつて団結力,行動力が強大となり,未加盟組合にも影響力は波及し,給与改善は全国的に平準化されるようになつた。また公営は全国的組織として日本都市交通労働組合連合会を結成し,戦火で荒廃に帰した路面交通の復旧に協力する一方待遇改善のための闘争を進めてきた。 〔I−(I)−51表〕に示すように,きまつて支給する給与を比較してみると大手および中小私鉄では,3か年間に28%の上昇を示しているのに対し,公営33%,国鉄29%,製鉄27%,産業全体では36%となつている。
  大手私鉄の給与上昇率は中小私鉄のそれより高いものとなつている。しかし,輸送実績の伸びや運賃改訂等もあり,経営が圧迫されているということは少いと考えられる。中小私鉄にあつては給与改善のテンポは労働生産性の上昇テンポを上回つているため人件費の膨脹は経営上の問題点となつている。公営の人件費は戦前から大手および中小私鉄にくらべて高い水準にあつたが現在ではそのひらきが,いよいよ大きなものとなつている。労働生産性が停滞しているにもかかわらず給与は33%の大幅増加となつており,給与の上昇率は鉄道業中最高のものとなり,営業収入に対し人件費が77%も占めるという経営上最悪の状態に陥入つている。このためたとえば東京都においては交通事業の再建方策の一環として給与体系の改善が検討されているが,これは公営鉄道業全般の問題として早晩解決を迫られることになると思われる。
  他産業との比較では,私鉄は製鉄業とほぼ同様の推移を示しているが,交通事業という職務内容の特殊性と,重い責任,しかも勤続年数の長いことなどを勘案すれば,将来にわたつて信頼度の高い良質の労働力を必要とするのであるから,産業全体の給与水準に比べ高い水準にあるようであるが,この程度の待遇は高いものではなくむしろ妥当なものとも考えられる。
  私鉄の従業員数は,37年度末では大手約7万人中小約3万5,000人,公営が約3万人となつている。これはわが国就業人口の0.3%にあたり,国鉄の30%となつている。過去5カ年間に大手8%の就業増加となつているが,中小および公営はほとんど横ばいとなつている。


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