8 内航運賃の適正化


  内航海運の不振は,船腹過剰とともに,運賃の推移にも集中的に見ることができる。内航運賃は 〔II−(I)−19図〕のように,34年以降低迷のまま推移している。

  内航海運の再建策として船腹調整を行なうとともに,標準運賃の設定によつて,過当競争を避け,適正な運賃を収受して企業経営を正常化させることの必要性が指摘されてきた。
  標準運賃は,制度的には木船運送法時代からひきつがれたものであるが,従来は28年に木船の主要9航路6品目について設定されたにすぎず,その後は形式的な改正が一度行なわれただけで,競合関係にある鋼船運賃との関係もあつて,その機能を十分発揮するにいたつていなかつた。昨年の法改正により,標準運賃制度が内航全体に適用されることになるとともに,その重要性,与える影響の大きさを考慮して,40年2月に運輸大臣から海運造船合理化審議会に対し,「内航海運業法による標準運賃の設定及び運用の基本方針について」諮問が出された。
  内航運賃の現状は,一般船運賃,専用船運賃,専航船運賃に分かれ,複雑な形態を示している。ここ数年内航海運界においては,専用船,専航船の比重が増加しており,これを北海道からの石炭輸送についてみると,一般船と専用船,専航船の輸送割合は,36年は46対54であつたのが,39年には31対69となつている。この傾向は,専用船の増加傾向 〔II−(I)−16図〕からみて,さらに増加するものと考えられる。しかしながら,これら専用船,専航船のほか,一般船の数も多く,その運賃はそれぞれ特殊な形態をとつているが,これらの実情をみつつ,他方内航海運業の健全な発達を図るため,標準運賃を設定する必要性が海運造船合理化審議会において検討され,本年6月答申がなされた。その要旨は下記のとおりである,これにより運輸大臣は6月25日運輸審議会に対し「内航海運業に関する標準運賃の設定について」諮問を行ない,現在具体的な運賃額の設定が進められている。
  まず標準運賃の設定については,
 1. 標準運賃は当面内航輸送の基幹ルートであり,大量の荷動きのある次の航路・貨物について設定する。
 室蘭-京浜 石炭
 関門-阪神 石炭
 関門-京浜 鉄鋼
 京浜-阪神 鉄鋼
 関門-阪神 鉄鋼
 京浜-中京 石油
 徳山・下松-阪神 石油
 2. 原価の算定にあたつては,能率的な経営のもとにおける原価を基礎とするものとし,とくに,その重要な指標となる航海所要日数については,能率の目標を加えて算定する。
  つぎに標準運賃の運用については,
 1. 海運組合の調整運賃と密接な関連をもたせる。
 2. 標準運賃設定後一定期間は既契約運賃を認めることとし,その期間後は,標準運賃によることのできないものについては,そのより難い理由を報告させる。
 3. 専用船,専航船については,適確な運賃形態を有する場合は,標準運賃によらないことができること。
  運賃の適正化は,必ずしも運賃額の是正だけの問題ではなく,運賃が低位であつても,稼行率が上昇することは,実質的な収入増となるので,標準運賃の設定に当つては,適正原価という面だけでなく,ランの設定等による稼行率の安定化についても考慮されるべきであるが,この面については海運側の努力もさることながら,荷主側の配船,荷役等についての協力を必要とすることはいうまでもなく,今後関係産業と海運企業の協力による安定した運賃を実現し,経営の合理化に資することが必要である。


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